GINZA SIXの巨大アート、ヤノベケンジ『BIG CAT BANG』トークレポート | Numero TOKYO
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GINZA SIXの巨大アート、ヤノベケンジ『BIG CAT BANG』トークレポートPROMOTION

この4月、GINZA SIXに現れた驚愕の光景——題して『BIG CAT BANG(猫大爆発)』。無数の「宇宙猫」が宙を飛び、猫耳つきの岡本太郎『太陽の塔』が浮かぶ、アーティスト・ヤノベケンジの作品だ。心動かすアートの力、その先に広がる展望とは? GINZA SIX「CREATIVE SALON」で行われたVIP会員向けトークの模様を、特別にレポートする。

4月6日、GINZA SIX「CREATIVE SALON」トークの出演者。左から、後藤繁雄、ヤノベケンジ、田中杏子。(Photo:Ayumi Fujita)
4月6日、GINZA SIX「CREATIVE SALON」トークの出演者。左から、後藤繁雄、ヤノベケンジ、田中杏子。(Photo:Ayumi Fujita)

前代未聞、“猫大爆発”なアート誕生秘話

GINZA SIXの館内中央吹き抜けに、誰もが「あっ」と目を見開く巨大新作アート作品が出現した。宇宙服を着た猫たちが、伝説のアーティスト岡本太郎の代表作『太陽の塔』の形をした宇宙船に乗り、吹き抜け空間を所狭しと舞っている──。

4月6日、この驚くべき作品の背景をひもとくスペシャルトークが、同館の会員制ラウンジ「LOUNGE SIX」にて、VIP会員を招いて開催された。

ヤノベケンジは、「現代社会におけるサバイバル」をテーマに、子どもの命令で歌い踊り火を吹く『ジャイアント・トらやん』や、東日本大震災の復興を願い、希望の太陽を手に立ち上がる『サン・チャイルド』などの巨大立体作品を発表してきた現代アーティスト。

キュレーションを手がけた編集者/アートプロデューサーの後藤繁雄を迎え、小誌編集長の田中杏子がファシリテーターを務めた限定トークの模様を、ここに特別に公開する。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』7・8月合併号レポート記事を拡大再構成)

「CREATIVE SALON」トークイベントの開催風景。(Photo:Ayumi Fujita)
「CREATIVE SALON」トークイベントの開催風景。(Photo:Ayumi Fujita)

田中杏子「みなさま、本日はようこそお越しいただきました。私自身、ヤノベさんの大ファンだけに、まさかヤノベさんの作品がGINZA SIXにこれほどのスケールで登場するとは! 大いに圧倒されました。一体どんな経緯で実現したのでしょうか?」

後藤繁雄「商業施設でありながら、これだけの迫力でアートを眺められる場所は、世界でもそうそうありません。だからこそ、コロナ禍や戦争などで沈んだ気持ちを明るくしてくれる力を持ったアート作品が必要だと思ったのです。そう考えて、ヤノベさんに依頼をしたわけですが……その結果が、このエネルギーほとばしる展示です。何しろ、見た人がみんな『ニャー!』となってしまう(笑)。しかも伏線として、伝説的なアーティストである岡本太郎の存在も絡んできますね」

ヤノベケンジ「彫刻作品は360度、いろいろな方向から見てもらう造形物ですが、この空間のように高低差も含めてあらゆる角度から見てもらえる場所は、美術館ではなかなかありません。その意味でも、僕の作品で史上最大規模かつ、最高傑作ともいえるものになったと思います」

この4月、GINZA SIXの中央吹き抜けに登場したヤノベケンジの新作アート作品『BIG CAT BANG』展示風景。(Photo:Yasuyuki Takaki)
この4月、GINZA SIXの中央吹き抜けに登場したヤノベケンジの新作アート作品『BIG CAT BANG』展示風景。(Photo:Yasuyuki Takaki)

田中「素晴らしいですね。話は遡りますが、そもそもヤノベさんの創造の原点はどんなところにあるのでしょう?」

ヤノベ「僕が5歳の頃、1970年に『大阪万博(日本万国博覧会)』が開催されました。今も語り継がれる高度経済成長期の夢の祭典で、現在の携帯電話のひな形やリニアモーターカーが展示されるなど、『未来世界が現れた!』と大変な話題を呼んだのです。僕も子ども心に『行きたい』と思い続けていたところ、翌年にたまたま家が近くへ引っ越した。それで『やっと万博に行ける!』と喜び勇んで会場へ行ったのですが、そこは閉幕後の撤去現場でした。パビリオンを鉄球で取り壊したり、ロボットが放置されていたり……いわば“未来の廃虚”を見てしまったのです。

そして、そこにそびえ立っていたのが岡本太郎の代表作『太陽の塔』。万博のテーマ館として建てられたものですが、高さ70メートルの巨大な姿に圧倒されました。その姿から、失われた未来を悲しむのではなく、自分の空想力をかき立てていく勇気をもらったことが、アーティストとしての原体験になっています」

アーティストのヤノベケンジ。(Photo:Ayumi Fujita)
アーティストのヤノベケンジ。(Photo:Ayumi Fujita)

田中「70年の大阪万博といえば、延べ人数で日本の人口の半分以上が訪れたといわれる超巨大イベントです。いわばその“夢の跡”を目撃してしまった……すごい運や縁を感じる話ですね」

ヤノベ「今日のトークを聞いた方にはぜひ、この話をGINZA SIXの作品の背景として語っていただくと、ちょっと知的な演出になると思いますよ(笑)」

編集者の後藤繁雄。(Photo:Ayumi Fujita)
編集者の後藤繁雄。(Photo:Ayumi Fujita)

岡本太郎から受け継いだ思いを、東京の中心で爆発させる

後藤「幼少期の万博体験をきっかけに、ヤノベさんには芸術家として岡本太郎の魂を引き継いでいる部分があります。今回の作品タイトル『BIG CAT BANG』にしても、岡本太郎の有名な台詞『芸術は爆発だ!』の“爆発(ビッグ・バン)”の間に“猫”が挟まっているわけだから」

ヤノベ「初めて記憶に刷り込まれた作品が『太陽の塔』だったわけですが、そこからインスピレーションを受けて活動するなかで、岡本太郎さんの存在は常に意識していましたね。いわば大阪万博の廃虚で育った僕が、たまたま万博会場で展覧会を開くという機会(旧・国立国際美術館「ヤノベケンジ MEGALOMANIA」展/2003年)もあって、太郎さんを乗り越えるためのプロジェクトを発表したり。ただ、そのあたりのことは話すと2時間はかかってしまいますよ?」

小誌編集長、田中杏子。(Photo:Ayumi Fujita)
小誌編集長、田中杏子。(Photo:Ayumi Fujita)

田中「気になるのでぜひ、あらましだけでもお願いします…!」

ヤノベ「大阪万博の会期中、『太陽の塔』の右目部分に男の人が8日間にわたって籠城するという出来事がありました。いわゆる『目玉男事件』です。当人を訪ねてインタビューした後、自分の作品である『アトムスーツ』を着て『太陽の塔』を登り、左目に座って、かつて夢見た“未来の空”を眺めるというパフォーマンスを行いました。この『アトムスーツ』には放射能を感知するガイガー・アンテナが装備されており、着用してさまざまな場所へ赴いたほか、その後の立体作品にもつながる重要な作品になっています。

僕はこれまで、一貫して困難な社会状況に対するサバイバルをテーマに作品を制作してきました。例えば、97年には『アトムスーツ』を着てチェルノブイリの廃虚を訪れたり、2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所事故後の絶望的な状況のなかで、『アトムスーツ』のヘルメットを外して太陽を手にした少年の像『サン・チャイルド』を発表したり。これらは“人間にとっての太陽=エネルギー”の問題に向き合う取り組みでしたが、それがコロナ禍という世界レベルのパンデミックと向き合う試みへと発展し、視点を地球上から宇宙規模へと広げながら、今回の作品へとつながっていった。そのなかで僕自身は、ずっと太郎さんと一緒に作品をつくってきたと考えています」

GINZA SIX 4Fフロアの展示作品より、岡本太郎『太陽の塔』の1/50サイズ原型模型。 ©岡本太郎記念館 (Photo:Yasuyuki Takaki)
GINZA SIX 4Fフロアの展示作品より、岡本太郎『太陽の塔』の1/50サイズ原型模型。 ©岡本太郎記念館 (Photo:Yasuyuki Takaki)

後藤「その上で大切な存在が『宇宙猫』。『太陽の塔』が猫たちの宇宙船として、GINZA SIXの吹き抜けを飛ぶことになりました。このあたりの話を聞きましょうか」

ヤノベ「この猫たちは2017年に始まる『SHIP’S CAT』シリーズの作品です。猫はネズミを捕まえる習性から、古代エジプトで家畜化されて船に乗せられ、食料を守るだけでなく、船乗りの心の友達として世界中に広がっていった。そこから着想を得て、旅の守り神という設定でこのシリーズを制作し、大阪の中之島美術館に恒久設置されたり(『SHIP’S CAT (Muse)』)、中国やパリのルーヴル美術館など、世界各地で展開したりしてきました」

GINZA SIX 4Fフロアの展示作品より、ヤノベケンジ『SHIP'S CAT (ONK-1)』。(Photo:Yasuyuki Takaki)
GINZA SIX 4Fフロアの展示作品より、ヤノベケンジ『SHIP'S CAT (ONK-1)』。(Photo:Yasuyuki Takaki)

田中「ではなぜ、その猫たちと『太陽の塔』がつながったのでしょう? 今回の展示の『太陽の塔』には猫たちが乗っていて、猫耳まで付いていますね(笑)」

ヤノベ「背景としてあるのは、今の世界の危機的状況——パンデミックや戦争はもちろん、AI(人工知能)がもたらす変化など、先の読めない時代に対して、地球を俯瞰した視点を提示する意識。そして、人間の想像力こそが世界を変える起点になるという思いです。

岡本太郎は『芸術は爆発だ!』と言いましたが、この“爆発”とは何かを考えると、それは世界の始まりこと『ビッグ・バン』であり、僕が『太陽の塔』からもらったイマジネーションの爆発でもある。その想像力の爆発を、東京の中心といえるこの場所で炸裂させたい。『BIG CAT BANG(猫大爆発)』という、ずっこけるようなタイトルではありますが、そんな思いを込めています」

中央吹き抜けに展示されたヤノベケンジ『BIG CAT BANG』を真下から見上げたところ。(Photo:Yasuyuki Takaki)
中央吹き抜けに展示されたヤノベケンジ『BIG CAT BANG』を真下から見上げたところ。(Photo:Yasuyuki Takaki)

宇宙の誕生、生命の起源……ここから広がるアートのヴィジョン

後藤「ヤノベさんの類いまれなポイントは、世界観とともにストーリーを構築できる、世界でも数少ないアーティストであること。今回の作品にも、さらに驚くべき物語が込められていますね」

ヤノベ「『生命はどこから来て、どこへ行くのか』という妄想ストーリーですね。『太陽の塔』の内部には『生命の樹』と題した展示が残されており、地球上の生命の進化を立体で表現しています。では、地球上の生命の起源はいつ、どこから来たのか。現在の科学の見解では約35億年前、生命の元になるアミノ酸が隕石に付着して地球に到達したという説がある。これを『パンスペルミア(宇宙汎種)説』と呼びます。そこから想像を広げて、宇宙猫たちが『太陽の塔』の形をした宇宙船で地球を訪れ、生命の種をまいて育てた結果、今の私たちがいるという物語を考えました。人類が出現する頃には猫たちは疲れ果てて衰え、燃料を失った宇宙船が大阪の万博記念公園に残っているというわけです」

田中「私たちの周りにいる猫ちゃんたちは、実は宇宙猫の末裔だったわけですね!」

ヤノベ「そう。ちなみに宇宙船の名前は『LUCA号』ですが、これも『Last Universal Common Ancestor(最終共通普遍先祖)』という、生命の起源を表す科学的用語から採ったものです。さらに、地球ではこれまでに「ビッグファイブ(5大絶滅事件)」と呼ばれる5回の大量絶滅の危機があり、次の「ビッグシックス」は人類の環境破壊や戦争によって引き起こされるという見方もある。そうしたメッセージを込めて、ストーリー動画も制作しました。今話題の生成AIを使って描いたものです」


ヤノベケンジによる作品のストーリー動画「BIG CAT BANG 〜宇宙猫の大冒険〜」

田中「まさに壮大なストーリーですね…! ちなみに、今回の展示の中に宇宙猫は何匹いますか?」

ヤノベ「大きな猫は、宇宙船の背中に乗っているのと宙に浮かんでいるもので計4体。あと、宇宙船から周りに飛んでいる小さい猫が約400体です。小さいほうはフィギュアとしてGINZA SIXの特設リミテッドショップでも販売しました」

後藤「この展示に加え、フィギュアにもなった『宇宙猫』と、その末裔である身近な猫……無数の猫たちが物語を受け継いで、ストーリーが続いていく構成です。しかも、夏には新たな展示も開催されますね」

ヤノベ「太郎さんのご自宅だった東京・表参道にある岡本太郎記念館で、7〜11月にかけて展覧会を開催します。今お話ししたストーリーをたどるインスタレーションを予定していて、太郎さんの家が猫だらけになりますよ(笑)」

「CREATIVE SALON」トークイベントは、GINZA SIX 5Fの会員制ラウンジ「LOUNGE SIX」で開催された。(Photo:Ayumi Fujita)
「CREATIVE SALON」トークイベントは、GINZA SIX 5Fの会員制ラウンジ「LOUNGE SIX」で開催された。(Photo:Ayumi Fujita)

田中「GINZA SIXの展示は来年の夏まで続きます。でもその後も、ストーリーはまだまだ広がっていくわけですね」

ヤノベ「そうです。ちなみに、大阪万博の会場の中心にあった『大屋根』は、戦後日本を代表する建築家の丹下健三の設計で、未来の空中都市を表現したものでした。それを太郎さんが後から真ん中に穴を開け、『太陽の塔』でぶち抜いてしまった。それに対して僕は、現代を代表する建築家の谷口吉生(たにぐち・よしお)が設計を手がけたGINZA SIXの真ん中で『BIG CAT BANG』を“爆発”させて、新たな物語を表現していく。そういう思いを込めています。

……そうだ、今日お越しのみなさんには『BIG CAT BANG』メイキングブックをお配りしていますが、全員もれなくサインをしましょうか?」

後藤「それはスペシャルですね! でも、この後はみなさんを館内へお連れして、作品の解説をする予定でしょう?」

ヤノベ「大丈夫、どちらも駆け足でやっちゃいましょう!」

トーク後、参加者全員に向けて一人ずつサインをプレゼントするヤノベケンジ。(Photo:Ayumi Fujita)
トーク後、参加者全員に向けて一人ずつサインをプレゼントするヤノベケンジ。(Photo:Ayumi Fujita)

ヤノベのサイン入り『BIG CAT BANG』メイキングブック。(Photo:Ayumi Fujita)
ヤノベのサイン入り『BIG CAT BANG』メイキングブック。(Photo:Ayumi Fujita)

田中「いやはや…! 次から次へと驚くようなお話が飛び出して、この場限りのスペシャルな体験になりました。しかも、ご本人による展示ツアーと、参加者全員へサインのプレゼントまで! 感無量です。ヤノベさん、本日はどうもありがとうございました!」

ヤノベケンジ自ら、閉館後の館内で参加者たちを案内し、作品を解説するスペシャルな一コマ。(Photo:Ayumi Fujita)
ヤノベケンジ自ら、閉館後の館内で参加者たちを案内し、作品を解説するスペシャルな一コマ。(Photo:Ayumi Fujita)

※掲載情報は5月29日時点のものです。最新情報は公式サイトをご確認ください。

ヤノベケンジ『BIG CAT BANG』
会期/2024年4月5日(金)〜2025年夏(予定)
会場/GINZA SIX 2F 中央吹き抜け(大型新作)、4F(彫刻作品展示)
住所/東京都中央区銀座6-10-1
TEL/03-6891-3390(総合インフォメーション)
URL/https://ginza6.tokyo/magazine/194788
中央吹き抜けに登場した、ヤノベケンジ渾身の大型新作アート作品。また、4Fフロアには『SHIP’S CAT』シリーズの彫刻作品3点に加え、岡本太郎『太陽の塔』の1/50サイズ原型模型も展示。

GINZA SIX「CREATIVE SALON」
GINZA SIXのVIP会員(※)を対象に開催されるリベラルアーツプログラム。“大人の遊びと学びの場”をコンセプトに超一流アーティストを招聘し、館内外でエクスクルーシブな限定企画を実施する。詳しくは下記サイトをチェック。
URL/https://ginza6.tokyo/membership/

※GINZA SIX VIP会員…GINZA SIX MEMBERSHIP登録者のうち、年間330万円(税込み)以上のショッピング利用者・年間110万円(税込)以上かつ、GINZA SIXプレステージカード所有者が対象
URL/https://ginza6.tokyo/vippage

(関連展示)
「ヤノベケンジ:太郎と猫と太陽と(仮)」 

会期/2024年7月12日(金)〜11月10日(日) 
会場/岡本太郎記念館
住所/東京都港区南青山6-1-19 
TEL/03-3406-0801 
URL/https://taro-okamoto.or.jp/
岡本太郎(1911-96年)の自宅兼アトリエだった名作建築(設計:坂倉準三)であり、太郎の作品やゆかりのアーティストによる展示を行う美術館。2011年「太陽の子・太郎の子」に続くヤノベの二度目の企画展示として『SHIP’S CAT』シリーズの世界観に基づくインスタレーションを展開する。

Edit & Text : Keita Fukasawa

Profile

ヤノベケンジKenji Yanobe 現代美術作家、京都芸術大学教授。1965年、大阪府生まれ。90年代初頭より「現代社会におけるサバイバル」をテーマに機能性を持つ大型機械彫刻を制作。2017年「船乗り猫」をモチーフにした旅の守り神『SHIP'S CAT』シリーズを制作開始した。 公式サイト:https://yanobe.com/
後藤繁雄Shigeo Goto 編集者、クリエイティブディレクター、アートプロデューサー、京都芸術大学教授。1954年、大阪府生まれ。坂本龍一、篠山紀信、蜷川実花らの作品集や、数多くの展覧会を手がける。 公式サイト:https://www.gotonewdirection.com/

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