N21 アレッサンドロ・デラクア インタビュー「私が目指しているゴールは、10年後も着られる服であること」 | Numero TOKYO
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N21 アレッサンドロ・デラクア インタビュー「私が目指しているゴールは、10年後も着られる服であること」

ミラノコレクションの常連ブランド、N21(ヌメロ ヴェントゥーノ)。福岡店のオープンを記念し、創業者でありクリエイティブ ディレクターのアレッサンドロ・デラクアが約10年ぶりに来日。ハイスピードで変化するファッションの世界のなかで、独自のポジションを築き、長く愛される理由を聞いた。

アレッサンドロ・デラクアは1996年に自身の名を冠したブランドを立ち上げ、2009年にN21(ヌメロ ヴェントゥーノ)を創設。数々のイタリアンブランドに携わった後、デザイナーとして着実にキャリアを積み重ねてきた。ブランド名はイタリア語で番号や数字を意味するN、彼の誕生日でラッキーナンバーの21を組み合わせたもの。自身の名の、21世紀への飛躍の思いも込めたのだという。

頻繁に起こるデザイナー交代でブランドのアイデンティティが見えにくくなっている今、ヌメロ ヴェントゥーノはアレッサンドロ・デラクアがオーナーデザイナーとしてクリエイションし、一貫したテイストでファンを増やしてきた。

N21 クリエイティブ ディレクター アレッサンドロ ・デラクア
N21 クリエイティブ ディレクター アレッサンドロ ・デラクア


──ファッションデザイナーを志したきっかけは?

「きっかけは映画です。ティーンエイジだった70年代に多くの映画を観て、俳優のファッション、女性のセンシュアリティやフェミニニティに大きな影響を受けました。イタリアはローマ郊外にチネチッタという映画撮影所があり、映画産業が盛んだった時代があります。家族の影響? 映画やモードに興味がある家庭ではなかったんですよ。それで生まれ育ったナポリからミラノに行き、著名な女性デザイナーの下で働き始め、この世界に入ったのです」

──この世界で長く活躍されてきて、時代や価値観の変化をどう感じていますか?

「モードがいちばん輝いていたのは90年代じゃないかな。今はシステムもガラリと変わりました。私にとって雑誌は重要ですけれど、ソーシャルメディアの登場で何もかもが目まぐるしく進んでいく状況。ショーも世界中どこにいてもスマホですぐ見られますが、10分後には飽きちゃうような、消費する感覚です。

でも私自身の仕事は実は何も変わっていないんです。これまでもたくさん働いてきたし、今もそうしています。ただ今は一度立ち止まって考え、変更する時間はありません。私はデザイナーである反面、企業家でもあります。この二刀流はとても複雑で、スタッフに任せている部分も多いですが、最後に決断はしなくちゃならない瞬間も出てきます。本音をいえばデザイン以外の仕事はやりたくないんですけどね(笑)。銀行の人などとややこしい話をする時間があったら、コレクションを1年に12回つくるほうがいいくらいです」

──ヌメロ ヴェントゥーノは女らしいけれど、リラックスして肩の力が抜けているように感じます。

「実はセクシーな服をつくるのは簡単なんです。でもセクシーとセンシュアルとは全く違うもの。糸一本くらいの微差ですが、たった2cmで洋服のシルエットは大きく変わります。それくらいディテールにはこだわっています。私はハリウッド的スーパーグラマーな服は好きじゃなくて、フェミニニティななかにフラジャイルや儚さをちりばめたい。トランスペアレントにしたり、バックスタイルをカットオフしたり、ほんの少しだけ不完全な部分をつくることでセンシュアリティを表現しています。

レオパード柄を例にあげましょう。イタリア流のセクシーで派手な解釈ではなく、シックなプリントだと捉えています。オーバーサイズのコートの襟にだけ取り入れて、一般的な印象とは異なる表現をしています」

23-24FW コレクションより
23-24FW コレクションより

──ユニークなタグは、どういった発想で生まれたのでしょう。

「一目でそれとわかるタグにしたくて、ものすごく考えましたね。私は他とは違うことをしたいので。スタッフの首元からも時々タグのリボンがはみ出ていて、そういうのも好きなんです。いつも『ほら、また出てるよ』なんて話しています(笑)」

──シグネチャーカラーをヌードカラーにした理由は?

「ヌードカラーは個人的にずっと好きで、以前のブランドでも愛用していました。自分の名前を使うことができなくなりましたが色は使えると。だからヌメロ ヴェントゥーノを立ち上げるときにシグネチャーカラーを持ってきたんです」

──数年前の服も変わらず着られる永遠性があるように思います。クリエイションで何を大切にしていますか。

「それは私の目指すゴールが、10年後も着られる服であることだからではないでしょうか。先日友人は以前のブランドで発表した1997年の服を着ていましたが、古くは感じませんでした。だから3か月で着られなくなるような流行の服をつくったとき、あれは失敗だったなと思うんです」

──同世代であなたのように第一線で活躍しながら、自由で軽やかさを持つデザイナーは珍しいように思います。どんなことから新しい刺激を得ていますか?

「私はとても好奇心が旺盛なんです。オフィスにも多くの若いスタッフが働いていますが、音楽や映画、周りにあることすべてにおいて、彼らが今やっていることや興味のあること、アイデアもすごく吸収するようにしています。そういった最新の動きを自分の考え方やフィルターを通してクリエイションしています。やっていることは常に同じですが、コレクションのなかで毎回毎回ワードローブを更新しているので、軽やかに見えているのかもしれませんね」

──過去にはトッズ、最近はハンターやウォルフォードとコラボされていましたが、共同作業ではどのような点を意識しますか。

「他社とコラボレーションすることはいつも挑戦です。例えばウォルフォードはランジェリーのブランドなので、一歩間違えばトゥーマッチセクシーな方向になってしまいます。そのあたりのバランスに注意して取り組みましたが、今回のウォルフォードとのコラボは繊細で洗練されたものになって嬉しかったです」

ウォルフォードとのコラボレーション。ウォルフォードに関しては、問サザビーリーグ TEL/03-5412-1937
ウォルフォードとのコラボレーション。ウォルフォードに関しては、問サザビーリーグ TEL/03-5412-1937

──23-24秋冬シーズンのテーマ「常套句を打ち消す」とは?

「イタリアの中流階級のお決まりのスタイル=常套句をひっくり返した感じで、完璧主義ではなく不完全なものを表現したかったのです。クラシックなスーツを前後逆に着せて、バックスタイルにブローチをつけました。イタリアの女優、モニカ・ヴィッティが好きなのですが、キャスティングでも正統派の美しさではなく少しキャラクターを感じるモデルを選びました」



──女優、モニカ・ヴィッティの魅力について教えてください。

「彼女には他の女優にはない美しさがあります。イタリアといえば、ソフィア・ローレンなどがグラマーなボディを持つ女優が有名ですが、彼女の魅力ははそういったわかりやすい部分ではありません。不完全ななかに強いパーソナリティを持っていました。現代の女優には見つけられない存在です。後年彼女はコメディエンヌ的にもなっていきましたが、私はミケランジェロ・アントニーニ監督の映画に出ていたドラマティックな彼女が好きでした。ミウッチャ・プラダも彼女が大好きなんですよ。

『La Notte(夜)』という映画に、彼女が着たドレスのストラップがサラッと肩から落ちるシーンがあるのですが、そのニュアンスを今回のコレクションにも取り入れたかったのです。映画自体は戦後の民衆の現実を描いた『ネオレアリズモ』と呼ばれるムーブメントの作品なので、明るいことのない映画ですけどね」

──ヌメロ ヴェントゥーノの未来はどうあって欲しいと思いますか。

「すでに多くの国で展開していますが、さらに世界中で喜ばれる、大事に愛されるブランドに育ってほしいです」

N21
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Edit & Text:Hiroko Koizumi

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DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

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