【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」vol.56 漫画家・芦原妃名子さんの訃報
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.56 漫画家・芦原妃名子さんの訃報
年末年始、ドタバタしており少し間があいてしまいました。2024年はじまったばかりですが、新年早々災害や事故もあり、それ以外にも悲しいニュースが絶えません。中でも昨日報じられた漫画家の芦原妃名子さんが自死されたというニュースは個人的にも衝撃を受けました。
日テレ「個人中傷やめて」 芦原妃名子さん死去「大変重く」
https://www.sankei.com/article/20240130-VLULKRSNUVJA7E75GIEC5UYUY4/
漫画が原作になったテレビドラマが放映されることは長らく珍しいことではありません。ただドラマを観る本数というのはかなり限られていて、というかほとんど観ないので今回の作品も観たことがなかったのですが、漫画は好きなこともあって『セクシー田中さん』は読んだことがあった作品でした。
現実問題として原作の世界観通りにちゃんとドラマ化できる作品は限られていて、読者や視聴者の立場としてはそこはあまり期待できないなと個人的にも以前から感じていました。今回の芦原先生の件で、原作の世界観が著しく損なわれたかたちでドラマ化されることが問題だ、といった議論が一部起こっていますが、ここは一概にそうではないと、言いたいです。
テレビで放映されることで作品の知名度があがり、コミックの売上があがるケースも少なくないので、出版社としてはウェルカムなことも多いでしょうし、漫画の作者も世界観が損なわれてもそっちのメリットを優先したいという人も少なからず存在しているでしょうし、そういった人たちとはこれまで通り、テレビ側がある程度自由に映像化するというかたちで問題ないのだと思います。そしてそういう前提で作られた作品の中にも当然名作はあると思います。
ただし、芦原先生はそういうスタンスでは全くなく、下記のような前提(※メインのものを抜粋、一部略)をドラマ化の条件として掲示した、と今は削除されてしまったブログに書かれていました。
「ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』」
「原作者が用意したものは原則変更しないでいただきたいので、ドラマオリジナル部分については、原作者が用意したものを、そのまま脚本化していただける方を想定していただく必要や、場合によっては、原作者が脚本を執筆する可能性もある」
さらに「これらを条件とさせていただき、小学館から日本テレビさんに伝えていただきました。また、これらの条件は脚本家さんや監督さんなどドラマの制作スタッフの皆様に対して大変失礼な条件だということは理解していましたので、「この条件で本当に良いか」ということを小学館を通じて日本テレビさんに何度も確認させていただいた後で、スタートした」とも書かれていました。
もしこの内容が事実で、今回の件がこれが守られなかったことに端を発する悲劇なのだとしたら、上の記事の前に逝去の報を受けてただお悔やみを発表した日本テレビのコメントはあまりにも噛み合ってないもの、となり、酷い約束違反を犯していることになります。また、上記リンク先のニュースの内容の「個人中傷やめて」というメッセージは、ネット上で脚本家の方が責められていることも含まれていると思うのですが、仮に脚本家のソーシャルへの投稿が反論のトリガーになっていたとしても、今回の件は脚本家が最初に責められるべき対象ではなく、まず日本テレビが責任を負うべきことです。
また、小学館から日本テレビに伝えた、と上にあるので、芦原先生が直接抗議を出すのではなく、作家を守るべき立場として出版社がエージェント的な立場で出したほうがよかったのかもしれません。
おそらく多くのドラマでテレビ側のやり方ということが通常なのを芦原先生がご存知だったが故にこう書かれていると思うのですが「脚本家さんや監督さんなどドラマの制作スタッフの皆様に対して大変失礼な条件だということは理解」とまで書いて出した条件をテレビ局が了解したのであれば、それを履行するのはテレビ局の責任であり、今回はそういう前提だというのを脚本家にもしっかりと説明し、その条件で執筆してもらうのが筋です。説明を受けてできないのであれば請けなければいいですし、その前提で請けたのなら今回の脚本家のような説明はでてこないはずです。早急に第三者委員会等の設立し、事実関係の整理をしてもらいたいものです。
契約書がないからうやむやで何とかなる、というのもこれまでの慣行だったのかもしれませんが、それはもう時代遅れで、こういう条件付きのケースは必ず契約書を用意したほうがいいのでしょうし、書面がないからといって約束が守られないというのも許されることではありません。本当に悲しい結末になってしまいました。
出版業界の人も、テレビの人も気持ちよく働ける環境というのに少しでも近づいていくことを祈りつつ、芦原先生へのお悔やみの気持ちでいっぱいです。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue