夏のスイスアルプスを遊び尽くす! 『愛の不時着』のロケ地巡りも
なだらかな緑の斜面に岩峰と氷河、ターコイスブルーの湖水が鮮やかに輝き、見事なコントラストをなすアルプの森……スイスは6月から10月まで夏季のベストシーズンを迎えます。スイスといえば、かつてアルプスの少女ハイジだったイメージも、アフターコロナは韓ドラ『愛の不時着』のロケ地観光が大流行。そして今年の夏、そろそろブームも落ち着いた頃に、もう一度ドラマを見直して聖地巡りはいかがでしょう? 想像をはるかに超えるドラマチックな大絶景が待っています。
登山のみならず最新アトラクションも人気のユングフラウ地方
今回旅したのは、スイス山岳観光でもっとも人気の高い「ユングフラウ地方」。スイスアルプスの観光エリアは大きく分けると、世界に名高いアルプス三大名峰アイガー(3,967m)、メンヒ(4,110m)、ユングフラウ(4,158m)が連なる中央の「ベルナー・アルプス」(ユングフラウ周辺エリア)と、ピラミッド型の雄峰マッターホルン(4,478m)やスイス最高峰モンテローザ(4,634m)などの山々からなる南部の「ヴァリス・アルプス」(ツェルマット周辺エリア)があります。前者のユウグフラウ地方はチューリヒやベルンからのアクセスが良く、国際的リゾートの街インターラーケンを起点とする鉄道路線も充実していることから、古くからアルプス観光の中心地として栄えてきました。日本人には特に人気のスポットです。
ユングフラウ(処女峰)という名は、かつて登頂の困難な山であったことに由来しますが、今から200年以上昔の1811年にスイス人マイヤー兄弟が登頂に成功。その100年後1912年には、岩壁をくり抜き全長7.1kmものトンネルも掘られ登山鉄道が登場しました。日本の大正元年のことです! 各地を縦横無尽に結ぶベルナーオーバーラント鉄道や、歴史あるクラシックな登山鉄道、山の頂上まで一気に運んでくれるハイテクの最新ゴンドラリフトまで乗り物好きにはたまりません。
スイスきっての一大観光地だけあって、4つの人気展望台を訪れて大絶景を堪能しながら、ハイキングや岩登り、グライダー型やブランコ型のジップライン、サンセットにはチーズフォンデュと白ワインのディナーや湖でのディナークルーズ、瀟洒なインターラーケンの街を馬車で巡ったりと、多彩なアクティビティを楽しめるのがユングフラウ地方ならではの魅力です。
ジョンヒョクの音楽学校ロケ地「グランドホテル・ギースバッハ」はブリエンツ湖イチの景勝地だった!
ユングフラウ地方の旅の拠点となるインターラーケンの街は、ブリエンツ湖とトゥーン湖の2つの湖に挟まれてあり、その南側にアルプスの山々が聳えています。今回はトゥーン湖沿いのグワット・バイ・トゥーン(Gwatt bei Thun)という町に滞在しました。写真はトゥーンの中心街。
『愛の不時着(Crash Landing on You)』。言わずと知れた、韓国ドラマの金字塔を打ち立てた超大ヒットドラマです。二度、三度見ても、分かっているのに一気見してしまう目が離せないストーリー展開。北朝鮮軍人たちと韓国財閥令嬢との会話のやりとりの可笑しみ、南北境界線が隔てる切ない恋の行方、カーチェースあり、そしてスイスアルプスの大自然の中でのパラグライダーシーンほか、すべてにおいて改めて世界を魅了するに値する秀逸なドラマであることを実感させられます。そしてこのドラマを見る度にスイスに行きたくなりませんか。
ドラマのもっとも重要な回想シーンといえば、主人公リ・ジョンヒョクがスイスを離れ北朝鮮に戻る直前、ピアノを弾いていた桟橋。「イゼルトヴァルト(Iseltwald)」というブリエンツ湖沿いの小さな村にあります。初日、トゥーン湖からブリエンツ湖への移動途中に位置していたこともあり、ぜひとも見ておかねばと出発前から心待ちにしていたロケ地。すべてがエメラルドグリーンの世界! 鳥のさえずりと平和に満ちた穏やかな湖、ジョンヒョクの弾くピアノが響いてきそうです。
この日の午前の重要な見どころは、主人公リ・ジョンヒョクが過ごした音楽学校という設定でロケ地となった「グランドホテル・ギースバッハ」でした。イゼルトヴァルトから湖沿いを北東へ車で20分ほど行くと到着します。ノスタルジックな佇まいを見せるこのホテルは、フレンチバロック様式のホテルとして1875年に開業。22ヘクタールという森林公園と庭園を抱える広大な敷地内にあります。
まずは、森林に囲まれた約3.7キロのトレイルを散策し、アルプスの山々からブリエンツ湖へと流れる水が14層の滝になった「ギースバッハの滝」を見学。その中になんと滝の岩壁の道に入り込んで、滝の飛沫の向こうにグランドホテルとブリエンツ湖を見る「裏見の滝」なるものがありました。
こちらが、『愛の不時着』のロケ地で使われたグランドホテル・ギースバッハのエントランス。
素晴らしいのはホテルレストランの眺めの良いテラス席。ギースバッハの滝ビューと、ブリエンツ湖ビューがあり、伝統料理ミートローフやステーキなどがいただけます。ちなみに野菜の多くは自家農園で栽培されたオーガニック。きっとヒョンビンも、ここでお茶か食事をしたはず♡……そんな想像もロケ地巡りの醍醐味でしょう。
このギースバッハバーンは1879年にできたヨーロッパで最も古い急勾配のケーブルカーで、グランドホテル・ギースバッハの宿泊客がブリエンツ湖の船着場のわずか約190mを移動するためだけに作られたそう。当時どれほど人気のホテルだったかが伺えます。
Grand Hotel Giessbach
住所/3855 Brienz
www.giessbach.ch/en
汽船で対岸へ渡り、インターラーケンへ行く途中にあるブリエンツ湖周辺は古くから木彫りの里として知られるエリア。ここで木彫りや色付け体験ができる「トラウファー・ワールド・オブ・エクスペリエンシス(2022年6月開業)」に立ち寄り、上写真のような牛たちのミラクルなお部屋を見学することもできます。
Trauffer World of Experiences
住所/Holzkuhplatz 1, 3858 Hofstetten bei Brienz
https://en.trauffer.ch/
インターラーケンの街は、さすがに世界を代表する山岳リゾートだけあって、おしゃれな印象です。インターラーケンの住宅地を馬車に乗って巡るツアーもあって、意外にこれが楽しめました。土地の気候に合った山岳地帯の住宅建築が興味深く、アーレ川流れるインターラーケンの瀟洒な中心街も素敵です。
馬車観光ツアーReitschule- und Kutschenbetrieb Interlaken
住所/Scheidgasse 66, 3800 Unterseen
https://reitschulevoegeli.ch/85
ユングフラウ地方の4大展望台から見る大絶景~感動のフラワートレイルハイキング
ユングフラウ地方には4つの展望台があり、さまざまな角度からベルナー・アルプスの絶景を楽しめるようになっていました。さすが観光立国スイス。
ヨーロッパアルプス最大のアレッチ大氷河を望む「ユングフラウ展望台」
標高3454m、ヨーロッパで最も高い場所にある鉄道駅がユングフラウヨッホ駅。この駅からエレベーターで上がったところに「スフィンクス展望台(3,571m)のある、ユングフラウヨッホ トップ・オブ・ヨーロッパ」があります。
ユングフラウヨッホ トップ・オブ・ヨーロッパの最大のみどころは、4,000m級の山々が連なる世界自然遺産アレッチ氷河を中心とする「ユングフラウ・アレッチ地域」。ヨーロッパアルプス最大・最長の氷河は、全長が約23km、氷の厚さが約900m。夏の山の天気は変わりやすく、この日は麓は晴れていても、あいにく頂上は曇っていました。サハラ砂漠から飛んでくる砂で氷河が少し茶色になっている部分も見られました。
アレッチ氷河の30m地下には「氷の宮殿(アイスパレス)」と呼ばれる氷の地下道が続いていて、なんとアイスバー(※要予約)まで存在します。しかしながら、1980年代以降からユングフラウ地方の平均気温が1.5~2度上昇しているそうで、北極の氷と同様、氷河が溶けだしているところもあるとのこと。現地のガイドさんによると、氷河が溶けると落石も多くなる、つまり山も閉鎖しなくてはならないという話も聞き、地球温暖化で山も悲鳴を上げているという現実を目の当たりにしました。
この展望台も『愛の不時着』のロケ地として使われています。ロケ地になった場所にはこのように必ず登場場面の写真と「Crash Landing on You」のフォトスポットが設けられています。上写真はクライネシャイディック駅のスポット。
アクセスは高速ゴンドラ「アイガー・エクスプレス」と「ユングフラウ鉄道」で
コロナ禍の2020年12月にお目見えしたゴンドラリフト「アイガー・エクスプレス(26人乗り)」は、新設されたグリンデルワルト・ターミナル駅とアイガーグレッチャー駅までの全長6,483mをなんと15分で結びます。毎日メンテをしているというこのゴンドラに乗り、終点アイガーグレッチャー駅から頂上のユングフラウヨッホへは、1912年に開通したユングフラウ鉄道に乗り換えて26分。途中で「アイスメーア(氷の海)」に下車して撮影タイムもあります。
不時着パラグライダーの名場面が甦る「フィルスト展望台」
今回の旅でもっとも胸を打たれた大パノラマの絶景がここにありました。『愛の不時着』の最後のクライマックスシーンで出てくるパラグライダーのあのロケ地です。ユングフラウ地方の観光拠点グリンデルワルトからロープウェイで上っていきます。グリンデルワルトはアイガー北壁とヴェッターホルンを望む、ユングフラウ地方の観光拠点。
ユングフラウ、シュレックホルン、フィンスターアールホルンのパノラマスポットにもなっています。
アイガー北壁にいちばん近い展望スポット「フィルスト・クリフウォーク」からの眺めが最高です。突端のフォトスポットまでは行列ができていますが、この絶景の中での待ち時間ならばほとんど気にならないはずです。
フィルストでは、800mの空中ルートを最高時速83kmで駆け抜ける4人乗りの「フィルストグライダー」が超人気のアトラクション。鳥のように手を広げて寝た状態で乗り物にのるのは実にスリルに満点です。フィルスト・フライヤーも人気。写真はフィルスト展望台のレストラン。
(左)ユングフラウならではの山のチーズのサラダ
(右)定番のアルプス地方のスイス料理アルペンマカロニ(リンゴソース添え)
ベルナー・アルプス全体を見渡す花の楽園「シーニゲ・プラッテ」展望台
インターラーケンの隣町ヴィルダースヴィルからレトロな登山列車シーニゲ・プラッテ鉄道に乗り込み、ガダゴトと急勾配を上って森と湖の風景を楽しんだ後、長さ162mのグレェィトリ・トンネルを抜けると最大のビューポイントが。
少し雪をかぶったアイガー、メンヒ、ユングフラウの3つの山が次々に目に飛び込んできます。
登山鉄道の終点は標高1967mのシーニゲ・プラッテ山頂駅。ラウターブルンネン渓谷やグリンデルワルトの村、トゥーン湖など360度の大パノラマが展開します。展望台周辺はアルプスに生息するほとんどの植物約800種が見られる高山植物園となっていて、山々の景色と可憐な花々は天空の楽園、そんなイメージです。
ユングフラウ地方のなかでも、アルプスの眺めと高山植物の両方を楽しめるシーニゲ・プラッテは古くから人気で、1893年にいち早く登山鉄道が開通したそうです。今上天皇が訪問されたことでも知られています。
雄大な山と谷の大パノラマを眼下に、名物チーズフォンデュをいただく「ハーダー・クルム」展望台
ハーダー・クルムは、インターラーケンの街からケーブルカーで10分、街の北側にあるハーダー山頂から眼下にブリエンツとトゥーン2つの湖、インターラーケンの街、正面にはアイガー、メンヒ、ユングフラウの3山を含むベルナー・アルプスの山々の眺望が望める人気の展望台。
アールヌーヴォー様式の歴史的レストランがあって、スイス名物のチーズフォンデュと白ワインを堪能できます。
最大のハイライトは、アルプスのお花畑でハイキング
前述のユングフラウヨッホへいく途中の、アイガー・エクスプレスの終点「アイガーグレッチャー」から「クライネシャイディック」までは、‘ユングフラウ・アイガーウォーク’と呼ばれるトレイルコースとなっていて、ハイキングしながら下山できます。夏のシーズンには高山植物に囲まれたコース。ここのみならず、スイスアルプスには、初心者から中級、上級者に向けたたくさんの絶景ハイキングコースが用意されているのです。「クライネシャイディック」も愛の不時着のロケ地として登場していますのでお見逃しなく。
歩き始めてすぐ背後に聳えるアイガー北壁の大岩壁に圧倒されながら進むと、左手にはさらに、ユングフラウヨッホの真下にあった山々が、氷河を湛えて別の顔を見せています。
岩壁のところどころに小さな滝が流れていて、今にも流れ落ちてきそうな氷河は不思議な光景です。
そのあとは、色とりどりに咲き乱れる高山植物を愛でながら、カランコロンという牛の鈴の音や鳥のさえずりを聞き、さわやかな空気と夏風に吹かれてこの上ない幸福な時間を過ごしたことは言うまでもありません。
アルプスの大自然を大切に守りながら、土地の景観を最大限に生かし、最先端技術を取り入れながら世界の旅人を感動させてくれるスイスの観光産業。そんな成り立ちや歴史を学んでみたいと思わせてくれた今回の旅。生きるのが辛くなり安楽死を求めてスイスを訪れ、施設スタッフに「まずは観光を楽しんでください」と旅行パンフを手渡された『愛の不時着』の主人公、財閥令嬢ユン・セリ。きっかけはどうであれ、ぜひとも一生に一度はこの壮大なアルプスの大絶景を見て、地球のパワーと愛を感じていただきたいです。
宿泊したホテルはこちら
ホテル・デルタパーク・ヴィタルリゾート(Hotel Deltapark Vitalresort)
トゥーン駅から車で約10分、日本にはまだほとんど紹介されていない、トゥーン湖畔の静かなリゾートホテル。室内プールやドライ&ミストサウナなどスパ施設も充実し、食事もおいしく寛げます。
住所/Deltaweg 29, CH-3645 Gwatt bei Thun
https://en.deltapark.ch/
取材協力/
ユングフラウ鉄道グループ www.jungfrau.ch/en
インターラーケン観光局 www.interlaken.ch/en
スイス政府観光局 www.myswitzerland.com/ja/
Photos & Text: Sachiko Suzuki(Raki Company)