蔡國強 × サンローラン「アートが拓く宇宙のヴィジョン」 | Numero TOKYO
Art / Feature

蔡國強 × サンローラン「アートが拓く宇宙のヴィジョン」

火薬を用いた壮大な作風で知られる世界的アーティスト──蔡國強(ツァイ・グオチャン)。サンローランのサポートのもと、原点の地・日本で新たな展望を描き出す。未来を照らす“白天花火”と、“宇宙に遊ぶ”大規模個展。その深遠なる眺めとは。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年9月号掲載)

1.蔡國強『満点の桜が咲く日』福島県いわき市四倉海岸で6月26日正午より行われた白天花火プロジェクトの実施風景より。 Photo: 蔡文悠 提供: 蔡スタジオ
1.蔡國強『満点の桜が咲く日』福島県いわき市四倉海岸で6月26日正午より行われた白天花火プロジェクトの実施風景より。 Photo: 蔡文悠 提供: 蔡スタジオ

2.蔡國強『満点の桜が咲く日』福島県いわき市四倉海岸で6月26日正午より行われた白天花火プロジェクトの実施風景より。 Photo: 辰巳昌利 提供:蔡スタジオ
2.蔡國強『満点の桜が咲く日』福島県いわき市四倉海岸で6月26日正午より行われた白天花火プロジェクトの実施風景より。 Photo: 辰巳昌利 提供:蔡スタジオ

3.蔡國強『満点の桜が咲く日』福島県いわき市四倉海岸で6月26日正午より行われた白天花火プロジェクトの実施風景より。 Photo: 蔡文悠 提供: 蔡スタジオ
3.蔡國強『満点の桜が咲く日』福島県いわき市四倉海岸で6月26日正午より行われた白天花火プロジェクトの実施風景より。 Photo: 蔡文悠 提供: 蔡スタジオ

白天花火プロジェクト『満天の桜が咲く日』
6月26日、福島県いわき市の海岸で約4万発の“白天花火”が炸裂した。同地は蔡國強がかつて居を構え、1994年に爆発プロジェクトを実施した場所。サンローランのクリエイティブ・ディレクター、アンソニー・ヴァカレロのコミッションのもと、東日本大震災の犠牲者を追悼し、新たな希望を描き出した。「政治や歴史を超えて結ばれた物語と絆を、満天の桜の花に託し、世界に信念と希望をもたらすことを期待しています」(作家コメントより)

火薬の美術家による“白天花火”プロジェクト

火薬の爆発によって絵を描く。そんな独創的な手法を駆使して、現代美術のトップランナーであり続けてきたのが蔡國強(ツァイ・グオチャン/さい・こっきょう)だ。

6月、彼の姿は福島県いわき市四倉の海岸にあった。約4万発の“白天花火(昼花火)”によって白菊や黒波、咲き誇る桜を表現する『満天の桜が咲く日』プロジェクト敢行のためだった(図1〜3)。世界中で巻き起こる災厄の犠牲者鎮魂と未来への希望を込めたパフォーマンスは、海辺の空間全体を束の間“絵画”へと変貌させた。

夢のような世界を現出させる蔡のこの活動を、パートナーとして支えたのはサンローランである。創設者イヴ・サンローランは生涯にわたり、アートとファッションの良き関係と融合の可能性を探究し続けた。DNAは受け継がれ、現クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロも、アートへの強いパッションを胸に抱く。現在サンローランは、これまで以上にアートをサポートし、幅広いコラボレーションを展開していく予定だという。

4.「宇宙遊 —〈原初⽕球〉から始まる」国立新美術館での展示風景、2023年(以下5-7も同様) Photo: 顧劍亨 提供: 蔡スタジオ
4.「宇宙遊 —〈原初⽕球〉から始まる」国立新美術館での展示風景、2023年(以下5-7も同様) Photo: 顧劍亨 提供: 蔡スタジオ

5.キネティック・ライト・インスタレーション『未知との遭遇』2023年 Photo: 顧劍亨 提供: 蔡スタジオ
5.キネティック・ライト・インスタレーション『未知との遭遇』2023年 Photo: 顧劍亨 提供: 蔡スタジオ

6.『歴史の足跡』のためのドローイング Photo: 顧劍亨 提供: 蔡スタジオ
6.『歴史の足跡』のためのドローイング Photo: 顧劍亨 提供: 蔡スタジオ

7.『銀河で氷戯』  Photo:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
7.『銀河で氷戯』  Photo:顧劍亨 提供:蔡スタジオ

国立新美術館における大規模個展
国立新美術館とサンローランによるサポートのもと、蔡國強が約40年にわたる活動の原点を見つめ直し、宇宙的視座へと誘う展覧会。東京で1991年に発表された、火薬ドローイングによる屏風7枚が放射状に広がるインスタレーション『原初火球—The Project for Projects』を自身の芸術宇宙の始まり=ビッグバンと位置付け、探求の軌跡とその行方を展望する。

深遠なる“芸術宇宙”体験へ

いわきでプロジェクトを成功させた数日後、蔡國強の姿は東京・国立新美術館にあった。大規模個展「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」の開幕に立ち会ったのだ。同展は国立新美術館とサンローランの共催となり、会場は2千平方メートルの無柱空間。そこに1980年代から最近作までの多彩な作品がぎっしり並び、壮観の一言。異次元の世界へ迷い込んだ気分だ。

最初に目に飛び込むのは、91年に東京で初披露された「原初火球」シリーズ。未来のプロジェクト構想を描き込んだ火薬ドローイング7点を、屏風型に仕立て放射状に配置している(図4)。まさにビッグバンのように、屏風絵は渦を巻きながら強いエネルギーを放散していると感じられる。

屏風群の奥に見えるのは『未知との遭遇』(図5)。宙空に浮かぶLEDがUFOやアインシュタイン像、外星人などの形をなし、折に触れてイメージが明滅する。いずれ人類が宇宙空間に遊園地を作ったら、こんな光景が見られるだろうか。

会場を囲む壁面にも、所狭しと作品が掛かる。北京の夜空を彩った『歴史の足跡:2008年北京オリンピック開会式のための花火』のために描かれたドローイング(図6)は幅33メートルにも達し、奥の壁を埋め尽くす。天空を舞う龍の姿を連想する『延長』にも見入ってしまう。万里の長城西端から導火線を延ばし、15分間にわたり爆発させた『万里の長城を一万メートル延長するプロジェクト:外星人のためのプロジェクトNo.10』を機に制作されたものだ。他に『満天の桜が咲く日』プロジェクトの記録映像コーナーもあり、充実の観覧体験を味わえる。

通覧すれば、作品がたたえる視野の広さや思考の深さ、時間軸の長さに圧倒される。スマホ画面から目を離し、時には遠くを眺め大いなる宇宙へ思いを馳せてはどう? 蔡とサンローランが手を携えて、そう提案してくれているかのようだ。

「蔡國強 宇宙遊 —〈原初火球〉から始まる」
国立新美術館とサンローランの共催により、約2千平方メートルの大空間に約50作品を展示。また、開幕に先立つ6月26日にはサンローランのコミッションワークとして白天花火『満天の桜が咲く日』を実施。その様子を収めた映像作品が6月29日にニューヨーク、上海など世界各地でプレミア上映。東京では原宿のStandByにて6月26〜29日にかけて過去の白天花火プロジェクトの記録を展示、上記映像の鑑賞会も行われた。

会期/6月29日(木)〜8月21日(月)
会場/国立新美術館 企画展示室1E
住所/東京都港区六本木7-22-2
Tel/050-5541-8600(ハローダイヤル) 
www.nact.jp

Text : Hiroyasu Yamauchi Edit : Keita Fukasawa

Profile

蔡國強Cai Guo-Qiang (ツァイ・グオチャン/さい・こっきょう)1957年、中国・福建省生まれ。86年に来日し、約9年間の滞在中に火薬の爆発による絵画作品を確立する。89年、初の屋外爆発プロジェクトを多摩川で実施。95年に拠点をニューヨークへ。以降、アメリカ・メトロポリタン美術館やグッゲンハイム美術館など世界各地で個展を開催。2008年、北京オリンピック開閉会式にて視覚特効芸術と花火監督を務める。過去に500以上のプロジェクトを展開し、近年はAI、AR、NFTなど先端技術を用いた作品にも取り組む。[写真]2023年 Photo:Adrian Gaut

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