エコフレンドリーなスカンジナビアを体感する。スウェーデン北部・ルレオへの旅 | Numero TOKYO
Life / Feature

エコフレンドリーなスカンジナビアを体感する。スウェーデン北部・ルレオへの旅

スウェーデン北部のラップランドにある地方都市、ルレオ。北緯65度に位置し、あと1度進めば北極圏である。夏の白夜や冬のオーロラなど、美しく神秘的な地球をダイレクトに感じさせる光景は、一生に一度は目にしたいもの。

クルマで移動中、道路を横切るトナカイの群れに遭遇した。
クルマで移動中、道路を横切るトナカイの群れに遭遇した。

だが日本からルレオに行くには、なかなかの手間と時間がかかる。スウェーデンへの直行便はないため、まずは隣国フィンランドのヘルシンキを経ての入国。そこからさらに飛行機や長距離列車に乗り継ぐ必要があるのだ。でも苦労してたどり着く甲斐あって、ルレオでこそ実現できるエコフレンドリーな体験はいくつもある。

まずは今回の旅で宿泊した、地の利を活かしたユニークなホテルの紹介から始めよう。

【目次】
1. 森のなかの木上のホテル「Treehotel」
2. 川に建つ水上ホテル「Arctic Bath」
3. サウナ&コールドバス・セラピーセッション
4. 氷上のアクティビティ
5. ダイバーシティなスウェーディッシュ・フード
6. 魅惑のノーザン・ライツ

1. 森のなかの木上のホテル「Treehotel」

ルレオが世界的に有名な観光地となるきっかけとなった、「Treehotel(https://treehotel.se)」。2010年の創業で、トリップアドバイザーの「死ぬまでに泊まりたい世界のツリートップホテル12」の第1位にもなっている。

客室は8つのキャビンのみ、そのすべてが森のなかの木の上にある。すべて北欧の建築家によってデザインされており、建材や家具もメイド・イン・スウェーデンで地産地消。設計だけでなく運営についてもエコフレンドリーで、たとえば各部屋のトイレは、下水・浄化槽が不要だから木上という環境でも設置可能な焼却式だ。使用するごとにボタンひとつで処理されるのでとても清潔だし、排泄物が最後は灰になるというのもなんとも気分がいい。

泊まった部屋は、森と見事に調和した「Bird’s nest」。「Treehotel」のキャビンのなかで最も狭いが、最も同ホテルらしい部屋だともいえる。客室の出入りは梯子のみで、ドアを閉めれば木の上の、自分だけの城になるという高揚感はこの部屋ならでは。

そのほか、それぞれ趣向の異なるデザインのキャビンが森のなかに点在している。

まさに宇宙船に乗り込む気分を味わえる「UFO」。内部はレトロフューチャー。

ダブルベッドと、ロフトにシングルベッド2台を備えた「Blue Cone」は、バスルームも充実。

350個の鳥の巣箱で覆われた、プライベートサウナつきの「Biosphere」。いちばん新しくできた部屋。

鏡張りの四面体で、森の風景に完全に溶け込んでしまう「Mirrorcube」。室内の灯りがドット状に漏れ出る夜の外観も美しい。

専用橋を渡って入室するとまず階段があり、降りるとベッドルームが。「The Cabin」は、ウッドデッキもあって開放的。

大きな窓からルーレ川の渓谷を見渡せるベッドルームがある、優雅な「Dragonfly」。

部屋から森を歩くトナカイもオーロラも見放題! 2部屋のベッドルームやラウンジがあるラグジュアリーな「The 7th room」。

フロントから各部屋には、5~10分森のなかを歩いていく。トナカイやリスと出くわしたりも。

2. 川に建つ水上ホテル「Arctic Bath」

ルレオで「Treehotel」と双璧をなすホテルが「Arctic Bath(https://arcticbath.se)」。「Treehotel」が森のなかの木の上にあるのに対して、こちらはルーレ川に建つ水上ホテルだ。客室はこちらもすべて独立したキャビンで、特にフローティングキャビンは冬は凍結、夏は浮遊するというユニークな立地。

川面に浮かぶフローティングキャビン。バルト海のライムストーン性の床には暖房が効いていて裸足でも冷たくない。部屋にはエアコンもあるが、ここは俄然、ペレットストーブをつけてムードを盛り上げたいところ。

メイン棟は、かつてルーレ川が木材輸送路の重要拠点だったこの土地の伝統をリスペクトしたデザインになっている。「Treehotel」の「Bird’s nest」や「UFO」と同じベルティル・ハルストロームによる設計で、急流に巻き込まれる丸太が集積した様子を表したものだ。「Treehotel」と同じく、周囲の気候風土と融合することを目指したという。

「Arctic Bath」は、世界の独立系ラグジュアリーホテルが加盟する「スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)」のメンバー。
「Arctic Bath」は、世界の独立系ラグジュアリーホテルが加盟する「スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)」のメンバー。

岸側にある宿泊棟、ランドキャビン。川側のフローティングキャビンとは設えが異なるメゾネット式だ。

森のなかと水の上、コンセプトは違えど、どちらも自然環境を最大に生かし、ゲストがそれを最大限に享受できるしつらえになっている。スノーモービルや犬ぞり、ハイキングや釣りなど、季節ごとのアクティビティも用意されているが、何もせずただ部屋で過ごしたり、あたりをぶらついたりするだけでも十分。その場所を感じながら、ただ時を過ごす。それがこんなにも満足できるなんて、どれほど贅沢なことだろう。

キャビンの裏にまわると一面、凍った川のこの景色。
キャビンの裏にまわると一面、凍った川のこの景色。

ちなみに両ホテルともアメニティは、同じナチュラル系ブランド製品だった。せっかくいいホテルでもアメニティにこだわりが感じられないとがっかりするものだが、パッケージデザインも品質も香りも使い心地も申し分なく、しかも自国のメーカーのものを使用しているのが素晴らしい。

3. サウナ&コールドバス・セラピーセッション

サウナが北欧発祥なのは周知のとおり。たとえば「Arctic Bath(北極の風呂)」では、60℃のサウナ室と4℃の冷水風呂に交互に入る「コールドバスセラピーセッション」が受けられる。とりわけ今シーズンはマイナス40℃以下の日もあるなど、記録的な寒波が襲ったスウェーデン北部。そんな寒さのなかでの冷水風呂!?と及び腰にならないでもなかったが、せっかくここまで来たのだからと、意を決して体験することに。

冷水浴には、血行改善や筋肉回復、免疫力の強化、気分の高揚やストレス軽減など、心身の活性化が期待できるらしい。
冷水浴には、血行改善や筋肉回復、免疫力の強化、気分の高揚やストレス軽減など、心身の活性化が期待できるらしい。

まずはサウナ室に入り、木製の雛壇に腰掛ける。ガイドの静かな語り口調やマントラのような歌を聞いていると、しだいに心が落ち着いてくると同時に、全身からじんわり汗が出てくる。準備が整い、足先からこわごわ入った冷水風呂では、冷たさを通り越してもはや痛みを感じるほどだった。だが、それは皮膚の外側だけ。体の芯はサウナであたたまっているからかシバリングは起こらないし、水から出て氷点下の外気のなか裸同然でいても、不思議とさほど寒さを感じないのだ。

熱さと冷たさを交互に受ける体への激しい刺激とは対照的に、心は平安で静謐。特に熱さ=サウナにいるとき、薄暗いなかでしばらくじっと座っていると、瞑想しているような心境に。サウナがメディテーションの機能をもつことをこの日、初めて知ることになった。

4. 氷上のアクティビティ

スウェーデンには湖が多く、凍結するとそこは天然かつ広大な期間限定のプレイフィールドになる。週末はスケートを楽しむというファミリーも多く、場所によっては売店も出たりする盛況ぶり。

この3月、1メートルの厚さの氷が張ったルレオの大きな湖で行われたのは、ボルボの新型電気自動車「EX30」の試乗会。インストラクターの説明を受けたあと、湖上に設けられたアイストラックでスラロームトラックやハンドリングトラックを運転するというもの。日本ですでに発売されている後輪駆動の「シングルモーター・エクテンデッドレンジ」と、今年中に日本でもデビュー予定の四輪駆動「ツインモーター・パフォーマンス」。スムーズでパワフルなドライビングは共通しているが、ハンドリングのパワーとキレの違いをそれぞれのクルマで体感、ゲーム感覚で楽しむことができた。

ボルボはいわずと知れたスウェーデンが誇る自動車メーカーだ。100年近く前に創業した老舗で、その安全性については世界的に認知されているところだが、現在はその安全性に対する視野を地球規模にまで広げ、サステナブルな未来をつくるため一企業として積極的に取り組んでいる。具体的にはたとえば、2030年までにすべての生産車をEVに、2040年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするといち早く宣言している。新型EVの「EX30」は、そういった思想を表す最新のアイコンだ。

原材料がどのようにクルマのファブリックやパネルになるか、マテリアル別に示した標本。

繊細なカラーリングも、イルミネーションとサウンドからなるアンビエントテーマも、再生可能素材やリサイクルの素材を多く取り入れているのも、カーボンフットプリントを抑えているのも。スウェーデンの気候風土から生まれたクルマであることが、現地ではよりよく実感できる。

5. ダイバーシティなスウェーディッシュ・フード

スウェーデンの代表的な料理といえばミートボールを想起するかもしれないが、じつは今回の旅では一度もお目にかからなかった。代わりに食したのは、特産のトナカイの肉のほか、サーモン、マス、ニシン、ホタテなどの海産物。野菜やハーブなども含めて、地産地消やオーガニック産へのこだわりが強いレストランが少なくない。

付け合わせなどでのジャガイモの登場回数が多いのと、クラウドベリーや柑橘などのソースが使われるなど、酸味がアクセントの料理が多いのが印象的だった。また食事はビーガン向けの用意も必ずあり、ひと皿ごとのマリアージュにはアルコールと同等のノンアルコール版の提案も必ずあり、多様な嗜好への対応が徹底していた。

クラウドベリーは非常にメジャーなフルーツで、お菓子やジュースなどにもよく使われる。「Arctic Bath」のレストランには自家製のクラウドベリー漬けも。

どこででも目にするカネールブッレ(シナモンロール)は、フィーカに欠かせない人気おやつだ。
どこででも目にするカネールブッレ(シナモンロール)は、フィーカに欠かせない人気おやつだ。

6. 魅惑のノーザン・ライツ

スウェーデンの人口は約1000万人で、東京のそれよりも少ない。そのうえ国土の多くを針葉樹林が占めるという自然豊かな場所だ。そんななか、大いなる自然を感じられる現象として世界中の人々を魅了しているのはオーロラだろう。

「Treehotel」に滞在した夜、幸運にもそのノーザン・ライツを拝むことができた。ラップランドは比較的観測できる確率が高いエリアではあるものの、スウェーデン人たちも興奮していたから、在住者にとってもきっと、見られたら嬉しい現象なのだ。夜空を覆うその光景はちょっと恐ろしくもあって、不吉なことが起こる前触れだと人々がかつて信じていたこともわからなくはない。でも、ゆらゆら揺れる緑色のカーテンは非常に幻想的で、宇宙と地球と自分がダイレクトにつながっているようで、いつまでも見飽きなかった。

ルレオでのホテルや食べ物、アクティビティで感じたエコフレンドリーでサステナブルなスウェーデンの精神は、目の前の壮大な環境を素直にリスペクトしつつ、じつにスマートにナチュラルに体現されていた。エコやサステナビリティは地球に生きる者共通の志向だ。それは地球自身のアイデンティティに合致しているはずなのだから。

その土地の気候風土ごとに感じることやできることは異なるが、自分の暮らすところから遠いほど、違うほどに、翻って自分事について顧みることになる。よそに出かけることで、自分に還る。それもまた、旅の醍醐味だ。

取材協力/ボルボ・カー・ジャパン
https://www.volvocars.com/jp/

Photo & Text:Mick Nomura(photopicnic)

Magazine

DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

Gift of Giving

ギフトの悦び

オンライン書店で購入する