バービー×小野美由紀 対談「理解も支援も足りない…。切実な妊娠・出産のモヤモヤを考える」
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バービー×小野美由紀 対談「理解も支援も足りない…。切実な妊娠・出産のモヤモヤを考える」

出産を控えたバービーのもとに読者から400件を超える妊娠や出産のモヤモヤが寄せられた。著書『わっしょい!妊婦』で壮絶な妊娠の過程を綴った小野美由紀と一緒に考える。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年9月号掲載)

子どもかキャリアかの二択で考えなくていい

【モヤモヤ1】30歳を過ぎてやっとやりたい仕事ができるようになった頃、子どもが欲しいと思うように。ただ、今の会社では産後復帰したときに同じ職種に就けるかわからず、キャリアが途絶えるのが怖くて、妊娠することの踏ん切りがつきません。(ライスコロッケ 31歳 会社員)

バービー「私も相談者さんと同じく仕事が好きだから、気持ちはよくわかる。でも、子どもかキャリアかの二択で考えなくていいと思うんです。妊娠してみて思うのは、自分でも驚くほどコロコロ考えが変わるということ。もともと私はすごく先まで見通しが立たないと決断できないタイプなんですが、産後は見通しなんて立てられないじゃないですか。妊娠初期は、すぐに仕事復帰したいから早めに粉ミルクにしようって思ってたけど、おなかの子が大きくなるにつれ、できるだけ母乳で育てたい、産んだ後はできるだけ長く一緒にいたいっていう気持ちが大きくなってきました。つまり、ワーカホリック気味の私でさえこうなので、子を持ちたいという気持ちは抑えなくていいと思うんですよね。仕事はどうにかなるぐらいのスタンスで構えてみてはどうでしょうか。小野さんはどうでしたか」

小野「私も出産前はめちゃくちゃ不安で、今も構築中ではあるのですが。子どもが0歳のときは全然働けなくて、自分の年収が半分になって落ち込んだんです。働くことが生き甲斐だったので、このまま仕事が戻ってこなかったらどうしようって思いました。保育園に預けられるようになっても、それはそれで罪悪感を感じるし、でも、仕事もしたいし。引き裂かれるような思いをずっと抱えていましたね。2年目からは『今は子どもと一緒に過ごす時期なんだ』と吹っ切れて、仕事は少なくてもいいって思えるようになったんです。そして今、仕事が戻ってきて、育児との時間のバランスもだんだんつかめるように。だから、バービーさんのおっしゃるとおり、『見通しは立たない。なるようにしかならない!』と腹をくくるのが一番かなって思います。妊娠も子育ても想定外のことばっかり起きますから!」

バービー「ただ、私の場合は産後すぐに仕事に戻らなくても生活ができるよう事前に夫と計画は立てています。相談者さんも今の職場以外で自分のやりたいことができそうなところを視野に入れてみるなど、妊娠を前向きに思えるように可能性を自分で広げるのも大事かなと思います」

妊娠・出産した女性の肩身が狭すぎる現実

【モヤモヤ2】妊娠中、育休復帰後など女性が謝る回数が増えることにモヤモヤします。(匿名 年齢 職業未回答)

バービー「何にも悪いことなんかしてないんだから、謝らなくていい。そう思える人が少ないってことは社会に余裕がないってことですよね」

小野「そうですね。ただ、謝らなくていいと頭ではわかっていても、産前・産後の女性の肩身が狭いというのは、実際にありますよね。そういえば私、このあと子どもを迎えに行くんですけど、こんな透けてる服で迎えに行く保護者っていないんですよ」

バービー「どうして?」

小野「こういうチャラけた服で行くと、『子どもを預けて遊んできたの?』って保育士さんや他のお母さんから思われるかもしれないから。私は気にせず、このままの格好で行きますが、地味な〝ママファッション〞に身を包まないと、居心地の悪さを感じる人もいる。インターとか認可外施設はもっと自由な感じですが」

バービー「そうか。『みんなが入りたがっている認可保育園に預かっていただいている』から、遠慮しないといけないのか。でも、母になったって遊んだっていいし、それを申し訳ないなんて思わなくていいはずなのに」

小野「職場に関しては、妊娠・出産だけじゃなくて、病気や介護のときも休むことに寛容な社会であれば、ここまで罪悪感を感じなくてよくなると思う。今の社会はバリバリ働ける人だけを求めていて無理ゲーすぎる」

バービー「本当にそう。社会構造に問題があるのかしら。母親が謝らなくていい社会をつくっていきたいですよね」

“普通”の母親像が押し付けられることのしんどさ

【モヤモヤ3】私はノンバイナリーですが、マタニティ雑誌や妊活・出産アプリなどは〝普通〞の男女カップルしか想定しておらず辟易しています。以前、妊娠したときに医者から「ママ」と呼ばれたことも。今後もあらゆる面でこうやって女であることを突きつけられ、いろんな不利益を被るのだと思うと、妊娠・出産はやめておこうかと考えてしまいます。(F 34歳 会社員)

バービー「私も相談者さんのように 〝普通〞とされている母親像、家族像にすごくモヤモヤしています。今日助産師面談に行ってアンケートを記入したんですが、育児を手伝ってくれる人の欄に『夫、実親、義親』しか項目がなくて驚きました。シングルマザーや親がいない人はどうするの? ヘテロセクシュアルのカップルだけが子どもを持ち、育児のメインは女親で、男親はその手伝いという認識なの?と怒りが湧いてきて。きっと相談者さんは私以上に行政や病院との関わりの中で怒りややるせなさを感じていらっしゃるのだろうなと」

小野「私も妊娠し出産してからずっと、『子育ては女性がするもの』っていう社会通念を押し付けられている感じがして、すごく嫌。どんなジェンダー、セクシュアリティ、働き方の人にも産みやすい社会になってほしいと切実に思う。フリーランスで働いている女性も当たり前の母親像から外されている感覚があります。バービーさんはステレオタイプの母像に押し込められていると感じることはないですか」

バービー「私はそれが嫌で、必死に予防線を張ってるんですよ」

小野「どういう予防線を?」

バービー「妊娠してから、より攻撃的な服を着るようになりました。先日、攻めたスタイリングのマタニティフォトを公開したんですけど、『母親らしくしろ!』という声がほとんどなくて、「あれ? もうちょっとイケた⁉」って(笑)。これからさらに過激に行こうと思ってます」

小野「いいですね。どんどんママ像を壊していかないと変わらないですもんね。相談者さんも『自分で打ち壊していくしかない。自分が先駆けだ!』ぐらいの気持ちでいたらいいと思います。あと、モヤモヤしたらちゃんと言い返す。私は子育てを“手伝ってくれる” 人の欄に夫と書いてあるのが解せなくて、『夫は主体なので手伝いの項目に含めない』と書いて、紙を突き返しました」

バービー「本当にそのとおり!」

小野「エネルギーがいるけど、声を上げないと変わらないですから」

バービー「そういえば、助産師さんに『旦那さんは育休取られますか?」と聞かれたので、『はい、3カ月』と答えたら、『3カ月もいいわね〜。だったら、家事支援サービスの説明は省略していいかしら?』と言われて、いやいや夫が育休中でも使う権利があるんだから使わせてくださいよ、と思っちゃって」

小野「信じられない。親が二人いたら支援がいらないなんて幻想だから」

バービー「妊娠後期になると、体がしんどくて頭も全然回らないのに、こういう事務手続きとか面談とかやらなきゃいけないことが多すぎる。しかも、家事支援やベビーシッター支援、その他もろもろの産後ケアサービスの窓口がそれぞれ違って、毎回違う助産師さんが出てきて同じ質問に答えないといけないし、それぞれに登録が必要ですごく大変。そこでさらに典型的な家族像にあてはめられた発言を聞いたら、精神的なストレスはもっと大きくなる」

小野「つくづく理解も支援も全然足りていないと感じます」

バービー「小野さんが妊娠中はどんなことにストレスを感じましたか」

小野「私の場合、大変だったのは保活でした。わが家は夫もフリーランスで、子どもが保育園に入れなかったら完全に詰むので、妊娠中から保活をしていたんです。探してみると、保育環境が整った認可保育園は全然空いてなくて。でも、認可外保育施設に通いながら保活を続けても、待機児童から外されるというトラップ。本当に働く女性を支援する気あるの? と思うことがいっぱいで、ストレスフルでした。こういうことが解決しないと、産みづらさは変わらない。やっぱり声を上げたり、行動を起こさないといけない。世に知らしめていかないと、世間の意識が変わることはないんだなって思います」

妊娠・出産は自分が主役のリサイタル!?
妊婦はもっとわがままでいい

【モヤモヤ4】私は現在妊娠中で、12月に出産予定ですが、旦那が飲み会に行くことにモヤモヤ。妊娠してからは感染症が怖くて、快く送り出せません。(ゆいゆい 31歳 専業主婦)

小野「妊娠・出産って自分が主役のリサイタルみたいなもんじゃないですか。だから、もっとわがままでいいと思うんですよ。『私が嫌なことはやらないで!』って夫に言っていいんじゃないかな。実は私も妊娠中、夫とすごくぶつかったんですよ。これまでは二人で仲良くやっていたけど、親になるにあたってやっぱり認識のズレが出てくるから。それで、二人の間では解決できなくなったので、数回カップルカウンセリングに行きました。そこでお互いの理解を深めてチーム結成していった感覚があります。バービーさんはどうですか」

バービー「実は今、一番夫婦仲が悪いんです(笑)。ぶつかる理由の一つが、行政や民間の支援をどこまで受けるか問題ですね。私は行政や民間など、お金を払っても頼れるものはどんどん頼りたいタイプ。そうできるようにこれまで仕事を頑張ってきたつもり。でも、彼は『手続きをするのは自分だし、お金がもったいない。だったら全部自分がする!』って。それで先日、子育ての先輩夫婦に相談しました。先輩は私の夫に『何でも自分でしようと思っても、育児はそうはいかないからね』って言ってくれて、ようやく夫が私の話を聞き入れてくれるようになりました」

小野「第三者を入れて話し合うって大事ですよね。出産・育児って妻にとっても夫にとっても初めてのことだし、わからないことがあるのは当然のこと。女性なんて心も体も別人のようだし、不安も大きくて、夫とぶつからないわけないと思う。だから、出産前に価値観をすり合わせておくことが大事。そうするとその後衝突しても、問題を解決する関係性を構築できるのかなって思います」

 

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Photos:Kouki Hayashi Interview & Text:Mariko Uramoto Edit:Mariko Kimbara

Profile

バービーBarbie 1984年、北海道生まれ。2007年、お笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。数々人気番組に出演するほか、ラジオパーソナリティ、下着開発など多岐にわたり活躍。21年に一般男性と結婚。24年夏に第一子を出産予定。生理の悩みや婦人科系疾患、不妊治療、妊娠など自身の体験を赤裸々に語るYouTube『バービーちゃんねる』も人気。
小野美由紀Miyuki Ono 1985年、東京都生まれ。作家、脚本家、SFプロトタイパー。ライターを経て作家活動を開始。著書に『ピュア』(早川書房)、『メゾン刻の湯』(ポプラ社)ほか多数。35歳のとき、10歳上の男性と結婚。子どもをつくると決め、妊娠・出産までの一部始終を綴るエッセイ『わっしょい!妊婦』 (CCCメディアハウス)が話題に。

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