【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.52 進化する夏の高校野球 |Numero TOKYO
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【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.52 進化する夏の高校野球

Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。

vol.52 慶應義塾高校の107年ぶりの優勝で幕を閉じた、夏の甲子園

Photo: Aflo
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夏の高校野球は、慶應義塾高校の107年ぶりの優勝で先日、幕を閉じました。高校まで神戸で育った僕は高校はもちろん大学も慶應とは縁がなくOBの方のような盛り上がり方をすることはなかったですが、典型的な高校球児スタイルの丸刈りではなく、灼熱のグラウンドで髪をなびかせながら溌溂とプレーする姿を愉しませてもらいました。

慶應義塾高校が夏の甲子園制す 107年ぶりの快挙で日吉に祝福あふれる

https://www.jukushin.com/archives/57978

ちなみに甲子園球場は来年100周年で、107年前、第2回大会時の1916年にはまだ存在しておらず、全国高校野球選手権は豊中球場で開催されていました。対戦相手の仙台育英高校は昨年の覇者で、今年は連覇を目指し決勝に臨んでいました。

ニュースから知る、世界の仕組み vol.29 仙台育英が夏の甲子園で初優勝

https://numero.jp/20220828-flip-side-of-the-news-29/

昨年のこの季節にも、仙台育英のことをこのコラムで触れていたのですが、最速150kmを超える速球を持つ高橋・湯田・仁田の三投手は2年生にして昨年甲子園の土を踏み優勝を経験していました。加えて、捕手、一塁手、遊撃手、外野手2人の5人も昨年の甲子園メンバーで、2年生が優勝メンバーの半分くらいを占めていました。それがゆえにメンバーがここまで重なった状態で2年続けて出場できたわけですが、それでも連覇できないところがまた甲子園の面白いところでもあります。

無論、昨年に引き続き決勝まで進出しているだけでも十分に称賛されるべきものですし、素晴らしい成果です。球児たちの自主性や定量性を重視した戦略でチームを強化してきた須江監督は、昨年の「青春ってすごく密」という言葉に続き、今回は「人生は敗者復活戦」という試合後のインタビューの言葉で我々の胸を打ちました。

かたや慶応高校のキャッチフレーズは「エンジョイ・ベースボール」。ただこの“エンジョイ”はやはりただ楽しんでプレーするということだけを指してやるのではなく、好きなものだからこそ自分たちで考えてやろう、というところに重きが置かれたもので、自由な髪型を強調しているものではないのです。

Numberの記事にありましたが、選手から監督に対して「この練習は必要ないと思います」という意見が述べられて実際にメニューが変更されたりということが珍しくなかったり、慶応高校の野球は、ひたすら監督の指示に従い、根性論で戦っていくという高校野球から連想されやすいスタイルとは全然別物のようでした。

仙台育英の須江監督にも論理的な戦略がベースにあり、選手たちがロジカルな納得感をもって練習に取り組むことを大事にしているタイプのチームだと思うのですが、昨年その新風が吹いて、今年も連覇まで突き進むかと思いきや、決勝で自分たちとは似て非なるさらなる新しい風と拮抗する、というのが今回の大会だったのかもしれません。実に見ごたえがありました。

ビジネスの世界も芸術の世界も、そしてスポーツもそうだと思うのですが、データから導き出されるロジックを理解しPDCAを回していくスピードがテクノロジーの発達によってどんどん早くなっています。その時代で勝ち抜いていくには、今までの勝ち筋を徹底して監督が選手にやらせるスタイルよりも、選手自身がロジック自体から理解して自分たちの力でも進化していくことが求められるということをこの2校の躍進が示しているのかもしれません。といいながら、来年は古いスタイルを徹底している伝統校が優勝したりすることもまた全然有り得るのがまた、高校野球の魅力ですね。

最後にひとつ、NHKの中継で、あの熱中症への注意をよびかけるテロップを出しながら炎天下の中の野球中継というのはちょっと異様すぎる光景だと思いました。甲子園でプレーをするということの意義はわかるので場所をドームに変更すべきとまでは思わないですが、早朝とナイターに試合を寄せるなど、もう少し選手の健康を守るための対策があってもいいのではないでしょうか。あの気温はさすがにスポーツをする環境ではありませんよね。

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Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue

Profile

山本憲資Kensuke Yamamoto 1981年、兵庫県神戸市出身。電通に入社。コンデナスト・ジャパン社に転職しGQ JAPANの編集者として活躍。その後、独立して「サマリー」を設立。スマホ収納サービス「サマリーポケット」が好評。

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