音楽家・原 摩利彦がレビュー「坂本龍一トリビュート展」 | Numero TOKYO
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音楽家・原 摩利彦がレビュー「坂本龍一トリビュート展」

「坂本龍一トリビュート展」展示風景 撮影:冨田了平 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
「坂本龍一トリビュート展」展示風景 撮影:冨田了平 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

2023年3月28日に逝去した音楽家・坂本龍一。メディアアート分野においてもはかりしれない功績を残した坂本龍一の追悼とともに、彼の演奏データをもとにした作品や国内外のアーティストによる作品などによって構成した「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」がNTTインターコミュニケーション・センター [ICC](東京・初台)にて開催中。坂本龍一の活動を継承し展開する本展を音楽家の原摩利彦がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年3月号掲載)

毛利悠子《そよぎ またはエコー》(部分を「坂本龍一トリビュート展」のために再構成)※2017/23年 撮影:冨田了平
写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
毛利悠子《そよぎ またはエコー》(部分を「坂本龍一トリビュート展」のために再構成)※2017/23年 撮影:冨田了平 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

これからも生み出され続ける「opus」

1998年に発表されたアルバム『BTTB』は「opus」という曲から始まる。原点回帰(Back To The Basic)を目指したこの作品の初回限定盤にはCDに加え、譜面と彼の演奏データ(MIDI)の入ったフロッピーディスクが付いていた。彼の原点にはピアノとともに、(譜面を)書くということ、そしてデータがあったのだ。この作品は、翌年発表された大規模な唯一のオペラ『Life』へとつながっていく(「opera」は「opus」の複数形)。

展示室中央に置かれた毛利悠子『そよぎ またはエコー』(※部分を本展のために再構成)のグランドピアノは坂本の演奏データを再生し、断片的なフレーズが鳴る。MIDIデータというのはとても容量が小さいのだが、鍵盤が物理的に動き、音が鳴ることによってデータは現実世界で重さを持ち、胸に迫ってくるものがあった。

共同キュレーターを務めた真鍋大度氏が述べているように本展覧会は「遺された価値あるデータを活用し、彼の芸術的志向を未来へと受け継ぐ作品を創出する」ものである。今後も坂本龍一のデータはたくさんのアーティストと出会い、作品(opus)を生み出し続けるだろう。すでに彼の最後の配信コンサートは『Opus』という映画にメタモルフォーゼしている。

ICC主任学芸員の畠中実氏がある記事で発言していた「坂本龍一というメディア」を体験できる、そして未来への起点となる展覧会だと思う。

毛利悠子《そよぎ またはエコー》(部分を「坂本龍一トリビュート展」のために再構成)※2017/23年 撮影:冨田了平
写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
毛利悠子《そよぎ またはエコー》(部分を「坂本龍一トリビュート展」のために再構成)※2017/23年 撮影:冨田了平 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

Photo by Neo Sora ©2022 Kab Inc.
Photo by Neo Sora ©2022 Kab Inc.

「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」

期間/2023年12月16日(土)~2024年3月10日(日)
会場/NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA
時間/11:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)
入場料/一般800円、大学生600円
休館日/毎週月曜日
※ 月曜日が祝日もしくは振替休日の場合は翌日休
URL/www.ntticc.or.jp
※詳細、最新情報は公式サイトをご確認ください。

Text:Marihiko Hara Edit:Sayaka Ito

Profile

原 摩利彦Marihiko Hara 音楽家。静けさの中の強さを軸にピアノを中心とした室内楽やフィールドレコーディング、電子音を用いた音響作品を制作。多くの舞台、映画、ドラマ、インスタレーションなどの音楽を手がける。最近では田中泯+名和晃平『彼岸より』の音楽を担当。https://www.marihikohara.com/

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