ゴシックにサイバー要素をプラス 。日本の技術が支える「GURTWEIN」のクチュールライクな服づくり
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ゴシックにサイバー要素をプラス 。日本の技術が支える「GURTWEIN」のクチュールライクな服づくり

リカルド・ティッシ率いるジバンシィ、バーバリーにてデザイン・ディレクターとして支え続けた実力派デュオ、長谷川照洋とウィング・ライが立ち上げた「GURTWEIN(ガーウィン)」。ヨーロッパで体得したノウハウを独自の感性でツイストし、日本のものづくりの技術を融合したスタイルが特徴だ。ふたりのキャリアとブランドの成り立ち、ビジョンとは?

「私たちのルーツにあるゴシックを、サイバーの要素で捻りを加えています」

──ふたりはセント・マーチンズ卒業とのことですが、どんなバックグラウンドからロンドンへ?

長谷川照洋(以下、長谷川)「僕は愛知県出身で20歳の時に渡英しました。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのファンデーションコースで1年学んだ後、セント・マーチンズのウィメンズウェアコースに入学。そこでウィングと出会いました」

ウィング・ライ(以下、ウィング)「私は中国の広東省出身です。小さい頃からファッションが好きで、VOGUE CHINAの創刊(2005年)に衝撃を受けてから、ずっとデザイナーになるのが夢でした。当時は、今と違って入手できる情報がすごく限られていて、新聞や雑誌に載っていたのは、カール・ラガーフェルドやジョン・ガリアーノなど、本当にトップのデザイナーだけ。ファッションの学校についても然りで、シンプルにセント・マーチンズを選び、18歳でウィメンズウェアコースに入学しました」

──長谷川さんはいつファッションに目覚めたのですか?

「実はずっと興味があったのは建築で、本当はAAスクールという、ザハ・ハディドやレム・コールハースを輩出している建築専門大学に入りたくてロンドンを目指しました。ただ、学費があまりにも高すぎて断念。じゃあどうしようと調べて、ピンときたのがセント・マーチンズでした。アレキサンダー・マックイーンやジョン・ガリアーノのようなデザイナーを輩出している。ということは、クリエイティブで自由な感性を受け入れてもらえる場所なんだなと」

──MA(大学院過程)の卒業コレクションでは、LVMHグラデュエート・プライズを受賞されました。

「プライズが立ち上がって1回目の年で、150万円ほどの賞金と、副賞としてLVMH傘下の企業で1年間働ける権利をいただきました。その時の受賞者は3人いて、僕はリカルド・ティッシのジバンシィへ、ピーター・ドゥはセリーヌへ、もうひとりのフランス人デザイナーはディオールへ、という感じ。ジバンシィにはウィングも一緒に来てもらいました」

──ジバンシィではどんなポジションを任されましたか?

「ジバンシィで働き始めて半年ほど経った頃、もっとダイレクトに仕事ができるように新しい部署を作るから、チームを集めろとリカルドに言われたんです。元来、ヨーロッパのメゾンというのは、まずウィメンズとメンズに分かれていて、その下にメインとプレコレクションのチームがあって、さらにプリント、エンブロイダリー、クチュールの部門があるのですが、リカルドはその壁を全部取り払って、僕たちがすぐ隣で働ける形に変えました。

僕たちはデザイン・ディレクターとして、ありとあらゆることを、リサーチも含めてなんでもやりました。できなくても、とりあえずやってみたらできる。いま振り返ると、素晴らしい環境だったと思います。たとえばオートクチュールでこういうことをやりたい、となったら、パリの歴史あるアトリエに見学に行けるようにつなげてくれる人がいたり、社内外の多くの人に助けてもらいました」

──リカルド・ティッシから学んだことは?

「一番の学びはパッションです。リカルドはどこまでも妥協しない人で、コレクション時期には朝5時にフィッティングをするなどは日常茶飯事。ジバンシィのコレクションは年10回、彼はそれを全部自分でデザインしていた。いってしまえば過酷な働き方なのですが、だからこそ会社にはリカルドと一緒に働きたい人だけが残り、集まっていました」

──2018年にリカルド・ティッシがバーバリーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任した際、ふたりも一緒にバーバリーへ。

「リカルドには、本当に良くしてもらいました。クリストファー・ベイリーが去った後のバーバリーを、リカルドがゼロからブランドメイキングしていくのをすぐ近くで見れたことは、すごくいい経験になっています」

「自分たちにできることを、なるべく地域の方と取り組みたい」

──ふたりともいつも真っ黒な装いですね。

「黒は私たちにとって意味を持つ色なんです。セント・マーチンズでお世話になったルイーズ・ウィルソン先生の装いが真っ黒で、ジバンシィに行ってもみんな真っ黒。といっても僕たちは、大学入学の時点ですでにお互い黒かったですけど(笑)。好きなテイストが同じなので、ワードローブもシェアしています」

──ガーウィンも黒のアイテムが多いです。

「さまざまな黒のトーン、たとえばシフォンが肌に重なることで生まれる奥行きなど、ポエティックな黒を大切にしています。あるいはファーやアルパカなどの特徴的な黒」

──ブランド立ち上げの経緯を、改めて教えてください。

「突然個人的な理由で帰国することになり、ロンドンから実家のある愛知に戻りました。ウィングもついてきてくれて、2020年に会社を設立しました。ちょうどコロナが広がり始めた頃です」

──ブランドの構想はもともとあった?

「もちろん漠然とは夢見ていましたが、具体的な計画はありませんでした。それくらいリカルドと働くのが楽しかったというのもあります。コロナで動けなくなった中で、何ができるかを考えました。たまたま地元はウールの名産地。いろんな工場の方々と話していくうち、僕たちがやりたいことに対して、面白そうだねといってくれる人たちが現れて、一緒にやっていこうとなったのがはじまりです」

──現在、どんな体制ですか?

「私たちはチームという意識を大切にしつつ、インディペンデントな働き方をしています。一緒につくっている人たちは全員プロフェッショナルで、個々の能力を最大限に活かせる体制を整えています。様々な方と一緒に働けるようオンラインのシステムも多用しています。メインパタンナーにはメンズテーラードへの高い技術を持つ方にお願いしており、このご縁にはとても感謝しています」

──使っている生地のこだわりを教えてください。

「メルトン、アルパカなどのウールに関しては100%尾州産です。僕たちのデザインに合う限り、なるべく工場さんが抱えている廃棄予定のデッドストックだったり、中途半端で売り物にならないものから選ぶようにしています。自分たちにできることを、なるべく地域の方と取り組みたいという思いがあって。生地も縫製も、お願いしている工場の多くは尾州にあります。

シルクは石川県。昔から続いている織り屋さんのシルク工場にお願いしています。レースや刺繍はもともと僕たちの得意とするところで、フランスのリーバー織機がある工場で、日本産のレースを使ってシャツを作っています」

キーワードは、ポエティック、ゴシック、サイバー

──ガーウィンの服には、今の時代には珍しい緊張感があります。

「90年代のデザイナーにはやはり影響を受けていると思います。僕はアレキサンダー・マックイーンやアルベール・エルバスのランバンでもインターンをしていた時期がありますし、ウィングは、フセイン・チャラヤンやJWアンダーソンの元にいたこともあります。ガーウィンでは、美しいだけの服にはならないように気をつけています」

──ファスナー使いが特徴的です。

「ファスナーを開けると肩をドロップして着ることができたり、着こなしが遊べるので、よく使っているテクニックのひとつです。よくリカルドが言っていた、私たちのすきな言葉に “languid(ラングイッド)”という形容詞があります。イメージとしては、フランスのサロンで気だるいセクシーさを放っているような、ちょっとレイジーなんだけどエレガント。その感覚が好きで、ガーウィンでも大事にしています」

── ゴシックなテイストも、リカルドからの影響でしょうか?

「たとえばテーラードやブラウスは、リカルドの得意分野でしたし、半分はそのスタイルを受け継いでいるといえます。ただし僕たちの場合は、ジバンシィのようなボディコンシャスではなく、ニュートラルなところを狙っています」

──ブランドコンセプトに掲げている、サイバーの由来は?

「AIやオンラインシステム、その表現を使った映画やアニメなど。とても未来的であり現代的な要素だと思っています。コロナ中に見ていた、ネットフリックスの『リーグ・オブ・レジェンド』というゲームを原作につくられた作品のコンセプトや色使いの表現に、コレだ!と思いました。自分たちのルーツにあるゴシックを新しい表現にするキーワードとして、サイバーをコンセプトに加えています」

──サイバーの要素をどのように組み込んでいますか?

「服のシルエットが最も大きく影響しています。細部ではルックブックの撮り方、アクセサリーの取り入れ方、ネオンカラーの差し色など。今シーズンは、服とは全く別のカラーレンジのメタル素材で、ルックブック用にフリンジを作りました。ものすごくツバの長いキャップもサイバーの感覚から生まれています」

ガーウィンの定番服

──日本でのコレクション発表は3シーズン目。どんなプロセスで作っていますか?

「毎シーズン、ショーを組み立てるイメージで、まず50〜60体を考えるようにしています。最大限に広げたところから、不要な部分を削ぎ落としていくプロセスです。メゾンで働いたからこそできる見立ては、僕たちの強みだと思っています。いつもスタートは1枚の写真からです」

──どんな写真ですか?2025SSシーズンの1枚は?

「僕たちのパソコンの中には、15年分の膨大なリサーチアーカイブがあります。今シーズン選んだ1枚は、霧のかかった湖畔で風に吹かれている女性の後ろ姿(ティルダ・スウィントン)の写真。ヘアが顔を覆い、薄いシフォンが風に大きくなびいている姿からインスピレーションを広げていきました」

──ガーウィンの定番、シグネチャーを教えてください。

「まず、ジャケット。クリスチャン・ディオールのバージャケットがインスピレーションになっていて、肩を落とし、ウエストを絞っているのが特徴です。今日、ウィングが着ているのが、前秋冬シーズンにメルトンで仕立てたジャケット。今回は春夏なので、生地を薄く、丈を短くしています。

シャツは、2パターンあります。ひとつはテーラードベースで、ジャケットに合わせられるシャツ。もうひとつはボクシーなシェイプで、より現代的であり、リラックスしたデザインです。イブニングドレスも、形を変えながら続けているストーリーで、毎回レザーとデニムを必ず使っています。シルエット、クラフトマンシップ、ディテールなど、本来得意なこだわりが生かせるドレスは、何より自分たちが楽しんでいるシリーズです。もうひとつ、ハートモチーフ入りのジャージーアイテムも毎シーズン作っています。

──25SSシーズンで新たにトライしたのは?

「常に私たちの持つ女性像のイメージを個々のアイテムとして落とし込むことに力を入れています。25SSシーズンでは、例えば、初めてスカートを作りました。とてもスリムに見えますが、スムーズに歩けます。デザインのイメージとして、イブニングドレスのスカート部分を切り出して、アイテムとして成立させました」

──これからのヴィジョンを教えてください。

「ファッションや美は年齢や世代に問わられないもので、誰もが尊重されるべきだと思っています。この思いをガーウィンとして形にしていきたいと考えています。また、日本で発表する前から、インスタグラム経由でバイヤーさんからDMをいただいたりして、現在は東京をはじめ、さまざまなセレクトショップでも取り扱っていただいています。そういった人とのつながりは、これまで経験したことがなかった部分で、すごく嬉しいし楽しい。ガーウィンだからこそできることを、今後さらに広げていきたいです」

GURTWEIN
URL/https://gurtwein.com/
Instagram/@gurtwein

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Photos:Ai Miwa Interview & Text:Miwa Goroku  Edit:Masumi Sasaki

Profile

ガーウィンGURTWEIN 長谷川照洋、ウィング・ライにより、2023年春夏に本格デビュー。共に2014年セントラル・セント・マーチンズMA(修士課程)修了。第1回LVMHグラデュエート・プライズなどを受賞し、卒業後はリカルド・ティッシ率いるジバンシィ、バーバリーでデザイン・ディレクターとして経験を積む。帰国後、愛知を拠点に日本の伝統的な技術や素材を取り入れ、テーラリングやクチュール技術を融合したコレクションを発表。ブランド名は2人の名前であるTERUとWINGのアナグラム。

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