ソムリエがそっと教える、本当は秘密にしておきたい「ワインペアリング」の基本
こんにちは、ワインブロガーのヒマワインです! さて、Numero読者のみなさまはレストランなどで「ワインペアリング」を提案された、あるいは実際に楽しんだことがありますか?
シェフの料理の一皿ごとに、ソムリエが1杯ずつ合うグラスワインを提案してくれるという形式。料理とワインが互いを高め合って、これが最高においしくて、楽しい! なのですが、ワイン初心者の方や、あまりお酒が強くない方にはハードルがちょっと高いかもしれません。
そこで今回は、ソムリエの資格を持つ恵比寿のワインショップ、ワインマーケット・パーティの沼田英之店長に、ワインと料理のペアリングの基本を聞いてきました。レストランでの食事はもちろん、自宅でもワインがより楽しめる目からウロコの話がいっぱいですよ〜。それでは、さっそくいってみましょう!
【目次】
ペアリングとマリアージュ、なにが違う?
ペアリングの基本1:シャンパーニュとチーズクッキー
ペアリングの基本2:白ワインとコンテチーズ、バゲット
ペアリングの基本3:赤ワインとパルメザンチーズ+バルサミコ酢
ペアリングの基本4:オレンジワインとゆずピール
ワインとフルーツを合わせるのがペアリングのコツ
ペアリングの基本5:ピノ・ノワール(赤)とトリュフ
ペアリングの基本6:重い赤ワインとハーブの効いたサラミ
ペアリングとマリアージュ、なにが違う?
ヒマワイン(以下、ヒマ)「今回はワインと料理のペアリングの基本について伺いたいと思います」
沼田店長(以下、店長)「承知しました。まずは『ペアリング』と『マリアージュ』の違いについてお話しましょうか」
ヒマ「お、気になりますね。一般的には“同じ意味”で使われている気がしますが……」
店長「はい、私見も交えてお話しすると、マリアージュはいわば点と点を合わせる組み合わせ。料理とワイン、それぞれ『これしかない!』という組み合わせです。マリアージュとはフランス語で結婚の意味ですが、まさに料理とワインの結婚だとイメージしてください」
ヒマ「はい」
店長「それに対して『ペアリング』はもう少し大きい意味での相性の良さを表します。結婚までいかないけど、もう何年も付き合っているとか、あるいは付き合い始め、もっといえば互いに気になっているくらいまでを含むのが『ペアリング』という言葉だと思うんです」
ヒマ「互いに気になっているくらい」の状態……一番楽しい時期じゃないっすか(笑)」
店長「料理とワインの相性を『結婚』レベルまで突き詰めるのはプロでも大変。でも、『この人、ちょっといいかも』レベルであれば、一般の方でもちょっとのコツを覚えれば、自分で再現することができるのが『ペアリング』だと思うんです。だからこそ、読者のみなさんにも気軽に挑戦していただけると思います」
ヒマ「いいですね! まず、どのあたりを意識するといいんでしょうか?」
店長「たとえば、根菜には寒い地方のワイン。葉ものの野菜には暖かい地方のワインを合わせる、といったところでしょうか。理由がわかりますか?」
ヒマ「全然わかりません!(笑)」
店長「すみません、少し意地悪でした(笑)。たとえばフランス北東部のアルザス地方は、気候が冷涼なので葉野菜より根菜のほうが栽培しやすい。そしてドイツとの国境に近いのでドイツ文化の影響を受け、豚肉をよく食べる。根菜と豚肉を一緒に鍋に入れて、それを煮込むとなにができるでしょう?」
ヒマ「なんだろう……ポトフとか?」
店長「正解です。ポトフにはアルザス地方の背の高いボトルの白ワインがよく合うんです。お店でもポトフを頼んだらアルザスのリースリングをグラスで頼んでみるとか」
ヒマ「いきなりめっちゃ面白いですね。葉もの野菜のほうは?」
店長「フランス南東部のプロヴァンス地方といえば、太陽がさんさんと降り注ぐ地域ですよね。なので、ナスやズッキーニ、パプリカ、トマトなんかがよく採れる。フランス国内では珍しくオリーブオイルも作られています。それらを鍋に入れて煮込むと……」
ヒマ「わかった、ラタトゥイユ!」
店長「そう! なので、白身のお魚の香草焼きにラタトゥイユ、みたいなメニューにはプロヴァンスのロゼなんか最高です」
ヒマ「想像するだけでおいしそう。でも、すごく面白い反面、それだと地域ごとの料理やワインについての知識がないと合わせるのが少し難しいかも、とも感じてしまいます」
ペアリングの基本1:シャンパーニュとチーズクッキー
店長「そうですよね。なので、ここからは具体例を挙げながら、応用しやすいペアリングのヒントをお伝えできたらと思います。まず手始めに合わせていただきたいのが、チーズとワインのペアリング」
ヒマ「お、まさに基本って感じがしますね。ただ、個人的にはチーズとワインを合わせるのって、簡単そうで難しいと感じています。組み合わせによっては生臭く感じちゃったり」
店長「ですよね。そこで、提案したいのが、クッキーやパンなどの香ばしさを加えてあげること。それにより、ワインと一気に合わせやすくなりますから」
ヒマ「ほー、そういうものですか」
店長「まず試してもらいたいのはシャンパーニュとチーズクッキー。まずチーズクッキーを口に入れて、それがなくなるかなくならないかのタイミングでシャンパーニュを流し込んでみてください」
ヒマ「うわ、チーズクッキーと合わせることで味わいに厚みが生まれた感じがします。そして酸味も穏やかになったような……!」
店長「シャンパーニュはステンレスタンクで醸造することが多いのですが、クッキーなどと合わせると、まるで木樽で熟成させたような香ばしいニュアンスが加わるんです。現地ではグジェールというチーズを混ぜたシュー皮と合わせるケースが多いですが、近所のパン屋さんで売っているチーズパンでもいいですし、クラッカーにチーズを乗せてもいいですね」
ヒマ「クッキーの香ばしさ、チーズの甘みと発酵のニュアンスが加わって、まるで熟成シャンパーニュを飲んでるみたい。無限にいけちゃいますねこれは」
店長「はい。シャンパーニュだけでなく、スペインのカヴァなど、もっとリーズナブルなワインでも全然OKです。このように、食材や料理に味わいをひとつ加えてあげることで、ワインの味わい劇的に引き立つことって多くあるんですよ。今回はそういった例をいくつか紹介したいと思います」
ヒマ「ぜひお願いします!」
ペアリングの基本2:白ワインとコンテチーズ、バゲット
店長「続いては、私がホテルで働いていた頃の思い出のペアリングです。コンテチーズとバゲット、そしてシャルドネ。コンテチーズはフランス国内で一番ポピュラーなチーズです」
ヒマ「シャルドネは白ワインの王道品種ですね」
店長「もう時効だと思うので話しますが、ホテル時代に後輩とコンテチーズをつまみにシャルドネを飲んでいたら止まらなくなっちゃって、思わずパンを一斤食べ切ってしまったことがあるんです。つまりそれくらい合います(笑)。フレッシュなコンテと、もうひとつスモークしたゴーダチーズを用意したので、どちらもバゲットに乗せて食べ比べてみてください」
ヒマ「フレッシュなコンテもよく合いますが、スモークのゴーダはちょっと驚きです。めっちゃくちゃ合う。パンの香ばしさとチーズの甘みとスモークの香りが加わって、まるでブルゴーニュの良い畑のワインみたいな、リッチな感じに化けました」
店長「スモークチーズは白にも赤にも合う万能選手ですが、少し樽の効いた(木樽で熟成させた)白ワインと合わせると、ワインに豊かさや香ばしさを足してくれるんです。バゲットの香りとの相乗効果も期待できます」
ヒマ「チーズ単体ではなく、パンを挟むことでワインとの架け橋になるのがすごく面白いですね」
店長「はい。お店では、『樽の効いた白ワインありますか?』と聞くといいと思います」
ペアリングの基本3:赤ワインとパルメザンチーズ+バルサミコ酢
店長「続いてはパルメザンチーズです。これはまず単体で白ワインと合わせてみてください」
ヒマ「おいしい! チーズの臭みがなくなる感じで、これはチーズだけでもよく合います」
店長「このチーズ、赤ワインに合うと思いますか?」
ヒマ「うーん、正直ちょっと微妙かも。“チーズ臭さ”みたいなものが強調されちゃう気がします」
店長「これと赤を合わせる秘密の方法があるんです。チーズにバルサミコ酢をつけて、赤ワインで流し込んでみてください」
ヒマ「うわ、すごっ! 赤ワインの果実味がさらに増幅されたような感覚があります。チーズの芳醇さも増した印象で、どちらもおいしい!」
店長「バルサミコ酢って、原材料はブドウなんです。だからとくに赤ワインとの相性は抜群。こうしてチーズと合わせるのもいい方法ですし、バルサミコ酢を一振りすれば、サラダと赤ワインも合わせられるんですよ。家に余っているバルサミコ酢を1/3くらいに煮詰めるだけで、おいしいソースにもなりますよ」
ヒマ「なるほど〜! 原材料が同じ黒ブドウだから相性がいいのは当然ですね」
店長「バルサミコ酢は私のなかでは『フルーツ枠』なんです。そして、これから詳しくお話ししますが、実はフルーツは料理とワインのペアリングには必須の存在なんです」
ペアリングの基本4:オレンジワインとゆずピール
店長「さて、今度はオレンジワインとゆずピールを合わせてみてください」
ヒマ「面白い! オレンジワインに金柑とか甘夏の風味が加わって、まるで果汁を使ったカクテルのように感じられます。これは食後にダラダラつまみながら飲みたい(笑)」
店長「オレンジワインに少し足りていない華やかさや少しの苦味、酸味を補ってあげることで、ワインのポテンシャルを底上げしてくれるようなペアリング。ゆずだけでなく、ライムピール、オレンジを乾燥させたチップスなんかも好相性です」
ヒマ「今まであまり意識していませんでしたが、ワインとフルーツ、合いますね!」
ワインとフルーツを合わせるのがペアリングのコツ
店長「ワインとフルートというと少し意外に感じるかもしれませんが、たとえばフランスのブルゴーニュ地方では『エポワス』っていうウォッシュチーズが有名なんですが、少しクセが強いのでブルゴーニュの代表的な赤ワイン品種であるピノ・ノワールと合わせると、少しワインが負けてしまう」
ヒマ「ウォッシュ系のチーズは合わせるの難しいと私も思います」
店長「でも、ドライフルーツが練り込んだパンにエポワスを乗せてあげると、一気にワインに合うようになるんです」
ヒマ「『チーズ』『パン』『フルーツ』、ここまで教えてもらったペアリングアイテム全部乗せって感じですね」
店長「なので、今日は和食なんだけどワインを合わせたいなんてときは、たとえば肉じゃがなら最後に巨峰などの生食用ブドウを数粒入れてひと煮立ちさせてあげると、ワインとの相性がグッと良くなるんですよ」
ヒマ「デザートのブドウが余ったときにぜひやってみたいです!」
店長「私はオレンジワインにゆずの皮を散らした切り干し大根を合わせるのが好きですが、それも同じ発想。お好み焼きのソースは実はフルーティですから、イタリアの発泡赤ワイン・ランブルスコが合います」
ヒマ「意外……だけど、今日のお話をうかがうと納得がいきますね。ソースにも果物が原材料に使われていることは多いですもんね」
店長「そして、果物といえば梅も実はワインとペアリングできるんです。焼き鳥屋さんでササミに梅肉とシソを乗せた串がありますよね?」
ヒマ「大好物ですが、合わせるならば白ワインですかね……?」
店長「実は赤のピノ・ノワールがピッタリ合うんです。スイカに塩じゃないですが、ピノ・ノワールを上回る酸味が梅肉にあることで、ピノ・ノワールの果実味がクッキリ浮き上がってくる」
ヒマ「意外ですが、ピノ・ノワールには梅やシソのニュアンスを感じることがありますから、考えてみると納得です」
ペアリングの基本5:ピノ・ノワール(赤)とトリュフ
店長「ここまではどちらかというと味わいで合わせるペアリングでしたが、最後に香りで合わせるペアリングもご紹介しましょう。たとえばこの白トリュフ塩を使ったミックスナッツは、ピノ・ノワールとよく合います」
ヒマ「これも驚き…! 熟成したピノ・ノワールのような複雑な香りを感じられます」
店長「それがトリュフの香りの効果です。たとえばキノコのチーズリゾットを造った際も、仕上げにトリュフオイルやトリュフ塩などをかけてあげると、一気にピノ・ノワールと合うようになるんですよ」
ヒマ「チーズリゾットは白ワインに合いそうですが、トリュフのニュアンスを足すことで赤寄りになるんですね」
店長「香りが強いものと香りが強いワインは合うと覚えておいてください」
ペアリングの基本6:重い赤ワインとハーブの効いたサラミ
店長「最後の組み合わせ、フェンネルを練り込んだスパイシーなサラミと重い赤ワインのペアリングです」
ヒマ「これは王道のおいしさ。赤ワインの果実味と青い草のような香り、そしてわずかなスパイシーさが、完全にサラミと調和して、互いを高め合っています」
店長「フェンネルのさわやかな香りとスパイスの香りは、どちらも赤ワインと好相性。チーズをかじるときでも、ちょっと胡椒を添えてあげるだけで、赤ワインに寄り添ってくれるようになりますよ」
ヒマ「実は私も食卓に自分専用スパイスを用意しています。ハーブだったりスパイスを加えることで、家庭料理をワインに寄せています(笑)」
店長「いいアイデアですね! このように、チーズやサラミ、あとは家庭料理でもスーパーのお惣菜でもいいんですが、少しなにかを足してあげて相性を高めるのがワインペアリングの基本。トリュフ、ハーブ、スパイスなどの香りを足してあげるのもいいですし、フルーツやパンなどで味わいを足してあげるのもいい」
ヒマ「いやー勉強になりましたし、いろいろなペアリングを試してみるのが楽しみになりました! ところで逆に、沼田さんがペアリングできないものってなにかあるんですか?」
店長「“ししゃも”です……。何度も何度もトライしているのですが、いまだに合うワインが見つけられていないんです。これを読んだ方で『このワインはししゃもに合う!』というのをご存知の方がいたら、ぜひ教えてください(笑)」
ワインマーケット・パーティ
住所/東京都渋谷区恵比寿4-20-7 恵比寿ガーデンプレイスB1F
営業時間/11:00〜19:30
Tel/03-5424-2580
winemart.jp
Photos & Text: Hima_Wine
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