【カナダ・オンタリオ食紀行】新たなるワインカントリー、プリンスエドワード郡で先物買い的ワイナリーめぐり〈後編〉
Life / Travel

【カナダ・オンタリオ食紀行】新たなるワインカントリー、プリンスエドワード郡で先物買い的ワイナリーめぐり〈後編〉

トロントから車で約2時間半。印象派の絵画のように美しいプリンスエドワード郡では、数年前から新たなる動きが! ワインメーカーたちが試行錯誤しながら、自分たちの個性を表現したワイン造りに励んでいます。日本ではなかなか手に入りづらいカナダワイン、この機会にたっぷりと!

日本では入手困難! 今、注目を集めるプリンスエドワード郡のワイン


大都会のトロントから、車で東へ約2時間半。トロントと首都オタワのほぼ中間、オンタリオ湖北東岸に位置するプリンスエドワード郡。本土とつながっているけれども、実質、湖に浮かぶ島のような地形をしています。ちなみに、『赤毛のアン』のプリンスエドワード島とは別モノで、約1,000キロ離れています。

このプリンスエドワード郡、通称“PEC”のワインが今アツい! 2007年に指定ブドウ栽培地域として正式に認定を受け、冷涼な気候のワイン産地としてめきめきと頭角を現してきています。“カナダで最も若いワインカントリー”として、権威あるワイン専門誌『ワインスペクテーター』でも取り上げられるほど。

プリンスエドワード郡は、ミネラルが多い石灰岩の基盤に粘土質の土壌が乗り、表層に石が多いのが特徴。多孔質の石灰岩は雪解けの際に水はけがよく、石は熱伝導率が高いので春には土中が早くに暖かくなります。この土壌の特徴はフランスのブルゴーニュと似ていて、品種としてはピノノワールとシャルドネに適しているそうです。とはいえ、冬にはマイナス30度までも下がる極寒の地。厳しい冬の訪れの前にぶどうの根に盛り土をするなどの対策を行うなど、手間もたいそうかかります。その一方で、オンタリオ湖の恩恵にあずかり、冬は暖かい湖水が冷えこむ気温を緩和し、夏は湖を渡る風によって気温が涼しく保たれます。

こうした地質と気候のテロワールを理解して、その個性をワインに表現するこだわりのワインメーカーが多いのも、プリンスエドワード郡の特徴。この15年ほどで急成長をとげ、ワイナリーも40軒近くまで増えました。 そうしたワイナリーで話を聞くと、ワインに対するこだわりや熱い情熱を感じます。そして試飲をしてみると、ワインに詳しくない私でさえも「だから、こうなるのね!」と納得したり、驚いたり。

今回は、「マイ・カウンティ・ワインツアーズ」のラッセルさんにガイドをしてもらい、プリンスエドワード郡の新進気鋭なワイナリーをめぐりました。日本ではなかなか目にしないプリンスエドワード郡のワイン。話題の先取り、しちゃいましょう。

今回たずねたワイナリー

1. ノーマン ハーディ ワイナリー&ヴィンヤード

プリンスエドワード郡のワインメーカーの牽引役ともいえるノーマン・ハーディーさん。彼のワインはアジアやヨーロッパのミシュランスターに輝くレストラン20軒以上で出会うことができます。

フランス、ディジョン大学でソムリエの資格を取得後、ニュージーランドやカリフォルニアなど冷涼なエリアの生産者の下で学び、プリンスエドワード郡に根を下ろしたのは2003年のこと。ワインテイスティングでは、本人にお目にかかれるかも!?

Norman Hardie Winery
住所/1152 Greer Rd. Wellington Ontario K0K 3L0
営業時間/10:00〜17:00(テイスティングバー、土〜18:00)
https://www.normanhardie.com/

2. トレイル・エステート・ワイナリー

「テロワールの特徴を生かしたワイン造りは、まずはぶどう造りから」と、ぶどう栽培から手掛けるワイナリー。自然発酵、濾過ゼロ、添加ゼロ、硫黄はゼロまたは最小限のみと、自然の力を生かしたワイン造りが特徴です。

迎えてくれたのはマッケンジーさんとアレックスさん。「2021年のシャルドネは、石灰質の土壌がよくわかるわよ」とのこと。ボトルにオリが積もったオレンジワインも、シェイク前と後で飲み比べてみました。やっぱり、どちらも美味でした。

Trail Estate Winery
住所/416 Benway Road, Hillier, Ontario K0K 2J0
営業時間/11:00〜17:00(ワイナリー、金土~18:00)
https://trail-estate.myshopify.com/

3. エクスルテト・エステーツ

プリンスエドワード郡の南端に位置するワイナリー。オンタリオ・ワイン・アワード、州知事優秀賞など、国内のコンクールで賞を総なめにしている実力派。ワイン愛好家たちがまず立ち寄るのが、こちらだとか。

迎えてくれたのはスピノーサ夫妻。職人気質なダンナ様と現実的な奥様、二人の会話はまるで漫才の掛け合いのよう。「ナックルヘッド」シリーズは、3人の子供たちの名前からネーミング。家族愛を感じます。

EXULTET ESTATES
住所/1112 Royal Road, Milford, On, K0K 2P0
営業時間/11:00~18:00(11~4月の閑散期は屋内にて、要予約)
https://www.exultet.ca/

4. ワウプース・エステート・ワイナリー

オンタリオ湖畔にたたずむ、プリンスエドワード郡のワイナリー第一号。1993年に手探り状態ながら初めてぶどうを植え、今では20エーカーのぶどう畑に18の品種を育てています。

樽熟成を基本とした「リザーブ」シリーズ、飲みやすく食べ物にもあう「ブラッグシップ」シリーズ、土壌の違いをラベルに表示した「テロワール」シリーズ、温室でぶどうを乾燥させる「アパッシメント」などを試飲。

ぶどう畑の向こうに湖を望む併設のレストランでは、野菜や豚、牛などを育て、“ファーム・トゥ・テーブル”を実践しています。

Waupoos Estate Winery
住所/3016 County Road 8, Picton, Ontario, K0K 2T0
営業時間/11:00〜16:00(ワイナリー、ブティック)
https://www.waupooswinery.com/

5. ハフ・エステーツ・ワイナリー

2004年6月オープン。広大なぶどう畑の丘の上のワイナリーにぶどうの加工エリアと醗酵タンクを併設。重力によってワインがバレル(樽)セラーへ流れてくる仕組みを見学できます。樽がずらりと並ぶセラーの中でワイン3種を試飲。ひときわ美味しく感じます。

5~10月の間は、屋外のテーブルでピザも供されます。そして夏の日曜日の午後にはぶどう畑を見晴らしながら、生演奏に耳を傾けることも。モダンアートのギャラリーも併設しています。

Huff Estates Winery
住所/2274 County Road 1, P.O.Box 300, Bloomfield On, KOK 1GO
営業時間/10:00~18:00(ワイナリー)
https://huffestates.com/

6. ヒンターランド・ワインカンパニー

泡好きにはたまらない、スパークリングワインを得意とするワイナリー。トラディショナル製法、シャルマ製法、アンセストラル製法のビンテージ・スパークリングワインをメインとしたラインナップ。他に少量ながらシャルドネ、シラー、ガメイ・ノワールなどのワインや、シードルも。

スパークリングワインの3種類の製法の飲み比べCAD12(税別)がおすすめ。北欧風のインテリアもステキです。

Hinterland Wine Company
住所/1258 Closson Road RR#1 Hillier, Ontario, K0K 2J0
営業時間/11:00~16:30(テイスティング)
https://www.hinterlandwine.com/

7. スタナーズ・ヴィンヤード

プレミアムピノノワールに特化したぶどう園&ワイナリー。父クリフさんと息子コリンさんの小さな家族経営ながら、数々の受賞歴を誇ります。実はコリンさんは物理化学の博士号、クリフさんは細胞および分子生物学の博士号をもつ科学者。二人とも別の土地で個人的にワインを作ってはいたけれど、プリンスエドワード郡のピノノワールから上質なワインが作れると知り、一念発起。二人は転職して、この地にワイナリーを開いたとか。

科学に裏付けされたワインだと知らなくても、シンプルに美味しいワイン。アーティストであるコリンさんの奥様の作品が飾られたワイナリーもセンスを感じます。

Stanners Vineyard
住所/76 Station Road, Hillier, Ontario, K0K 2J0
営業時間/11:00〜17:00(ワイナリー、休火・水)
https://www.stannersvineyard.ca/

8. ハーウッド・エステート・ヴィンヤード

店先のパティオに並ぶカラフルなムスコカチェアーが印象的な、ワイナリー&ブリュワリー&ビストロ・イン。カナダで唯一の100%太陽光発電により育てたぶどうは、シャルドネやピノノワール、ピノグリ、そしてウィンドワードホワイトやアドミラルズブレンドなど。環境保護への取り組みが評価され、アグリフード・イノベーション賞も獲得。

ぶどう畑に面したビストロ&テイスティングルームでは、ワインと一緒に焼き立てのナポリ風ピザをぜひ!

Harwood Estate Vinyard
住所/18908 Loyalist Parkway, Hillier, Ontario K0K 2J0
営業時間/11:00~18:00(テイスティング)
https://harwood.blog/

9. クロッソン・チェース・ヴィンヤーズ

プリンスエドワード郡のワイン産業の黎明期である1998年に誕生。最初のヴィンテージは2004年、クロッソン家の築100年の酪農用納屋を改築したワイン造りの施設で作られました。以来、世界が認めるシャルドネとピノノワールを生産しています。

ヘッドワインメーカーのキース・ティアーズさんが加わったのは2003年のこと。持続可能性を早くから提唱し、土壌やその年の気候変動によって変化するぶどうの品質を理解し、生かしたプレミアムなワインが特徴です。こちらのワインは日本でも入手できます。

Closson Chase Vineyards
住所/629 Closson Road, Hillier, Ontario K0K 2J0
営業時間/11:00〜17:00
https://www.clossonchase.com/

10. ザ・カウンティ・サイダー・カンパニー

プリンスエドワード郡ではワインと同様、シードルもポピュラー。この農場では1850年からりんご栽培をスタートし、シードル造りも90年代初頭から手掛け、“オンタリオのサイダーの父”とも呼ばれています。

オンタリオ湖を見下ろす丘の上に立つこちらは、70エーカーの敷地に25種のりんごを栽培。手摘みで丁寧に収穫したりんごを掛け合わせ、タンニンや酸味などの絶妙な味わいに1本に16~20種のりんごが使われているとか。テイスティングの後は農園を散策するのも、おすすめです。

The County Cider Company
住所/657 Bongards Crossroads, Waupoos, ON K0K 2T0
営業時間/11:00〜18:00(テイスティング)
https://countycider.com/

新しいグルメの発信地プリンスエドワード郡。レストランでも美味なる冒険が!

ここ数年、こだわりのある生産者が増え、それに引き寄せられるように腕利きのシェフや流行に敏感なフードライターが移り住んできているプリンスエドワード郡。ここには美味しい体験が、手ぐすね引いて待っています!

そもそも食材は収穫してから移動時間をできるだけ短くして、鮮度の高いうちにいただくのがいちばん美味。“ファーム・トゥ・テーブル”を実感できるレストランをご紹介します。

おいしい料理に合わせるのは、やっぱりプリンスエドワード郡のワインですね!

職人技の火入れが絶品なグリル料理のフレーム・アンド・スミス

薪の置き方やタイミングなど石窯を巧みに使い、絶妙な火加減で焼き上げる薪火料理。香ばしい匂いが鼻をくすぐる中、テーブル席から焼き場の様子を眺めていると、二人がかりで火入れの具合をチェックし、その様子はまさに“職人技”。

ちなみに“スミス”とは、米国では道具から貴金属まで金属を扱う職業人を指すそうですが、彼らがやってきたオランダではさらに格上げされた“職人”の意味があるそう。薪の職人、ワインの職人、牡蠣をむく職人など、いろんな立場で技を披露しています。

メニューは東海岸の牡蠣やグラスフェッドビーフ、新鮮な野菜など、素材そのものも厳選。ワインリストには、スタナーズ・ヴィンヤードやトレイル・エステートも並んでいました。

中心地から少し離れていますが、ディナータイムはおめかしした地元住民で賑わっています。ウェイティング用にバーもありますが、予約がおすすめ。

Flame and Smith
住所/Bloomfield, ON KOK 1GO
営業時間/16:30~20:30(木曜~月曜、L.O.)
https://flameandsmith.com/

タパスで軽く、あるいは大皿料理をシェア、地元食材を生かしたスペイン料理

プリンスエドワード郡の中心地ピクトンの目抜き通りに面し、四季折々の地元食材を生かしたスペイン料理レストラン、ボカド・レストラン。たこのガリシア風やビーフのタルタルなど種類豊富なタパスから、シェアが楽しい大皿料理、本格的なパエリアまで、多彩なメニューが揃っています。ワインリストには、クロッソン・チェース・ヴィンヤーズのピノノワールを発見。

ザ・ロイヤル・ホテルの正面にあり、歴史的建造物「リージェント・シアター」へも徒歩1分。19時過ぎには人通りもまばらになるピクトンながら、ボカド・レストランの扉を開けると、地元の人で満員御礼。オープンキッチンからも活気が伝わってきます。

Bocado Restaurant in Prince Edsard County, ON
住所/252 Picton Main St, Prince Edward, ON K0K 2T0
営業時間/17:00~21:00(金~22:00、土16:30~22:00、日16:30~21:00)
https://www.bocadorestaurant.ca/

プリンスエドワード郡で泊まりたい、個性派プチホテル

旅情あふれるプリンスエドワード郡は、トロントから車でわずか2時間半なのに、まるでタイムトリップしたよう。のどかさが味わいの土地柄にあって、実は上質なホテルが待っています。

ここで紹介する2軒は、ヴィクトリア様式の邸宅やライフスタイル系など、雰囲気は別モノ。けれど、どちらも食に力を入れ、もちろんプリンスエドワード郡のワインも味わえますよ。

地元ファミリーが切り盛りする、歴史感じるライフスタイル・ホテル

ピクトンの目抜き通りに位置するザ・ロイヤルホテルは、放置されたままだった1879年建造のレンガ造りの建物を、8年間かけて修復。2021年にハイセンスなライフスタイル・ホテルとしてオープンしました。このピクトンを象徴する歴史的建物を守ろうと動いたのは、地元の農場でオーガニックな野菜など幅広い食材を生産しているソルバラ家。地元への愛が詰まったホテルです。

宿泊はメイン棟の「ザ・ホテル」と、隣接するスカンジナビア風のアパートメントスタイルの「アネックス」の計33室。

「ザ・ホテル」の多くの客室が暖炉とバスタブ付き。しかもバスタブがリビング&ベッドルームの一角にある斬新なデザインです(目隠しされた広いシャワールームもあるので、ご心配なく)。

レストランはイタリア料理の「ザ・レストラン&テラス」と通りに面した「ザ・カウンターバー」、ロビーラウンジの「ザ・パーラー」、奥まった「ザ・ガーデン」の4カ所。ソルバラ家の農園をはじめ、プリンスエドワード郡の志高い生産者たちの食材が使われています。

「ザ・レストラン&テラス」では20年にわたり受賞歴を誇り、ソルバラ家の農場と深いつながりのある人気シェフが腕を振るいます。プリンスエドワード郡のワインもリストに並んでいます。

サウナルームがあるのも、ポイントです。

The Royal Hotel
住所/247 Picton Main Street Picton, Ontario K0K 2T0
https://www.theroyalhotel.ca/

1878年にエドワーズ・メリル判事のために建てられたゴシック・リバイバル様式の邸宅をブティックホテルに改装したメリル・ハウス。緑の芝生や木々の梢にリスが走り抜けていく、童話から抜け出たような愛らしい佇まいです。

けれど、館内はクラシカルな中にモダンアートを感じる、独特な世界観。というのも、オーナーのひとりはクリエイティブデザイナー、センスが光っています。たとえば14のゲストルームはすべてデザインが異なり、中には天井に逆さにイスが設置された天地逆のお部屋も!? 館内のアンティークやアートワーク、それぞれにストーリーがあるのもユニークです。

館内のフランス料理レストランは、権威あるワイン専門誌「ワインスペクテーター」における最優秀賞に輝き、レストラン予約サイトで「プリンスエドワード郡で最も予約が多いレストラン」と、高評価。プリンスエドワード郡のワインも70種以上をそろえています。

直接予約を入れると、シェフのリリ・サリバンさんによるグルメな朝食が無料で付いてきます。絞りたてのオレンジジュース、クロワッサン、卵料理やホットディッシュなど、気持ちいい一日を迎えられそうです。

Meril House

住所/343 Main Street East, Picton, ON, Canada, K0K 2T0
https://www.merrill-house.com/

取材協力
カナダ・オンタリオ州観光局 https://www.destinationontario.com/ja-jp/japan

 

Photos & Text: Chieko Koseki

Profile

古関千恵子Chieko Koseki 旅行ライター。リゾートやエコ、ダイビングなど、国内外のビーチにフォーカスして寄稿。ここ最近は国内のビーチの美しさを再発見し、全国津々浦々を探訪中。目指すは伊能忠敬!? Instagram: @chieko_koseki

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2025 N°183

2024.11.28 発売

Future Vision

25年未来予報

オンライン書店で購入する