デニムブランド「ITONAMI」共同代表の山脇耀平に聞いた、 トップメゾンが信頼を置く岡山デニムの魅力とは?
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デニムブランド「ITONAMI」共同代表の山脇耀平に聞いた、 トップメゾンが信頼を置く岡山デニムの魅力とは?

日本のデニム産業は国内のみならず海外のメゾンブランドからも絶大な支持を得ている。特に国内発祥の地である岡山デニムの注目度は熱い。そこで岡山県倉敷市に拠点を置くデニムブランド 「ITONAMI」の代表取締役・山脇耀平に、歴史的背景と世界を魅了する理由について話を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年7・8月合併号 拡大版インタビュー)

岡山デニムの誕生は必然だった?


──まず岡山デニムの始まりから現在に至るまで、どのように進化を遂げていったのでしょうか。

「発祥の地である倉敷市児島地区はもともと離島でしたが、江戸時代に新田開発が進み干拓が行われ陸続きになりました。しかし、埋め立て地は塩分濃度が高く農業に向かなかったため、塩分に強い綿の栽培が始まり繊維産業が盛んになりました。その後、足袋の生産をはじめ昭和に入ると学生服の生産へと発展。第二次大戦後に産業が傾きかけた頃に、一つの会社がアメリカからジーンズを持ち帰り、国産ジーンズ産業の取り組みがスタートしました。実現できたポイントは2つあり、1つは学生服の生地は分厚いので一般的なミシンよりも太い針を使用しており、ジーンズにも適していたこと。もう1つは岡山県と広島県は藍染め文化が盛んで、インディゴ染料の取り扱いにも慣れていたことが挙げられます。特にライバルの産地が国内にあって岡山や広島が生き残ったわけではなく、最初からこの地域で誕生しそれが60年ほど今でも続いているんです」

海外のメゾンブランドに支持される理由とは?

──世界のメゾンブランドのデニムも主に岡山を中心とした日本デニムで製作されています。日本デニムのどのような点がメゾンブランドに支持されているのでしょうか。

「主にヨーロッパのブランドからの支持が厚く、ヨーロッパではもともと作業着のようなタフで力強いジーンズはあまり使われておらず、糸も滑らかで細い光沢感のある素材を使用した日本のジーンズが注目されたのだと思います。また日本の会社も生き残りをかけてコットン以外にもシルクやウール、テンセルなど異素材を組み合わせた新素材を開発しているので、世界各地でもあまり見たことのない、きれいめな生地が評価されているともいえるでしょう」

──生地の良さがメゾンブランドとマッチしたというのはありそうですね。

「特にヨーロッパからユニークな素材が支持されていると思います。あとは日本のものづくり全般においてですが、日本人の真面目さや仕事の大小関わらず手を抜かないという仕事の姿勢は賞賛されるポイントです。日本は先進国で人件費の部分では高い部類に入るのでたくさん量を作る部分では勝負していませんが、本当にきちんと丁寧に行うという部分が高く評価されています。僕自身も岡山県を訪れて初めて工場に行った際に、コツコツ真面目に作業されている職人さんの姿に感銘を受けた一人なので」

──山脇さんがご自身のブランドを立ち上げた2015年当時から状況は変わっていないですか。

「そうですね。その当時からパリで開催される世界最高峰のテキスタイルを中心とした国際見本市『プルミエール・ヴィジョン・パリ』で、僕たちの取引先の一つの会社も受賞されていましたし、ヨーロッパ中心ですが輸出したりブランドの縫製や加工を請け負ったりしていました」

アパレルやデニムの宿、サステナ活動など……。
デニムブランド「ITONAMI」の取り組みについて

──ご自身のブランド「ITONAMI」を立ち上げたきっかけについても教えてください。

「初めは僕と弟の二人で立ち上げたブランドで、僕らはもともと兵庫県出身ですが、弟が岡山県の大学に通っていたことがきっかけで、岡山県のものづくりの素晴らしさを知りました。デニムは好きなものの一つではあったのですが仕事にするとは考えていなくて。ですが、初めてデニムの工場を見せていただいた時に、ものづくりの面白さや歴史的な背景を知り、この日本文化を次の時代に続けていくために力になれたら嬉しいなというところから活動をスタートしています」

──「ITONAMI」という名前にはどんな意味が込められていますか。

「『ITONAMI』という名前は3つの意味があって、一つは生活の営みに関わるという『営む』という意味。2つ目は繊維産業である“糸と海の波”をアイデンティティとして持っているという意味。3つ目は意思から波を起こすということで、“意 to 波”という意味が込められています。職人さんのものづくりへの思いと、僕たちの作りたいものや見つけてもらいたいという個人の意思が波として繋がって伝わるというのを大事にしたいと思っています」

──昨年は韓国ブランド「Leje」とコラボレーションし、代々木上原のセレクトショップ「DELTA」の別注アイテムとして販売されていましたね。

「僕たちは一般の方から不要になったデニムを回収して原料の状態に戻し、再資源化して新しいデニムにする『FUKKOKU』という取り組みを行っています。DELTAさんとも一緒にデニムを回収していて、DELTAさんから取り扱いブランドとコラボレーションという形で打ち出したいというお話があり実現しました。Lejeさん側からデザインが届いて、それを元に再資源化したデニムを使用して岡山の工場で製作するといった流れです。特に細かいオーダーはなかったのですが、元のデザイン自体がとてもユニークだったのでとてもやりがいのある取り組みでした。

ファッション産業ではサステナブルの視点が当たり前になっている中で、僕たちは作り手だけがリサイクルを頑張っているというだけでなく、消費者にも関わってもらうことでちょっと特別なものになってもらえたらなと思いました。着てもらう人の実感につながらなければ、持続可能な取り組みにならないと思っています。

他にもデニム産業を盛り上げることであれば色々な切り口があって良いと考えていて、“泊まれるデニム屋”をコンセプトとしたショップ併設の宿泊施設を作りました。また宿泊目的で違う層の方々にも来ていただけるので、自分たちのデニムの魅力や岡山デニムの歴史的背景も知ってもらえるきっかけの場所になることを願っています」


──工場の方との信頼関係がとても大切ですね。

「そうですね。こちらから難しいお願いを受けてもらうというのもありますが、工場で働く職人さんたちもチャレンジができるという見方もあると思います。試作段階中のものもちゃんと買い取って使っていくからこそ質を高めていける、そういったお互いの信頼関係が大切ですね」

──デニム目的の観光客も増えそうですね。

「コロナが明けてから色々な人に届けられているなという感覚はあります。児島地区だけでいうとまだまだですが、そもそも岡山県南部の瀬戸内地域の温暖な気候や自然の魅力に惹かれて人は増えていくと思います」

──最後にあまり知られていない岡山デニムの魅力について伺いたいです。

「あまり語られないところで言うと、日本が得意とする細かな技術や手作業、クオリティの高さはもちろんですが、僕らや工場で働く職人たちがこだわっているのは色の美しさです。例えば海外で青について3色しか展開がないところを、日本なら何色にもできるなど、青に関しての深さみたいなものはあると思いますね。僕たちのいる瀬戸内海の海の色は日々違いますし、そういった自然の豊かさに刺激されて青色についての感性が育まれているのではと感じています。さまざまな理由で日本の素材を選ばれていると思いますが、色のバリエーションの豊かさも大きな理由の一つだと思っています」

Edit&Text:Saki Shibata

Profile

山脇耀平(やまわき ようへい) デニムブランド「ITONAMI」共同代表。瀬戸内海地域のデニム工場と直接 連携し、オリジナル製品の企画販売を行う。他にもデニムをテーマとした宿泊施設「DENIM HOSTEL float」や洋服の素材づくりを行う参加型プロジェクト「服のたね」、不要デニムを回収し新たな製品を作る「FUKKOKU」なども展開。 https://ito-nami.com/

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