編集者・都築響一にインタビュー。魅惑のスポット「大道芸術館」へ | Numero TOKYO
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編集者・都築響一にインタビュー。魅惑のスポット「大道芸術館」へ

失われつつある大衆文化を現代美術として世に知らしめてきた 編集者で写真家の都築響一。彼の貴重なコレクションが垣間見られる「大道芸術館」とは? 都築氏に聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年5月号掲載)

鳥羽SF未来館のホール中央に鎮座していたマネキンが、来場者をお出迎え。
鳥羽SF未来館のホール中央に鎮座していたマネキンが、来場者をお出迎え。

セクシードールとバッドアート

東向島は、今も東京で最も芸者が多く在籍する花街。大道芸術館は、かつて料亭だった瀟洒な建物に、編集者・都築響一が長年、収集してきたコレクションの一部が展示されている。

「エントランスにあるのは三重県鳥羽の元祖国際秘宝館・鳥羽SF未来館の入り口にあったマネキンです。そこのメインテーマは『エロ宇宙未来の旅』でした。取り壊される際に譲り受けたマネキンで、鳥羽SF未来館を再現しています」

秘宝館とは、かつて日本全国に存在した“セックス・ミュージアム”。性風俗の資料、セクシーな人形、性器を模した彫像などが展示されていた。これまで芸術祭などでコレクションを展示してきた都築氏が今、大道芸術館を開館した理由は?

「東京でも秘宝館を作れたらとずっと思っていたのですが、都内では展示に適した広い場所になかなか出会えませんでした。コロナで空き物件が多く出たときに、ちょうどいい間取りのここを見つけたのが開館のきっかけです」

「茶と酒 わかめ」でお酒の相手をしてくれるオリエント工業のラブドールたち。人間のような精巧なラブドールだが、足にわずかに残されたバリ(つなぎ目)には切ない物語が。スタッフに尋ねてみて。壁には見世物小屋の絵看板。

(左)中部地方のCMにも登場した元祖国際秘宝館のマスコット「秘宝館おじさん」。
(右)レーザーカラオケ完備のVIPルーム(予約制・貸切のみ)。インテリアはデコトラの内部をイメージ。

VIPルームのセクシーな絵画はキャンバスの代わりに黒いベルベット地にエアブラシで描かれた「ブラック・ベルベット・ペインティング」。
VIPルームのセクシーな絵画はキャンバスの代わりに黒いベルベット地にエアブラシで描かれた「ブラック・ベルベット・ペインティング」。

開館にあたり、宴会用の広いお座敷を展示スペースに改築。1980年代製で傷みが激しい秘宝館のマネキンは全て修復された。3階は鳥羽SF秘宝館、2階はピンク映画のチラシを眺めながらお酒と軽食が楽しめる「茶と酒 茶 わかめ」。1階には、セクシーな蝋人形とともにレーザーカラオケが楽しめるVIPルームがある。ほかにも床の間、洗面所、階段の壁面など、至る所にセクシーなアート作品や、見世物小屋の絵看板、これ何?と戸惑ってしまう「バッドアート」と呼ばれる作品も飾られている。


(上下)壮大な「エロ宇宙の未来旅」を体感できる3階の「鳥羽SF秘宝館」コーナー。1999年、ノストラダムスの大予言通り滅亡しかけた地球に宇宙戦艦が帰港。ある将軍の命で生存者を狩り集め、超未来人製造プロジェクトが始まる……。

“意識の低い”楽しみよ、再び

「ただお色気なものを展示しているわけじゃないんです。例えば、今はほとんど見かけないレーザーカラオケは、通信カラオケのように、どんな曲にも対応できる適当な映像を流すのではなく、1曲ずつ映像を制作していました。中には宴会が盛り上がる色っぽいものまであったんです。それが全て廃棄され、誰も文化遺産として保存しようとはしなかった。それで、レーザーディスクを見つけては僕がひっそりデジタル化していました」

かつては祭りに付き物だった見世物小屋もほとんど消えてしまった。数々の見世物小屋の名作絵看板を描いたカリスマ絵師・志村静峰の作品も、美術館や民俗資料館に収蔵されることはなかった。

「だから、僕がやるしかないと。ピンク映画のチラシも、当時は独立系の小さなプロダクションでしたから、街場の印刷所の人が適当に作っていました。だからこその勢いがあります。そうした初期のピンク映画はほとんどフィルムが残っていませんし、映画アーカイブに保存されているものも、内容的に公開される機会がありません。ここにあるのは、みんなが好きだったのに失われていく“意識が低い”ものたちです。現代は楽しむのにも理由が必要で、“ただ楽しい”が許されない。そんな時代に、僕はやっぱり生きる楽しみを提案したい」

(左)「わかめ」にて酔客をもてなす“甘噛みハムハム”。
(右)「秘宝館フォント」で彩られた元祖国際秘宝館の看板。

開館から半年。予約数は多く、噂を聞きつけ海外から訪れる人も。

「昔の秘宝館は、男性よりも女性のほうがじっくり時間をかけて楽しんでいました。ここも女性の来場者が多く、目をキラキラさせてご覧になります。女性限定のレディースナイトも定期的に開催しているので、“ただ楽しみに”来てください」

北九州に存在したグランドキャバレー・ベラミの従業員寮から発掘された、踊り子や芸人の営業用ブロマイド(複製)。
北九州に存在したグランドキャバレー・ベラミの従業員寮から発掘された、踊り子や芸人の営業用ブロマイド(複製)。

世界でも屈指の技術を誇る蝋人形師・松崎覚による一体。後ろはガーナの手描き映画ポスターコレクション。
世界でも屈指の技術を誇る蝋人形師・松崎覚による一体。後ろはガーナの手描き映画ポスターコレクション。

都築響一コレクション
大道芸術館 museum of roadside art

住所/東京都墨田区向島5-28−4
営業時間/ 水・木・金15:00〜21:00、土・日13:00〜19:00 ※予約制
休日/月・火・祝日  
URL/museum-of-roadside-art.com

Photos:Wataru Hoshi Interview & Text:Miho Matsuda

Profile

編集者、写真家。『ポパイ』『ブルータス』誌の編集を経て、現代美術全集『アートランダム』を刊行するほか現代美術、建築、写真、デザインなどの分野で執筆・編集活動を続ける。1996年『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』で木村伊兵衛賞を受賞。近著に『Museum of Mom’s Art 探すのをやめたときに見つかるもの』など。

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