フランシス・クルジャンが明かす。ミス ディオール、解き明かされた秘密のストーリー | Numero TOKYO
Beauty / Feature

フランシス・クルジャンが明かす。ミス ディオール、解き明かされた秘密のストーリー

シュッとひと吹きした瞬間、ストロベリーのように甘美なグルマンと、花々がみずみずしく溶け合う「ミス ディオール パルファン」。1947年にメゾン初の香水として誕生した“ミス ディオール”の伝統を受け継ぎながら、2024年、今の時代を映し出す香りへ——。そのクリエイションの舞台裏を、ディオール パフューム パフューム クリエイション ディレクターのフランシス・クルジャンに聞いた。

ミス ディオール パルファン 35ml ¥13,200、50ml ¥18,040、80ml ¥23,100 〈80mlは店舗限定〉(5月17日発売)/Dior(パルファン・クリスチャン・ディオール) ※5月15日よりディオール 公式オンライン ブティック及び一部店舗にて先行発売
ミス ディオール パルファン 35ml ¥13,200、50ml ¥18,040、80ml ¥23,100 〈80mlは店舗限定〉(5月17日発売)/Dior(パルファン・クリスチャン・ディオール) ※5月15日よりディオール 公式オンライン ブティック及び一部店舗にて先行発売

クリスチャン・ディオールの情熱をたどる旅

——2021年にディオール パフューム パフューム クリエイション ディレクターに就任して以来、初めて“ミス ディオール”の香りを手がけることになります。新作「ミス ディオール パルファン」の創作にあたり、インスピレーションの源となった事を教えてください

今回はまず、クリスチャン・ディオール自身が「初代の“ミス ディオール”を作る際に、どんな想いを抱いていたのだろう?」という、原点に立ち戻りました。彼は“ミス ディオール”について多くを語っていますが、改めて膨大なアーカイブを一つ一つ丹念に調べていったのです。調香というより「歴史調査」に近かったですね(笑)。古い時代のフォーミュラ、成分表のようなものを発見したり、クリスチャン・ディオールが当時の調香師と交わしたやり取りに目を通す機会もありました。その過程で、これまで知られていなかった新たなストーリーの発見があったんです。

——まだ知られざる“ミス ディオール”のストーリーがあったのですね。

一つ目は、フレグランスを象徴する「名前」についてです。“ミス ディオール”が、彼の妹であるカトリーヌから名づけられたことはよく知られているエピソードだと思います。しかし、このフレグランスは開発段階では「カストル」というコードネームがつけられていました。「カストル」とは、双子座の二等星の名前です。夜空に数ある星の中で、ひときわ強い輝きを放つ「カストル」をコードネームに選んだことで、「香水界にかつてない、輝くような美しい香りを作りたい」というクリスチャン・ディオールの強い意志を感じました。

さらに、1947年に商業法務局に登録をする際には、「コロール(花冠)」「リンニュイット(8ライン)」という名前が候補に挙がっていました。両方ともファッションの「ニュールック」コレクションの象徴ともいえる、丸みを帯びたシルエットを表現する言葉です。このことからも、クリスチャン・ディオールが「自身のファッションと、時代のエスプリを映し出す香りを作りたい」と、強く感じていたことが分かります。

——まさに、クリスチャン・ディオールの情熱をたどる旅ですね。

“ミス ディオール”について語る彼の言葉はとてもパワフルで、私の感情を揺さぶりました。ディオールのエレガンスと香り、そして彼が愛した南仏を繋ぐストーリーが集約されているのです。なかでも印象深かったのが「“ミス ディオール”が生まれた晩」についての言及でした。

——「“ミス ディオール”が生まれたのは、ホタルが舞うプロヴァンスらしい晩のことでした。夜と大地が奏でるメロディーにのせて、グリーンのジャスミンが美しく重なり合っていました」という言葉ですね。

私はこの「1947年当時のジャスミンの香り」を表現したいと、強く思いました。まずは原料を提供してくれるサプライヤーに「当時に近いジャスミンを探して欲しい」と依頼しました。数あるジャスミンの中から、7月の夜明けに収穫されたグリーンの香りを放つジャスミンを選び、抽出にも「特別な方法」を採用しました。

失われた抽出法を再現した「唯一無二のジャスミン」

ミス ディオール パルファン 35ml ¥13,200、50ml ¥18,040、80ml ¥23,100 〈80mlは店舗限定〉(5月17日発売)/Dior(パルファン・クリスチャン・ディオール) ※5月15日よりディオール 公式オンライン ブティック及び一部店舗にて先行発売
ミス ディオール パルファン 35ml ¥13,200、50ml ¥18,040、80ml ¥23,100 〈80mlは店舗限定〉(5月17日発売)/Dior(パルファン・クリスチャン・ディオール) ※5月15日よりディオール 公式オンライン ブティック及び一部店舗にて先行発売

——特別な抽出法とはどのような方法ですか?

詳しくは明かせないのですが、30年ほど前に用いられていて、近年はあまり使われなくなった方法です。6ヶ月の試行錯誤を経て、ようやく理想的な香りが抽出できました。ジャスミンは夜明けにはグリーンの香り、摘まれた瞬間はオレンジのようにフルーティな香り、夜には動物的な濃密な香りというように、さまざまな表情を持っています。私が「ミス ディオール パルファン」で表現したかったのは、ジャスミンの、明るく包み込むようなファセット。ストロベリーやピーチ、アプリコットを思わせる香調です。このフルーティでグルマンな香調こそが、新しいパルファンの鍵となっています。

——たしかに「ミス ディオール パルファン」は、纏った瞬間にストロベリーのような香りが立ち上ります。これがジャスミンの香りだったなんて驚きです。

初代の“ミス ディオール”は、「シプレー」の代表といえる香りです。フローラルとウッディを組み合わせた、フランスの洗練された香りの表現ですね。このシプレーの構造に敬意を払いつつ、新しい解釈を加えたかった。ワイルド ストロベリーのグルマンな香調を重ね合わせることで、今の「新しい世代」を映し出せたら、と考えました。

——最後に。“ミス ディオール”は初代から「新しい世代」を象徴してきた香りです。クルジャンさんが思い描く、現代の新しい世代とは?

今の新しい世代は、ファッションやライフスタイルに大きなトレンドがないように感じます。皆さんそれぞれのスタイルがあって、自由に自己表現を楽しんでいる。そんな彼らの「多様性のある表情」を香りに込めたいと思って作ったのが「ミス ディオール パルファン」です。

 

変わらないために、変わり続ける。新しい世代を象徴する香り

1947年から2024年へ。“ミス ディオール”は時代とともに「絶えず変わり続ける運命」にある香り。そしてまた、「変わらないために、変わり続ける」香りでもある。伝統的なシプレーに、今回見出されたクリスチャン・ディオールの想いを重ね、さらにプロヴァンスの宵の空気や現代の新しい世代のエッセンスを融合する——。これらすべてをまとめ上げて誕生した「ミス ディオール パルファン」で、新たな香りの世界を堪能して。

ジャスミンが奏でる甘美なグルマンと、みずみずしい花々が溶け合い、時間の経過とともにウッディやモスの温もりで包み込んでいく。まとうことで、喜びがあふれ出すような香り。ボトルには千鳥格子の刻印、首元には銀糸のダガーボウをあしらい、クチュール フレグランスの新しい扉を開く。

ミス ディオール パルファン 35ml ¥13,200、50ml ¥18,040、80ml ¥23,100 〈80mlは店舗限定〉(5月17日発売)/Dior(パルファン・クリスチャン・ディオール) ※5月15日よりディオール 公式オンライン ブティック及び一部店舗にて先行発売

Dior パルファン・クリスチャン・ディオール
TEL/03-3239-0618
URL/www.dior.com

Text : Namiko Uno Edit : Naho Sasaki

Profile

フランシス・クルジャンFrancis Kurkdjian ディオール パフューム パフューム クリエイション ディレクター。26歳で調香師としてのキャリアをスタートして以来、香水史に残る数々の名香を手がけ、アーティスティックな調香と真摯な言葉で香りを語る姿勢で世界中の人々を魅了してきた。2009年に芸術文化勲章「シュバリエ」を受勲。2021年より現職に就き、名香「ジャドール」をはじめディオールのフレグランスに新たな息吹を吹き込んでいる。

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