【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.51 この夏のフジロックとサマソニ
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.51 完全復活した今年の夏フェスを振り返って
新型コロナの感染も落ち着き、マスク着用は任意、歓声や合唱もOKとなったこの夏の音楽フェスティバル。僕は7月末に苗場で開催されたフジロックフェスティバルと先週末の幕張でのサマーソニック東京の2日めに参加してきました。
フジロック総括 完全復活した「いつものフジロック」と変化していくフェスのあり方
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/39821
サマーソニック総括 灼熱のステージで名演続々、史上最速ソールドアウトがもたらした熱狂
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/39908フジロックは大学一年生の時、18歳から毎回行っており、今年で23回目の参加になりました。サマソニは行ったり行かなかったりなのですが、去年はその週末は軽井沢で過ごしていて、2020、2021年は東京オリンピックや新型コロナの影響でサマーソニックとしては開催されなかったので、レッチリが目玉だった2019年以来4年ぶりの参加となりました。
今年はフジロックはストロークス、フー・ファイターズ、リゾの3組がヘッドライナー、サマソニは(僕は見てないですが)初日はブラー、2日めはケンドリック・ラマー(僕はこれを目当てに)でした。ともに天気に恵まれ、少々暑すぎたくらいでしたが、それぞれのよさを満喫しました。フジロックは前夜祭もいれて11万4000人の来場者数と例年の数字にかなり近づき、早々にチケットが完売したサマソニは東阪2日間でおそらく25万人程度の観客数だったはずです。
フジロックは3日券が55000円、1日券が2万2000円と3日券が49000円だった昨年から大幅な値上げがありました。観客数が今年より多かった年はあったはずですが、値上げ分を考えるとチケットの売上としてはおそらく過去最高の数字になっているのではと思います。サマソニは2日券が33000円、1日券が18000円となっています。
ざっくりと計算するとフジロックのチケット売上は20億円あまり、サマソニは50億円弱というあたりになるのだと思うのですが、売上は好調であっても円安から航空券の高騰などが原価に強く影響していて、相当運営が大変になっていっていることもまた容易に想像ができます。全体のコストを下げる必要があったのでしょうが、サマソニは昼間のタイムテーブルに日本人の若手アーティストの割合が例年以上に多かったように感じました。
フジのヘッドライナーを努めた黒人アーティストのリゾは今年グラミーを受賞し、今回の目玉でしたが、彼女をブッキングしたのは受賞前だったとのこと。だからこそ予算がフィットしたかも、といった話もあったようです。また、日本はヒップホップのアーティストが単独で大箱を埋めるハードルがなかなか高く、それもあってケンドリック・ラマーのブッキングも可能だったのかもしれません。カニエ・ウェスト、トラビス・スコットなどクラスのアーティストでも大規模な単独来日公演はほとんど実現されていません。
またフェスのチケットが値上がりしたとはいえ、人気アーティストの来日公演のチケットのインフレはそれ以上のスピードで、単独のスタジアム公演でもチケットが2〜3万円するケースも珍しくなくなってきています。フェスの1日券以上の価格で1日の動員数程度の枚数を完売させることができるアーティストにとってフェスのギャラが折り合わないのは、悲しいかな、致し方ないことなのです。
ただ、ビリー・アイリッシュやU2、レッチリやエド・シーランやブルーノ・マーズ、コールドプレイやテイラー・スウィフトなどはこういったケースに当てはまり、円安もあって今後日本のフェスで彼らを観ることはさらに難しくなっていくかもしれません。レッチリ呼ぶには今それだけで数億円かかってフジロックにはもう無理だ、みたいな噂話も聞きました。そんな中、必死に工夫してブッキングをやりきり、とはいえ魅力的なラインナップを提供してくれていることには(フジの)スマッシュにも(サマソニの)クリエイティブマンにも頭が下がります。
サマソニは東阪で2回ステージがあるので、経費を振り分けられる分、フジロックよりは高額なギャランティのアーティストを呼べる可能性がまだ高いですが、それでももちろん簡単なことではないのですよね。舶来のもののハードルがあがっていくという円安の影響がじわじわいろんなところで出てくる兆しがフェスにもあって、暑さで朦朧としながらいろんなことを感じる夏になっています。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue