テリー・ツワイゴフ監督にインタビュー「やはり『ゴーストワールド』は早すぎました」
アメリカでティーンエイジャーのバイブルとして支持された同名グラフィック・ノベルを原作にした映画『ゴーストワールド』が22年ぶりに日本で上映される。主演は当時17歳のソーラ・バーチと当時15歳のスカーレット・ヨハンソン。アカデミー賞の作品賞を含む4部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した『JUNO/ジュノ』やゼンデイヤ主演のドラマシリーズ『ユーフォリア/EUPHORIA』といった作品に影響を与えた“早すぎた青春映画の傑作”だ。
1990年代のアメリカ都市郊外の名もなき町を舞台に、幼馴染で親友のイーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)は、高校卒業後も進路を決めず、何か面白いことがないかを探すため、日々街をさまよっている。ある日、ふたりはレコードマニアの中年男・シーモア(スティーブ・ブシェミ)と出会う。決してメインストリームではないけれど、自らが愛するカルチャーを大事にして生きるイー二ドはシーモアを“同志”として認識。距離を縮めていく。一方で、地元のコーヒーショップで働き始め、自立しようとするレベッカ。社会からのはみ出し者として生きていた二人の友情に変化が訪れる──。
自らを“大多数の人々”と断絶させながらも、外の世界に興味津々だったティーンの気持ちがリアルに描写され、アウトサイダーとして生きることの楽しさと難しさを描いた『ゴーストワールド』。オフビート感満載のキャラクターたち、ポップなファッション、多彩でレアなサウンドトラック等、多くの魅力を宿す本作が、日本をはじめ、さまざまな国で『ゴーストワールド』が未だに愛され続ける理由とは? テリー・ツワイゴフ監督に訊いた。
アウトサイダー青春映画の金字塔! 監督自身が振り返る『ゴーストワールド』の魅力
──『ゴーストワールド』が日本で22日年ぶりに全国上映されることが決まった時はどう思いましたか?
「日本にこの作品のファンがいることを知らなかったので嬉しかったです。とても不思議なのが、公開から25周年や20周年という節目のタイミングの再上映ではなく、22年ぶりということでした。それはさておき、再上映によってより多くの人に本作が観てもらえるかと思うととても嬉しいです。アメリカでも度々再上映されていますし、僕が監督した『バッドサンタ』(2003年)の公開タイミングで日本に訪れたときに、何人かの方から『ゴーストワールド』のファンですと声をかけられたことを覚えています」
──ドラマシリーズ「ユーフォリア/EUPHORIA」(2019年)等にも影響を与え、「時代を先取りしていた作品」と位置付けられることについてどう考えていますか?
「私はいわゆる巨匠と言われている、オーソン・ウェルズやジョン・ヒューストン、アルフレッド・ヒッチコック、ビリー・ワイルド、小津安二郎や黒澤明、そしてフランス映画のジャン=ピエール・メルヴィルといった監督たちに影響を受けました。一番影響が大きかったのはウディ・アレンとスタンリー・キューブリック。僕はできれば小津のような作風に影響を受けた映画を作りたかったんですが、それは無理でした(笑)。
『ゴーストワールド』が公開された当時、『どうやって楽しめばいいかわからない』という反応が多くあったため、一般の方々を招いた試写会を開催してアンケートを取りました。『映画は好きじゃないけど、音楽は大好き』という意見がとても多かった。その結果は僕にとっては意外でした。僕が監督した70年代のカルト・コミック『フリッツ・ザ・キャット』の原作者であるロバート・クラムを描いたドキュメンタリー映画『クラム』も最初は受け入れられず、『変な映画だ』とか『ストレンジだ』と言われました。でも、『クラム』も『ゴーストワールド』も少しずつ受け入れられていきました。
ただ、私が不満に思っているのが『ゴーストワールド』の6年後に公開された『JUNO/ジュノ』は『ゴーストワールド』と同じくアウトサイダーの10代の女の子の友情を描いていて、同じプロデューサーが手掛けているにもかかわらず、公開されると同時にたくさんの人に受け入れられ、200億ドルぐらいの興行収入を記録しました。そこから10年ほど経って公開された『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』もたくさんの人に受け入れられた。やはり『ゴーストワールド』は早すぎたってことでしょうね。僕自身の話をすると、僕と原作マンガの作者であるダニエル・クロウズが言いたいことを、イーニドとレベッカという10代の女の子が代わりに言ってくれたからこそ誰にもとがめられない。とても自由で解放される感覚がありました(笑)」
──『ゴーストワールド』の色褪せない魅力をどう捉えていますか?
「僕が何度か本作を観てとても誇りに思ったのは、脚本がよくできてるということと、キャストの演技が素晴らしいということです。特にブシェミの演技は、おそらく彼のキャリアの中でベストなんじゃないでしょうか。ブシェミは少し説明をしただけで、何の助言も必要なく、素晴らしい演技をしてくれた。一番僕の助けを必要としていたのはソーラでした。彼女は最初、笑わせようとする芝居をしていたので、『笑わせることは意識しなくていい。ナチュラルな方がリアルで面白くなる』ということをしっかりと話して、一緒に構築していきました。一方で、スカーレットは寝そうなぐらいに退屈してましたね(笑)」
──(笑) イーニドとレベッカのキャラクターはとても魅力的で、ふたりのファッションはとてもポップで未だに人気があります。それについてはどう感じていますか?
「衣装を担当してくれたメアリ・ゾフレスの才能のおかげだと思います。イーニドとレベッカの衣装は完全に彼女にお任せしたにもかかわらず、パーフェクトでした。一方、美術の先生・ロベルタを演じたイリーナ・ダグラスはやり過ぎだと思いました(笑)。電話で打合せをした時に『役をしっかりと理解してくれてる』と感じたのですが、現場に来た彼女の髪の色はオレンジでした。『ウィッグですか?』と訊こうと思ったんですが、もし役に合わせてオレンジに染めてくれているのだとしたら申し訳ないと思って訊けませんでした。
メアリから『シーモアはどんなファッションがいい?』と訊かれて、僕は『普通がいい』と答えました。そうしたら、僕が普段着ているようなカーディガンとぶかぶかのパンツをシーモアに着せたんですよね。僕にとっての普通のファッションがそれだったんですが、それをそのままシーモアの衣装にしたのが面白かった。メアリとは『ゴーストワールド』の後、また一緒に仕事をしたいと思って何度か声をかけたのですが、コーエン兄弟やスピルバーグとも仕事をするようになり、忙しすぎてスケジュールが全く合いませんでした」
──レコードやアンティークの雑貨で埋め尽くされているシーモアの部屋は監督の趣味が反映されているそうですね。
「シーモアの部屋に置いてあるものは全部サンフランシスコの自宅からトラックでロサンゼルスまで運んだ僕の私物です。小道具担当のスタッフが、アンティークの雑貨を探していたんですが、良いものがなかったんです。大切に扱ってくれるならという条件付きで私物を提供しました。あのコレクションは僕が人生をかけて集めたとてもクオリティの高いものばかりです。おかげでイメージ通りのシーモアの部屋が作れました」
──時代とともに若者のライフスタイルも変わり、今はイーニドとレベッカのように面白いことを探して街を歩き回るのではなく、スマホの世界に閉じこもる若者も多いです。それについてどう思いますか?
「スマホの世界に閉じこもる若者は、とても奇妙で孤立した環境で生きていると思います。それこそ、この映画とはまた別の“ゴーストワールド”に入り込んでしまっているのではないでしょうか。ただ、僕自身も若い頃は出歩くこともありましたが、今はあまり外出しません。ネットで面白いものを見つけたり、昔の音楽を聴いたり、昔の映画を観ることが多い。例えばテイラー・スウィフト等の今のポップカルチャーやアメフトには全く興味がないんですよね」
──改めて、“早すぎた青春映画”と言われる『ゴーストワールド』がアカデミー脚本賞にノミネートされる等の快挙を成し遂げたことについて、どう思っていますか?
「嬉しかったです。ただ、私はリッチになりたいわけではなく、自分が『いい』と思える作品を作りたいと思っているだけなんです。『ゴーストワールド』を含めた何本かの作品は自分が思った通りの作品になったので、とてもラッキーだと感じています。『バッドサンタ』はギャランティをたくさんもらえましたが、脚本がそんなに気に入るものではなかった。妻は『ギャラをたくさんもらえる作品を撮ってください』と言うのですが、1本の映画を撮るのに2年くらいかかるので、納得できない作品のためにそれだけの時間を費やすのには僕はもう歳を取りすぎています。
最近、ある映画祭で自分の過去の作品をまとめて観る機会があったのですが、半分は好きな作品で半分はそんなに好きではないと思いました。後者の作品は撮り直したいと思ったこともあるのですが、時間は元には戻せません。そういえば、ソーラ・バーチが『ゴーストワールド』について話しているインタビューを読んだんですが、『ゴーストワールド』を観て今後こういう映画には絶対出たくないと思った。イーニドみたいな小生意気な娘に誰が惹かれるんだろう?と思った、と話していて、笑ってしまいました(笑)」
『ゴーストワールド』
出演/ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンソン、スティーヴ・ブシェミ、ブラッド・レンフロ ほか
監督/テリー・ツワイゴフ
原作/ダニエル・クロウズ『ゴーストワールド』(プレスポップ刊)
脚本/ダニエル・クロウズ、テリー・ツワイゴフ
製作/ジョン・マルコヴィッチ
⾐装デザイン/メアリー・ゾフレス『ラ・ラ・ランド』『ノーカントリー』
⾳楽/デヴィッド・キティ『アートスクール・コンフィデンシャル』『ベイビー・トーク』
配給・宣伝/サンリスフィルム
© 2001 Orion Pictures Distribution Corporation. All Rights Reserved.
11月23日(木・祝)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
https://senlisfilms.jp/ghostworld/
Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Chiho inoue