主演アイナ・ジ・エンドにインタビュー『キリエのうた』に引き込まれて | Numero TOKYO
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主演アイナ・ジ・エンドにインタビュー『キリエのうた』に引き込まれて

岩井俊二監督による待望の“音楽”映画最新作『キリエのうた』。アイナ・ジ・エンドが初めて映画の主演を務めることや吉田ユニが手がける鮮烈なプロモーションヴィジュアルなど、公開前から気になって仕方がないこの映画の魅力を徹底取材!『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年11月号掲載)

アイナ・ジ・エンド 第2のステージへ

カルト的な人気を誇ったグループ、BiSHを6月に解散し、『キリエのうた』で映画初主演を務めるアイナ・ジ・エンド。次なるステージに羽ばたく彼女にいまの心のうちを聞いた。

ドレス¥126,500/N°21(イザ) 中に着たキャミソールワンピース¥53,760/Svnr(リディア) ピアス¥10,450/Justine Clenquet(ザ・ウォール ショールーム)
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──以前、弊誌のインタビューで好きな作品として岩井俊二監督の『PiCNiC』を挙げていましたが、その岩井監督から主演のオファーがあったときはどう思いましたか。

「すごくびっくりして、最初はドッキリだと思いました(笑)。でも岩井俊二さんの世界観に携われるなら、こんなにうれしいことはないなと思ったので飛び込ませていただきました」

──映画の内容についてはどんな印象がありましたか。

「オファーをいただいた段階では脚本は完成していなくて、音楽が中心の映画であり『曲を書いてほしい』ということは伺っていました。最初は路上で歌っているような小さな世界観の作品を想像していたんですが、撮影しながらどんどん壮大になっていった感覚があります」

──岩井監督から何かリクエストやアドバイスはありましたか。

「お芝居については驚くほど何もありませんでした。どうやって役づくりをするのかもわからなかったので、現場で広瀬すずちゃんや松村北斗さんのお芝居を見て学んでいったんです。お二人は佇まいで教えてくれた感覚が強くありましたね。岩井さんがくれたヒントもたどりながら、徐々に『キリエはこういう人なんだ』と理解していきました。特にすずちゃんとの撮影期間が長かったこともあり、すずちゃんがクランクアップするときは『離れたくない』と思って、一人でロケバスで泣いてしまうぐらい思い出深い時間を過ごさせてもらいました」

──撮影が進む中で脚本ができていったそうですが、そうなると「とにかく目の前のことに集中しよう」というお気持ちだったんでしょうか。

「そうですね。起承転結の大まかな流れはわかっていながらも、『ここでシーンを足そう』とか『1曲追加しよう』っていうふうに膨らんでいきました。岩井さんから『明日はあの曲の撮影できる?』ってメッセージが来て、『できますが、ぐちゃぐちゃのギターです』と返すと『やってみよう!』って送られてくるみたいな(笑)。でも岩井さんからクランクインの日に、『人間は明日何が起こるかわからない。でも台本があると明日のことがわかってしまって、明日はこれだけ感情が爆発するから今日は控えめにしよう、と思って芝居を作ってしまう。人間の営みと一緒で今日を精いっぱい生きればいいんだよ』と言われてすごく納得したんです。それで『今日のことを一生懸命やろう』と割り切ることができました」

──小林武史さんが手がけた主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」を聴いたときはどんなことを感じましたか。

「小林さんの曲の儚さや不安定さが好きなんです。でも『キリエ・憐れみの讃歌』を聴いたときは正直そういう感じがあまりしなくて、希望に向かって突き抜けていく曲だと感じました。でも私が歌うと、声質が少し荒削りで低めだからか不安定な強さが出た。小林さんはそこも見越してつくられたのかと思うと『すごい! 本当に日本の音楽の神様だ』と感動しました」

──映画の主人公として歌と向き合ってどんな感覚を覚えましたか。

「私も小さい頃はうまくしゃべれない子で、歌だったら気持ちを伝えられる感覚があったので、キリエ(路花)の気持ちはわかりました。彼女を通してアイナ・ジ・エンド自身が生きる場所をもらえた気がしてありがたかったです。私には歌しかないと思っているので、キリエを通して私自身も肯定されていくような期間でした」

──歌うこと、踊ることと、お芝居することを比べて明確な違いを感じましたか。

「正直お芝居のことはまだつかめていない気がしているんですが、すべてに共通していることとして呼吸が大事なんだなと思いました。歌は肺活量が少ないと息が続かないし、ダンスは深く息を吸わないと高くジャンプができない。お芝居は共演者の方と呼吸が合っていないと独り善がりなものになってしまうと感じました」

解散後の心の支え

──『キリエのうた』の公開はBiSH 解散後の大きなトピックになりますが、活動のヴィジョンにどんな影響を与えましたか。

「正直BiSHが解散する前は、解散した後のことを何も考えられなかったんです。他のメンバーは解散前に、つらさも感じながらちゃんと考えて行動に移していたので『本当に頑張っててすごいな』と思いました。私も考える機会をつくっていただいていたはずなのに、どうしても考えられなかった。だから10月に 『キリエのうた』が公開されるということは大きな心の支えでした。最近は少しずつお仕事が増えてきているんですが、『キリエのうた』しか決まっていない時期があったんですよね」

──考えないようにしていたのではなく、考えられなかったんですね。

「そうなんです。私はBiSHが好きすぎたんじゃないですかね。私は人との距離感が0か100で、『その間はいらない』と思って生きてきました。メンバーにすごく近づいていたし、他のことが考えられないくらいBiSHだった。周りの人からすると『アイナはソロ活動もしているし、そんなことないんじゃないの?』と思うかもしれませんが、ソロは『あの子、BiSHのメンバーらしいよ』とか『歌が良かったからBiSHのライブに行ってみよう』と思ってほしいからやっていたところが大きかったんです。プレッシャーではありましたが、それが生きがいでした」

──では今は表現活動に向き合う気持ちが大きく変わったんですね。

「はい。7月に『FNS歌謡祭』にAIさんと出演させていただいたとき、すごく楽しかったんです。これまでは、もし下手な歌を歌ってしまったら、『BiSHって歌が下手な子がいるグループでしょ』と思われてしまうという気持ちが無意識にあったんですが、『もう何を言われても自分にしか向かないんだ』と思って解放感がありました」

──メンバーそれぞれの今後の活動が発表されていますが、一人一人の夢を叶えるフェーズに突入したんだなと感じています。

「ハシヤスメ(・アツコ)とか、めちゃくちゃかっこいいです。この前1時間ぐらい電話したんですが、本当に頑張っていて尊敬します。リンリン(MISATO ANDO)とも私がよく行く音楽スタジオで、一緒に屋上で星を見たりご飯を食べて、気づいたら朝でしたね(笑)。今でもメンバーとはよく連絡を取り合っています」

『キリエのうた』
歌うことでしか“声”を出せない路上ミュージシャン、キリエ。姿を消したフィアンセを捜し続ける青年、夏彦。傷ついた人々に寄り添う教師、フミ。過去を捨て、名前を捨て、キリエのマネージャーを買って出る謎めいた女性、イッコ。13年間におよぶ幾度の出会いと別れを経て、キリエの歌が4人の物語をつないでいく。

原作・脚本・監督:岩井俊二
音楽:小林武史
出演:アイナ・ジ・エンド、松村北斗、黒木華、広瀬すず
10月13日(金)より全国で公開
https://kyrie-movie.com/

Photos:Takao Iwasawa  Styling:Ai Suganuma Hair & Makeup:Kato Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara

Profile

アイナ・ジ・エンドAiNA THE END 2015年、“楽器を持たないパンクバンド”「BiSH」のメンバーとして活動を始め、翌年メジャーデビュー。21年、自身で全曲の作詞・作曲を手がけた初のソロアルバム『THE END』をリリース。23年6月に惜しまれながらもBiSHを解散、現在はソロとして活動中。22年、ブロードウェイミュージカル『ジャニス』では主演のジャニス・ジョプリン役を務めた。今年10月13日に初主演映画『キリエのうた』が公開、また同作よりKyrie名義のアルバム『DEBUT』を10月18日に発売予定。

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