シルバーを愛するデザイナーが作る、黒いドレスに似合うジュエリー | Numero TOKYO
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シルバーを愛するデザイナーが作る、黒いドレスに似合うジュエリー

ジュエリーブランド設立から、10年を迎えようとしているASAMIFUJIKAWA(アサミフジカワ)。シルバーの魅力を存分に活かした重厚感と、相反するセンシュアルなデザインで人気を博している。ジュエリー、シルバーへのこだわり、母になったことで変化した動植物への視点について、デザイナー、フジカワアサミが語る。

——ジュエリーデザイナーになる前は、どんな活動をしていたのですか。

「文化服装学院を卒業した後に、スウェーデンに3ヶ月ほど滞在し、その後イギリスへ。6年間住んでいたのですが、スタイリストのアシスタントやセレクトショップで働いたりしていました。当時は、いろいろなことに興味を持っていたので、現地ではアートや写真なども学びました」

——ロンドンで生活して価値観に変化はありましたか。

「ロンドンでは周囲の友人たちが、まだ経済的に成功していなくても、自らデザイナーや建築家を迷いなく名乗っていたことに驚きました。クリエイションへの取り組み方やクリエイターとしての姿勢には影響を受けたし、生き方を学んだと思っています」

——ジュエリーデザインを始めたきっかけは?

「ファッションデザイナーのアン・ドゥムルメステールが好きで、特に5連リングのデザインに影響を受けました。WERKSTATT MUNCHEN (ワークスタットミュンヘン)というジュエリーブランドのデザイナーKlaus Lohmeyerが、ANN DEMEULEMEESTERのジュエリーデザインをしていた時期があるのですが、すごく素敵で。“こんなジュエリーを作ってみたい”と思い、独学でジュエリーを作るようになったんです。最初は、趣味の延長で、日本に帰国してから本格的にブランドをすることになりました」

左:2024SS イメージビジュアル 右:2023AWイメージビジュアル

——アン・ドゥムルメステールのどういったところが好きなのでしょうか。

「ダークでシックなテイストに惹かれました。あとは、たいてい裾丈は長身の人でも着られるよう長めでしたが、彼女自身が小柄だったこともあり、丈詰めしてもかっこよく見えるバランスに作ってあると聞いたことがあって。実際に服をまとってみて、多々共感することがありました。トレンドに左右されすぎないスタイル、本当に自分がいいと思うものだけを形にして世に送り出しているアプローチの仕方も尊敬しています。いまはデザイナーを引退されて、パートナーと農園をされているそうで。そんな時間の過ごし方にも、彼女らしさを感じます」

——ファッションではなく、ジュエリーを選択したのはなぜですか。

「実は学生時代から洋服のデザインにはあまり興味が持てなくて(笑)。洋服を着ること自体は好きでしたが、あまり立体物には見えなかったんです。家具やスカルプチャーの方に魅力を感じていましたね。もっと彫刻のような立体物を作ることに興味があったんだと思います」

——ジュエリーブランドを立ち上げた原動力は何でしたか。

「“自分が身につけたいアクセサリーを作りたい”と思ったのが始まりでした。プレーンなシルバーのアクセサリーで、ボリュームはあるけど、メンズライクすぎないものというコンセプトは最初からありました。本格的にスタートしたのは2015年に日本に帰国してから。最初の1年間は運営がなかなか難しかったのですが、モデルをしている友人が着用した写真をインスタグラムにアップしてくれたことからフォロワーが増えていき、知ってくださる方が増えました。当時はまだ、今ほどインフルエンサーがいなかったので驚きました。直後に伊勢丹の合同ポップアップに声をかけていただき、出店しました。ファーストコレクションは、1点のみ。いまはもう展開していないのですが、3連リングを作りました。一本勝負でいこうと思って(笑)。どこかアン ドゥムルメステールの5連リングへの思いもあったのかもしれません」

——ASAMIFUJIKAWAのジュエリーの特徴を言葉で表すと?

「シンプル、ミニマル、女性的な曲線美でしょうか。ブランドコンセプトは、“ATTENTIVENESS TO SIMPLICITY”。直訳すると、“シンプルさへのこだわり”です」

——デザインのインスピレーションはどこから得ているのですか?

「日常で見つけたもの、これまで生きてきて見たものや感じたものの蓄積や記憶から掘り起こしていくことが多いです。だいたい頭の中にあるぼんやりした抽象的なもので、それらをかけ合わせていってイメージを膨らませていきます。モチーフ選びもその延長です。 女性像はないのですが、黒いドレスに似合うジュエリーを作りたいという思いは常に念頭にあります。シーズンごとにテーマが異なるので、スタッフやお客様に『新作がASAMIFUJIKAWAっぽい』って言われて、ブレていないと確認できると嬉しいですね(笑)。」

2024AW コレクション イメージビジュアル

——24AWのコレクションテーマは「歪み」ですが、どのようなストーリーはありますか。

「Distortionシリーズは、とある美術館でインドのアーティストの作品を鑑賞した際に、ヒンドゥー語の文字の形に面白さを感じ、文字をコレクションに取り入れたいと思いました。いろいろとリサーチを進めていくうちに、象形文字にたどり着いたんです。その中で、視覚的に形が美しいと思ったいくつかの文字をリングやピアスにデザインに落とし込みました。そういった、個人的な日々の気づきをジュエリーに取り入れるのが好きです」

——ジュエリー制作の行程を教えてください。

「ワックスを使って型を作り、高温で溶かした金属を流し込んで固めるキャストという方法で製造しています。ワックスは硬いものを削っていく作業なのですが、石塑粘土でデザインの模型を作るのが好きです。最初から柔らかいので、曲線や形を探求できる自由度が高いんです」

——デザインはどうやって考えるのでしょうか。

「いろんなパターンがあります。自分の頭の中にあるイメージを具現化するように形成していく時、一方で粘土をこねてながら時間をかけて形を探求していく時もあります。24SSのテーマ“歪み”は、手の遊びから線を歪ませることの面白さを見つけました」

ヴィンテージの懐中時計にヒントを得て、オニキスを使った玉状のTimepiecesシリーズ

——シルバーにこだわる理由はありますか。

「素材としてしっかりしているのでシルバーを選んでいます。ゴールドの展開もありますが、ないモデルもあります。色石とかにはあまりない興味がなくて、今後はもっとオニキスの魅力も極めていきたいです」

——ジュエリー作りは独学だそうですが、学ばなかったからこその強みはありますか。

「量産は、ご夫婦でやっているキャスト(鋳造)屋さんにお世話になっていて、東京・御徒町の彫金師を紹介していただいて以降、ずっと一緒にお仕事しています。その方に『彫金を学んでないからこそのアイデアがある』と言われたことがあります。というのも、アンモナイトの指輪を作ったとき、重くてつけられないという問題がありました。『作るのは無理だよ』と言われても、なんとか形にできないかと懇願して。ご指摘や意見をもらって解決策を見つけ商品化ができた経緯がありました。ジュエリー作りは、ほぼ独学でやってきたので、正攻法を知らないが故の新しいアイデアはあるかもしれません」

アトリエ近くに広がる山梨の自然の景色

——現在、活動拠点を山梨県に移されていますが、理由があるのでしょうか。

「自然が身近にあることと、山梨県は宝石の町と言われていて、ジュエリー作家や職人が多いんです。石をカットする職人さんとの出会いもありました。これまで、石のカットからデザインしたことはなかったので、カットデザインからオニキスのジュエリーを作ってみたいですね。ワインも好きなので、いつかワイナリーをできたらと思っています」

——ジュエリーデザインをしてきた中で、欠かせないアイテムを教えてください。

「ジュエリーブランドをやっていこうと決めたときに、ロンドンで出合った本です。『ART AS JEWELLERY BY CALDER to KAPOOR by Louis Guinness』というタイトルと表紙の美しさで購入しました。ジュエリーを作っている人のジュエリーではなく、アーティストが作るジュエリーがテーマです。 “創作物を作る人になるか、粗悪品をつける人になるか”という意味だと解釈しているんですが、オスカーワイルドの言葉で始まります。絵画の中の女性が身につけているジュエリーも参考にしていますね。置いているだけで美しいもの、彫刻やアートピースのようなものが作りたいという思いが強くなった一冊です」


お気に入りは、パブロ・ピカソのネックレスのページ。「装飾品というよりもアートピース、まさに身につけるアートですよね」

イメージビジュアル撮影の舞台裏。ピエール・ジャンヌレやハンス J.ウェグナーのYチェアなど名作家具

——他にこれまで影響を受けてきた人やものはありますか。

「リラックスしたデザインの南欧テイストも好きです。パブロ・ピカソのアトリエや住居、ピエール・ジャンヌレの家具、現代作家ですと、Caroline Wallsの作品が一番好きで、いいなと思っています。他には、Pandoras Jukeboxという名義でも活動するヤスミナ・デクスターという女性のDJ・ミュージシャン。彼女はファッションショーの音楽を手掛けることもあります。アンビエントテクノが、ラグジュアリーブランドのテイストにも合っていてかっこよかったです」

——最近、新たに気になっていることは?

「これまで、博物館やギャラリーへは好きなアーティストのエキシビジョンに行くことが多かったのですが、最近は子供が喜びそうなてエキシビジョンに行くことが増え、日常に当たり前にあって目に留めてこなかった物事を身近に感じるようになりました。子どもから新しいヒントや自分の引き出しにはなかった視点をもらっています。思えば、世の中の形や柄、ほとんどのものの大元は自然界の形に影響を受けているのかもしれません。人工的な直線より有機的な曲線を好むのも、自然なことなのかなと」

「また、最近、興味が増しているのは、フードです。フードスタイリングのような見せる食べ物が、コンセプチュアルにアップデートしていく感覚に興味があります。いつか自分で野菜や植物も育ててみたいなと思っています」

ASAMIFUJIKAWAのジュエリーコレクションを紹介

Knotシリーズ

「紐の形状にインスパイアされました。ランジェリーやシューズに付属しているストラップや紐の繊細でとても女性らしいディテールを表現しています。少し肌に食い込む感じや結んで留めるところにセンシュアリティを感じて。ブレスレットは、実際にリボンを手で触って、結んだり絡ませたりしながらできたデザインです。手の遊びの中で、たすきをかけるように一本付け足したバージョンのデザインもあります」


Shellシリーズ

「生き物や植物からアイデアをもらいました。4歳の息子とよく博物館を訪れるのですが、貝や昆虫の形に純粋な面白さを感じます。博物館で貝を見てから標本を買ってフォルムの研究してデザインを考えたのですが、どのデザインも一つの巻貝から派生したデザインです。見る方向によって、フォルムが変わるのでそれをShellのダブルフィンガーのリングとBig Shellのイヤリングの形に落とし込みました。」


Beansシリーズ

「現在、山梨県に住んでいますが、とても自然が豊かな場所なんです。都会で暮らしていたときは、植物や野菜の形にあまり目を向けることがなかったのですが、Beansシリーズは、そら豆から着想を得て作りました。さやの大きさや形が様々でも、実際に開いて中身を取り出すと、同じ形の豆が複数出てくるのが面白くて。その規則性みたいなものを形にしたくて、つなげたデザインにしました」


2023年までオープンしていたショップ


花をモチーフにしたSeed、Petal、Steamコレクション

Seed、Petal、Steamシリーズ

「花の種と花びら、茎をモチーフにしています。2023年まで実店舗をやっていたのですが、装花を親しい花屋さんに頼んでいました。そのアレンジを見て、アンスリウムやユリなど、好きな花が増えたんです。そんな実体験から派生したシリーズです」

Puzzleシリーズ

「2018年に実店舗のオープンに合わせて作りました。チェーンのアイテムは、鎖の一つ一つのピースからデザインしたいと思っていました。このチェーンは、レモンとパズルのピースのモチーフの連なりで。どれも型を使って一個ずつしか作れないのですが、その技術が面白いと思って作りました。まとめて作れないので、ちょっとだけ個体差もあるのも魅力です」

ASAMIFUJIKAWA
URL/https://www.asamifujikawa.com/

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Photos:Kouki Hayashi, ASAMIFUJIKAWA Interview&Text:Aika Kawada Edit:Masumi Sasaki

Profile

フジカワ アサミAsami Fujikawa 2009年に文化服装学院を卒業後、渡英し、ファッション業界で働きながらファッションやアートを学ぶ。2015年に帰国後、フリーランスのジュエリーデザイナーとして活動。その後、ジュエリーブランド「ASAMIFUJIKAWA」をスタート。ブランドの世界観をインスタレーションでなど表現し、アーティスティックなブランディングを行う。

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