“探究心”に輝く若手アーティスト4選
何かに魅せられ、意味を突き詰め、創意を凝らし、全霊を傾けて表現する。アートとは尽きせぬ問いの繰り返し。なぜやるのか、その先に何があるのか——。アーティストそれぞれの探究心、その飽くなき軌跡を、たどりながら見ていこう。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年12月号掲載)
ZEN|ゼン
“パルクール×アート”の目覚ましき探究
「15歳のときにパルクールの映像を見て、自分自身の肉体や周辺の環境に対するさまざまな“当たり前”の認識を疑うきっかけを与えてもらいました。自分も表現を通して社会にアプローチしていくことを天命だと思って活動しています」と力強く話すのは、アーティストのZEN。ビルからビルへ体ひとつで飛び回るパルクールのシーンで右に出る者のない実力者は、世界大会優勝を果たした2020年より自身の身体性を用いた作品を発表。まるで合成のような没入感のある写真作品で、今年6月に初個展を開催したばかり。今後は「コンセプトと視覚情報の掛け合わせから、人間の身体的衝撃を刺激する探究」を軸に絵画や立体作品の制作などにも挑戦。これからも鑑賞者の能動的な想像力を駆り立たせる。
1993年、東京都生まれ。ストリートの障害物に適応しながら心身を鍛えるスポーツ、パルクールと15歳で出合い、単身渡米。その哲学やメソッドにのめり込み、19歳で日本人初のプロになる。2015年にはアジア人で初の全米チャンピオンに輝き、日本の第一人者に。20年に世界大会で優勝し、同年より作品制作を開始。24年1月より阪急メンズ東京、博多阪急、阪急うめだ本店にて個展を順次開催予定。
https://www.zenshimada.com/
岡﨑龍之祐|Ryunosuke Okazaki
(作品2点)コレクション「002」より、縄文土器に着想を得たドレス『JOMONJOMON』シリーズ。
身体と造形が織り成す魅惑的な“生命”
2022年「LVMHプライズ」のファイナリストに選ばれたファッションデザイナー・岡﨑龍之祐。彼の発表の場はランウェイから個展までと幅広いが、一貫して「人と自然の調和」と「祈り」を表現の核に置いている。伸縮性のあるニットとプラスチックの曲線が組み合わさった造形に、彼は「作品が持つ空気感や様態、偶然出来上がる形の中の“生命”」を探究する。あえて設計せず左右対称に組み上げる制作プロセスに、生きものが形を帯びていくさまを感じるのだという。「表現はある種、自分自身に向き合うことでもあります。これからも心赴くままに手を動かし続けていきたいです」。生命と自己への探究。まるで新たな生命が誕生したかのような神秘性が老若男女、世界中の人々の心を揺り動かす。
1995年、広島県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻を首席で卒業。クマ財団「クリエイター奨学金制度」の4期生。2021年9月、デビューコレクション「000」を発表し、国内外から注目を集める。翌年、渋谷にてランウェイ形式で「001」を実施し、自然と人間の営みをコンセプトにした特徴的なアートピースを展開。「Forbes 30 Under30 Asia」を受賞するなど、躍進を続ける。
https://ryunosukeokazaki.com/
沼田侑香|Yuka Numata
ビーズで紡ぐ現実×デジタルの新次元
沼田侑香は、近年海外のアートフェアや展示にて精力的な発表を行う日本人若手アーティストの一人だ。彼女が無数のアイロンビーズを使って描く日常的な商品パッケージには、どこかバグのような歪みが生じる。そこには「デジタル社会といわれる現実世界の場所」への探究心が込められている。まずデジタル上で作られたイメージは、一つずつピクセルを並べるようにビーズへと出力。デジタル⇄アナログの時間の伸縮を鑑賞者に想起させることで、日々スピード化されていく情報社会への適否を投げかけていきたいという。「仮想空間よりも、もっと大事なものがあると信じています。今後も作品を通して現代の時代性をどのようにして残せるかを考えながら、表現を突き詰めたいです」
1992年、千葉県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了。デジタルネイティブ世代として、現代の時代性や世代的特徴を取り込み作品に置換。現実の存在性と移り変わる先をテーマに、加工したデジタルイメージをアナログな作業に置き換えて現実世界における場所性を追求している。近年の個展に「Imaginary farm」(Gallery SCENA./東京)、グループ展では「positions art fair」(ベルリン)などに参加。
https://tokyointernationalgallery.co.jp/ja/artist/yuka-numata-jp
山中雪乃|Yukino Yamanaka
生身(モチーフ)を離れて現れる女性像の探究
若干24歳にして、この冬に東京・渋谷のDIESEL ART GALLERYにて個展を開催するアーティスト、山中雪乃。大学院在学中より京都と東京の両方で精力的に作品を発表してきた。滑らかな筆致、滴る絵の具によって浮かび上がる抽象的な女性像。かつては具象的に描いていたそうだが、絵画を探究し続けた結果「自分自身もコントロールできない過程を経て、描いたイメージが物理的に持つ質感から離れ、モチーフそのものが持つ本来の姿を想像させる」作品に行き着いた。これまで撮影した他者の写真をもとに人物像を描いていたが、近年では自画像を通して自己認識に向き合っている。これからも絵画への探求を通して、自己と他者の存在や境界について思考し、作品を生み出していく。
1999年、長野県生まれ。2023年に京都芸術大学大学院美術工芸領域油画専攻を修了。大胆かつ特徴的な筆致で独自の女性像を探究し、脚光を浴びる。主な個展に「figure」 (haku kyoto)、「attitude」 (biscuit gallery/東京)、グループ展では「PLAY A」 (CON_tokyo/いずれも2022年)など。12月1日(金)より、個展「POSE」をDIESEL ART GALLERY(東京・渋谷)にて開催。
https://biscuitgallery.com/yukino-yamanaka/
Select & Text : Yoshiko Kurata Edit : Keita Fukasawa