ソムリエ店長がそっと教える「3000円以下」でおいしいワインを探すちょっとマニアックな基本
ここ数年の値上げの波に乗って、ワインもじわじわと価格上昇中。そんな中でも「探せば安くておいしいワインはありますよ!」と、東京・恵比寿のワインショップ、ワインマーケット・パーティの沼田英之店長は言います。それは一体どんなワイン? さっそく、教えてもらいました!
▶︎「ちょっとマニアックな基本」白ワイン編はこちら
▶︎「ちょっとマニアックな基本」赤ワイン編はこちら
▶︎「ちょっとマニアックな基本」スパークリングワイン編はこちら
【目次】
1. 安くておいしいワイン選びの“基本”とは?
2. クアットロ・ヴァッリ「スカッコ スプマンテN.V」
3. ルモルトン「ポワレ N.V」
4. ボテガス・アルセーニョ「ホフマン ソーヴィニヨン・ブラン2022」
5. キンタ・ダ・ハーザの「ドン・ディオゴ ヴィーニョ・ヴェルデ アリント2022」
6. パーツァイ「シャルドネ 2019」
7. チャーマー「リザーヴ サウスアイランド ピノ・ノワール2020」
8. マスカ・デル・タッコの「ススマニエッロ2022」
9. ビノス・デ・アルガンサ「ラガール・デ・ロブラ2018」
10. レイヴンズウッド「ジンファンデル ヴィントナーズ・ブレンド 2021」
安くておいしいワイン選びの“基本”とは?
──今日は“普段飲み”できる安くておいしいワインを教えていただきたいです!
沼田店長(以下、店長)「わかりました。デイリーで飲めて、かつしっかりおいしい。そういうワインだけを探してきました」
──価格帯的にはおいくらくらいですか?
店長「普段飲みですからできれば1000円台ですよね。1000円以下のワインもあるにはありますが、やっぱりなかには“ハズレ”もあります。その点1000円台だと探せば驚くほどおいしいものもありますからね。それと、週末とかちょっとしたパーティで飲みたい2000円台のものも選んでいます」
──それくらいなら手が出せそうです! やはり、お店としてもそのあたりの価格帯に力を入れているのですか?
店長「もちろん高級ワインも大切ですが、3000円以下のワインが売り上げの大半を占めますね。そしてたとえば、2200円のワインが値上げして2400円になっても、売れ行きはあまり変わらないんです。でも、2900円が3100円になると売れ行きがガクンと落ちる」
──消費者心理ですね。理解できます(笑)。
店長「ですので、インポーターさんに無理を言ってなんとか2000円台で売れる価格、1000円台で売れる価格にしてもらったりもしています。そのほうが、結果的によく売れますから」
──なるほど。「安くておいしい」の仕入れの背景にはそのようなインポーターさんとの交渉などもあるわけですね。
店長「僕は『1800円の壁』と『2700円の壁』と呼んでいます(笑)。どちらも税込で1000円台、2000円台をギリギリ超えない価格です」
──なるほど……! 今日紹介いただくワインの共通点はありますか? 安くておいしい秘密というか。
店長「探してきたのはイタリアやスペインといったヨーロッパの国が中心なのですが、たとえば品種がちょっぴりマイナーなものが多いですね。『メンシア』や『アリント』『ススマニエッロ』といった品種を聞いたことがありますか?」
──すべて初耳です(笑)。
店長「このようなマイナーな品種は、やはり国際市場では競争力が弱いのか、品質に対して価格が安い傾向があります。あとはマイナーな“国”ですね。今回選んだハンガリーはその典型で、価格に対して品質が高い。今回は入っていませんが、モルドヴァなども安くておいしいワインを造っています」
──有名国の有名産地の有名品種……とかじゃないのが狙い目なんですね。
店長「おっしゃる通りです。そういった人気ワインは価格高騰が激しいですしね。味も価格も良くて、足りないのは知名度だけ。そういったものを見つけ出すのが我々の役目です」
──味わいの共通点みたいなものはありますか?
店長:今回選んだものに関しては、難しいことを考えずに食事と合わせてスルスル飲み続けられる、気がついたら1本空いてしまうようなワインを選びました。つまり、私自身のデイリーワインですね(笑)。
──それは期待が持てますね! では、1本ずつ解説していただけますか?
クアットロ・ヴァッリ「スカッコ スプマンテN.V」
店長「せっかくなので、テイスティングしながらいきましょうか。まずは乾杯用のスパークリングワインから。クアットロ・ヴァッリの「スカッコ スプマンテN.V」です。ちなみに『N.V』っていうのはノン・ヴィンテージの略で、特定の年にとれたブドウだけを使っているわけではないという意味です。価格は1925円」
──おっ、おいしいですね! すごく爽やかなのに、果実のフルーティさも感じます。泡立ちが穏やかなのもいいです。
店長「おいしいですよね。1000円台のスパークリングワインは良いものを探すのが本当に難しいのですが、これはかなりおすすめ。『オルトゥルーゴ』という品種が使われているのですが、これは『わからない』という意味だそう。『この品種はなに?』と聞かれたとき『オルトゥルーゴ』と答えたところ、それが品種名だと誤解され、定着してしまったそうです」
──エピソードも面白い!
ルモルトン「ポワレ N.V」
店長「続いてはワインではないのですが、洋梨で造ったスパークリングワイン。フランス、ノルマンディー地方のルモルトン『ポワレ N.V』です。価格は2310円」
──これは最高! 洋梨を丸齧りしたような味わいにクリーミーな泡、やさしい甘さ。これは嫌いな人いないんじゃないですか?
店長「もう、まんま洋梨ですよね。アルコール度数4%と低アルコールなので、お酒が弱い方も楽しく飲めます。焼いたリンゴとツナをカマンベールチーズに添えたような、簡単なおつまみと楽しみたいですね」
──パーティに持っていきたくなる1本でした。
ボテガス・アルセーニョ「ホフマン ソーヴィニヨン・ブラン2022」
店長「続いてはスペイン産のソーヴィニヨン・ブランという品種で、ボテガス・アルセーニョの「ホフマン ソーヴィニヨン・ブラン2022」。これはちょっと驚くと思います。まずは香りを楽しんでみてください」
──えっ……? 桃の香りがします。
店長「そうなんですよ! ソーヴィニヨン・ブランはレモンや青草の香りが特徴的な品種なのですが、このワインに限っては桃の香りがするんです」
──飲んでみても桃の味がしますね。すごく飲みやすいです。
店長「どうやら丁寧に手摘みをしたりブドウを凍らせるなどしてこの味を引き出しているみたいなんです。それだけ凝った造りでなんで1870円なのか……?」
──沼田店長にもわからないんですね(笑)。
キンタ・ダ・ハーザの「ドン・ディオゴ ヴィーニョ・ヴェルデ アリント2022」
店長「続いてはポルトガルワインです。キンタ・ダ・ハーザの『ドン・ディオゴ ヴィーニョ・ヴェルデ アリント2022』。品種はアリント。価格は前のワインと同じく1870円です」
──これもおいしい! ちょっとアンズのような甘ずっぱみがあって、スルスル飲めてしまいます。
店長「ポルトガルワインは、甘口ワインの『ポート』のイメージが強いのですが、実は普通のワインの実力も非常に高い。それでいて価格は安めなので、すごく狙い目の生産国なんです。その上『アリント』はマイナー品種ですからね。ポテサラに粒マスタードを添えたものと召し上がってみてください」
──気軽に飲むには安くておいしくて最高です!
パーツァイ「シャルドネ 2019」
店長「続いてはハンガリーです。パーツァイ『シャルドネ 2019』。シャルドネという白ワインの代名詞と言っていい品種を使っているのですが、マイナー国なので安いというパターンですね」
──これは香りがすごいですね! バニラアイスみたいなリッチな香りです。
店長「オーク樽で熟成させたシャルドネならではの香りなんです。今『安くて濃いシャルドネない?』って聞かれたら、僕はこれをおすすめします。『えっ、ハンガリー?』って顔をされることが多いのですが、飲んだら納得してもらえます。価格も1650円と安いですしね」
──1500円前後は本当にありがたいですし、その値段とは思えません…!
チャーマー「リザーヴ サウスアイランド ピノ・ノワール2020」
店長「続いてはチャーマー『リザーヴ サウスアイランド ピノ・ノワール2020』です。ウチのお店の“2本で3300円”コーナーでよく売れているワインです」
──ということは、これも1本実質1650円ということですね。
店長「ニュージーランドのピノ・ノワールは世界的にも人気で、そういう意味では今回選んだワインの中では異質です。実はちょっとインポーターさんに頑張ってもらっています(笑)。こういう、そのお店のみで安く売られているワインとか、ショップが直輸入してるワインも狙い目ですよ。ビーフジャーキーと気軽に合わせてほしいですね」
ビーニャ・ソルサル「ガルナッチャ 2021」
──続いてはまたもスペインですか。今回、スペインのワインが多いですね。
店長「スペインは世界最大のワイン産地ですからね。今回のテーマのような、安くておいしいワインを探そうと思ったら、目を向けてほしい産地です。これはスペインを代表するガルナッチャという品種です」
──スペインワインって、勝手に濃いイメージがありましたが、これは薄めで甘酸っぱい感じでとてもおいしいです!
店長「ビーニャ・ソルサルという世界的に評価される生産者なのですが、この『ガルナッチャ2021』の価格は1980円と2000円を切ります。こういうスルスル飲めるタイプのワインは夏に少し冷やして飲むのもいいですよ。ササミに梅肉を乗せたおつまみと、ぜひ」
マスカ・デル・タッコの「ススマニエッロ2022」
──そして次はイタリアの赤ですね。
店長「世界で一番コスパの良い産地はどこかといえば、イタリアのブーツのかかと部分にあたるプーリア州だと私は思うんです。このマスカ・デル・タッコの『ススマニエッロ2022』はその典型的なスタイルです」
──どしっと濃くて、甘みを感じます。飲みやすくておいしいです!
店長「まさにそれです。フレッシュなブドウというよりはレーズンのような印象、そこにナッツのような香ばしさが加わって、濃いけど飽きずに飲み続けられるんです。2750円と少し高めですが、赤ワイン初心者の方にもおすすめ」
──たしかに、もっと高いワインだって言われても納得しそうです。
ビノス・デ・アルガンサ「ラガール・デ・ロブラ2018」
店長「さて、いよいよ残り2本ですね。もう一度スペインワインを飲んでみてください。ビノス・デ・アルガンサの『ラガール・デ・ロブラ2018』です」
──これは前のイタリアとは全然違って、透き通るような味わいがしますね。果実味もたっぷり!
店長「スペインのピノ・ノワール」とも呼ばれるメンシアという品種が使われています。味わいは非常にいいのですが、2530円と比較的手に取りやすい価格になっています」
──メンシアという品種は知りませんでしたが、おいしいですね。
店長「問題は日本における知名度だけです(笑)」
レイヴンズウッド「ジンファンデル ヴィントナーズ・ブレンド 2021」
店長「そして、カリフォルニアワインも1本入れておきたくて入れたのが、このレイヴンズウッドの『ジンファンデル ヴィントナーズ・ブレンド 2021』です。これも価格は2530円」
──これはジューシー! 飲みやすさは今日飲ませてもらった赤ワインでNo.1かもしれません。
店長「濃くて、甘みが感じられて、酸味も穏やかながらある。夏ならばバーベキューに最高ですし、実はテリヤキバーガーにも最高に合います。メキシコ料理にもいい」
──カリフォルニアの赤ワインというとカベルネ・ソーヴィニヨンのイメージですが、このジンファンデルもおいしいですね。
店長「はい。比較的な廉価なワインに使われることが多いのですが、実は高級ワインに使われることもあるおいしい品種です。とくにこのレイヴンズウッドはカリフォルニアで『3R』と呼ばれるジンファンデルの名手の一角。リーズナブルな金額でおいしいものを造っていますよね」
安くておいしいワインを楽しもう!
──有名産地の有名ワインだけがワインじゃないというか、ちょっとマイナーな国だったり、品種に目を向けると、こんなに安くておいしいワインが選べる。そのことに驚きました。
店長「ある程度品質の高いワインをデイリーに飲むなら1000円台、出しても2500円とか、それくらいまでですよね。品質と価格を考慮したときに、今回選んだようなちょっと変化球のワインはいい選択肢になるんです」
──家で飲むなら安くておいしいのが一番! 今日はありがとうございました。
ワインマーケット・パーティ
住所/東京都渋谷区恵比寿4-20-7 恵比寿ガーデンプレイスB1F
営業時間/11:00〜20:00
Tel/03-5424-2580
winemart.jp
「ソムリエ店長が教えるちょっとマニアックな基本」シリーズをもっと読む
Photos & Text: Hima_Wine
Profile
https://himawine.hatenablog.com/
YouTube「Nagiさんと、ワインについてかんがえる。Channel」共同運営
https://www.youtube.com/@nagi-himawine
Twitter:@hima_wine