「NINA RICCI」を率いるハリス・リードが来日。「アーカイブの中だけでなく、リアルな女性たちが大切」
2022年9月、ニナ リッチ(NINA RICCI)のプレタポルテ、アクセサリー、フレグランスのクリエイティブ・ディレクターに就任したハリス・リード(Harris Reed)。メゾンのコードを再解釈した大胆でプレイフルなスタイルは、モード界に新たなエネルギーを吹き込んだ。今回、IZA Tokyoでのポップアップイベントに合わせて初来日を果たした彼に話を聞いた。
──26歳でニナ リッチの新クリエイティブ・ディレクターに抜擢されました。これまでのキャリアを教えてください。
「幼い頃からファッションに興味を持っていました。家のカーテンでドレスアップして遊んだり、母がハロウィンが大好きだったので、私にメイクアップしたり服を着せたりしてくれたのを覚えています。9歳の頃だったと思うのですが、母が身支度をするのを眺めるのが大好きでした。それがファッションに対する最初のインスピレーションだったと思います。
それから約10年前のことになりますが、ロンドンに移住し、セントラル・セント・マーチンズに通いました。在学中には自分の名前を冠したブランドを立ち上げ、たくさんの素晴らしい人に出会い、VIPのためにデザインをしたりと、ブランドを成長させてきました。そこで自分のスタイルを見つけ、自分なりのファッションの解釈を深めることができたと思います。
2022年にはニナ リッチのクリエイティブ・ディレクターに就任し、およそ100年もの歴史におけるアーカイブを掘り下げ、これまでに学んできたことすべてを活かすことができました。私にとってファッションは、常に自分の生き方の一部であり、やらないことは考えられないものだと思います。違った髪の色や、ジュエリー、洋服、ネイルを楽しんでいる人を見るのが大好きなんです。
幼い頃から、私はいつもファッションに夢中で、雑誌をめくってはいろいろなものを見ていました。そして今、ニナ リッチにいることで、私の興奮と学ぶことへの情熱は尽きることを知りません」
──本当に夢の仕事なんですね!
「それに、素晴らしい人たちに出会って一緒に仕事をするのも楽しいです。それはスタイリストであろうと、フォトグラファーであろうと、私のニナ リッチのアトリエであろうと、あるいはアトリエで20年の経験を積んだ人たちがいるようなチームであろうと、一緒に仕事をすることは私にとっては夢が叶ったようなものです。
というのも、ビスチェやブレザーが最も素晴らしい方法で作られるのを見るのは、子供の頃いつも夢中になっていた情熱のようなもの。だから今、そういった人たちと一緒に仕事ができることは、とてもやりがいのあることなのです」
──ニナ リッチからクリエイティブ・ディレクターの指名を受けたときの率直な感想を教えてください。
「信じられないくらい感動しました。ニナ・リッチ自身はもちろん、92年前に創業されたメゾンということ、そしてそんな素晴らしいヘリテージを持っているということに感銘を受けました。私は泣いて母に電話したんです。メゾンの次のチャプターに参加できることに興奮して、とても光栄に思いました。
そして、私にとって、女性に力を与えることをテーマにしているブランドであること、私の母や私の周りの女性たちのような人たちに親しみがあるということは、私の人生の重要な一部です。パリに行って、メゾンを再構築する旅に出るというのは、とても完璧なことだと思ったし、感無量でした」
──ニナ リッチのスタッフやアトリエのクチュリエにお会いしたときの第一印象は?
「皆さんがとてもオープンだったことに圧倒されました。受け入れてもらえるというのは、クリエイターにとって夢のようなことです。アトリエ、チーム、経営陣、みんながネクストチャプターを心から信じてくれました。在籍している女性たちが、この新しい方向性に興奮し、喜びを感じているのを目の当たりにして、本当に感動しました」
──ニナ リッチのコレクションをデザインする上で重要なことはなんですか?
「そのシーズンのミューズや、エネルギー、スピリットが何であるかということを常に考えています。さらに今は、そのお客さんが誰なのか、リアルなニナ リッチガールとは誰なのか、ということも考えています。
そして3シーズン目を終え、4シーズン目に入る今重要なのは、女性たちが素晴らしいスーツやパーティ用のドレスを手に入れられるような、豊富なワードローブを構築することだと思います。
だから私にとって本当に大切なのは、ブランドを生き生きとさせ、活気づけるリアルな女性たちです。パリに2年近く滞在していますが、カフェやレストランで人々を眺めていると、とても感動するのです。なぜなら彼女たちは服を買って、それを纏って、最高な気分になっているのですから」
──今シーズンのおすすめアイテムはありますか?
「アーカイブからインスパイアされたコクーンスリーブのドレスや、背中が大きく開いたリボンディテールのドレスに夢中です。フェミニニティとフルイディティ(流動性)を並列させることが好きなんです。それと、デニムのピースもお気に入り。私にとって最大の挑戦であり、ある意味最大の功績だと思うのですが、デニムのユニークで大人っぽい部分を見出し、それをフェミニンでリッチ、クラシックに見せること。何かを再構築すると言うことは、本当に刺激的です」
──カラーパレットもとても印象的なのですが、色に対してどのような考えがありますか?
「私はいつも黒と白のポップなスタイルが好きです。だから今シーズンも、伝統的なフレンチ・エレガンスにポップな赤や黒を取り入れました。黒と白を使うと、ちょっとフィルム・ノワールのような、詩的でダークロマンティックな、ある意味とてもフランス的な映画のムードになるんです。そこに紫やブルーのようなコントラストのある色を効かせています。ポップな色使いは遊び心があって好きだし、遊び心はニナ リッチというブランドにとってとても重要だと思います」
──先ほど“fluidity”というキーワードが出ましたが、同名の書籍も出版されていますよね。
「私にとって“fluidity”とは、自分のありのままの真実を生きること。人それぞれ持っているものは違うと思うし、既成概念がない世界で生きることが好きなのです。私たちは何かに打ち勝とうとしているわけではありません。ただ、ドレスやジャケットが自分らしいと感じるから手に取るだけです。私にとって、それはただ穏やかな生き方なのです」
──アデルやハリー・スタイルズといったスターにも衣装提供をされています。
「VIPやセレブリティと仕事をする上で気に入っているのは、コラボレーションです。私にとっては、アトリエやデザインチームと毎日コラボレーションしているようなものです。フィードバックを受けたり、何かを前進させることが好きなので、VIPとの仕事は、彼らがどうなりたいというビジョンを持って、ブランドが作り上げた世界を信じて私たちのところに来てくれるので、とても豊かな経験になります。
ドレス姿で歌えるかとか、もう少しグラマラスにしたいとか、もう少しイブニングにしたいとか、そういう基本的なことをめぐる会話をします。私は、遊び心のあるコラボレーションが大好きなんです」
──今回IZA Tokyoでのポップアップイベントを開催されていますが、感想を教えてください。
「ニナ リッチというブランドは、日本、特に東京でとても受け入れられていて、今シーズンのコレクションをこれだけ幅広いラインナップで見ていただけるのは、本当にエキサイティングです。昨日も、買い物をしたり、試着したりする方がたくさんいました。コレクションに対する興奮は本当に圧倒的で、とても好評いただいています。本当に夢のようです」
──仕事をしていないときは、何をするのが好きですか?
「ファッションの世界に戻るために休んだり充電したりしているとき以外は、人間観察をすることが好きです。川辺に座って、人々が歩いているのを眺めるんです。アーカイブや本の中に閉じこもりすぎると、その人が服をどう着るか、ジャケットをどう着るか、街をどう歩くかというリアルさが失われてしまうと思うから。だから私にとっては、リアルな女性、リアルな人々、そして彼女たちがどのように服に接しているかが重要なんです」
NINA RICCI 2024-25AW POP-UP EVENT AT IZA
会期/2024年7月4日(木)〜8月4日(日)
場所/IZA Tokyo
住所/東京都港区南青山5-8-3
TEL/03-3486-0013
Interview & Text: Yukiko Shinto