自身の過去、今、未来と向き合ったBTS SUGA「次の日本公演は7人で」初ソロワールドツアー『SUGA|Agust D TOUR ‘D-DAY’ in JAPAN』6/4最終公演ライブレポート
BTS SUGA(シュガ)が日本の夜を熱くした。今年4月、アメリカからスタートした初ソロワールドツアー『SUGA|Agust D TOUR ‘D-DAY’』。アメリカでは4箇所、アジアは3箇所の公演を経て、6月2日〜4日の3日間に渡り、神奈川県・ぴあアリーナMMにて日本公演を開催した。今回はBTS日本デビュー9周年の日でもある、6月4日の最終公演の模様をレポートする。
過去と向き合うSUGAの姿
会場はブラックを基調とし、天井から鎖が垂れ下がり無機質な空間。雨の音が会場中に響き渡る。そこにオープニングVTRが流れ始めた。映像には雨の中、バイクで事故に巻き込まれ道路に倒れる姿があった。BTSファン「ARMY(アーミー)」ならすぐに察したであろう、肩を痛め現在も後遺症としても残り、精神的にも苦しんだSUGAの練習生時代に起きたバイク事故とリンクする。
ステージから黒づくめのダンサーたちに運ばれて登場するSUGA。横たわったまま音楽がスタートしたところで、颯爽と立ち上がり1曲目「해금(Haegeum)」を熱唱した。SUGA自身もオールブラックの衣装で身を包み、クールでかつ漢気あふれる姿に客席は歓声をあげる。
その後、「대취타 /大吹打」「Agust D」を歌い上げたあと「皆さん、こんばんは。最後の公演です。全力で行きます。 Let’s Go」と声を掛け「give it to me」へ。頭を振り全身で表現するSUGAは2曲目あたりから既に大量の汗が滴る。その汗と歌詞、檻に閉じ込められたような鎖の演出などがこれまでの苦しみや葛藤、トラウマとも繋がるようで、そこからも彼の過去への想いが伝わってきた。
ライブ間の挨拶ではほとんど通訳なしで日本語で話す姿も話題となった。4曲を歌い終え、オープニング挨拶では『みなさんこんばんは。SUGA(シュガ)です。みなさんに会えて嬉しいです。日本でのコンサートは初めてで嬉しかったです。最後の公演で寂しいです。ストリーミングで見ているARMYも楽しんでください。この後楽しみですか。ではいってみましょう』と彼らしいクールさと笑顔が混じった表情で話しているのが印象的だった。
人との関係性、そして7人の絆
次に披露したのは「Trivia轉: Seesaw」。ギターの弾き語りバージョンで歌い上げた。ギターにはBTSメンバー6人の名前とメッセージが書かれており、韓国語で『ファイティン、ユンギ』『ユンギヒョン、ツアー大盛況で無事に終えられますように』などが添えられていた。それを抱えて歌うSUGAの姿、会場の鎖がゆっくりと上へ上がり彼の“何か”が解放されていくようだった。
その後3曲を披露し、中でも「People Pt.2(feat. IU)」ではSUGAが観客に向けて『一緒に歌いましょう』と声を掛け、IUのパートをARMYたちが熱唱しセッションしているような気持ちに。彼も優しい笑顔を見せた。ラップの曲にはない彼の綺麗な歌声が会場を包む。
『もう一度雰囲気を変えてみましょうか』と言うと会場はブルーとピンクの明るいムードへと変化する。そこで「Moonlight」「Burn It」を歌い切り一度会場を後にした。
暗闇から白い光へ。衣装もホワイトに。
VTRではバスルームで自身を見つめ、その映像自体を見つめている彼の姿があった。いつも周囲と自分を客観的に捉えているSUGAらしい演出。
再び登場した衣装はブラックとは反対のホワイトカラーで身を包む。一曲目は「Interlude : Shadow」。黒づくめのダンサーたちは彼を囲み、ダイナミックなダンスで影を表現。ダンサーがスマートフォンの光で彼を照らす猟奇的な演出にも彼自身の葛藤した過去が目に見える。BTSライブでもSUGAが行う、ペットボトルの水を頭に被る最高潮の盛り上がりを見せる場面もあり、会場は大きな歓声で沸いた。
その後2014年リリースの「Cypher Pt.3: Killer」、2020年リリースの「UGH!」、円盤化されていない「DDAENG」、J-HOPEとのコラボ曲「HUH?!」をメドレー形式で披露し、『メンバーがいなくて一人で歌うのは寂しいです。でも皆さんが一緒に歌ってくれて心強かったです』と素直な気持ちも言葉にしてくれた。
次のセクションではピアノの弾き語りで「Life Goes On」を披露。そこへ続くのは今年3月に亡くなった坂本龍一さんとSUGAの合作「Snooze」だ。二人の楽曲づくりをしている場面が流れ、坂本龍一がSUGAに優しく「君はいい子だ」と声をかけるシーンも。これまで“先生”と呼んでいた坂本龍一への敬意と追悼のメッセージが込められ、穏やかな時間が流れた。
最後には『みなさん、盛り上がってますか。どれくらい盛り上がっていますか、ほんま盛り上がっていますか。ストリーミングのARMYも盛り上がっていますか。明日も会いたいですね。最後のステージ全力で楽しみましょう。準備はいいですか。最後の曲です』と盛り上げ、彼の半生で起きた出来事を歌にした「AMYGDALA」を熱唱し終幕。
日本デビュー9周年の日。ARMYから溢れるメッセージ
アンコールの歓声が流れ、BTSライブでも恒例のARMY TIMEに。会場のARMYたちが手作りで制作したボードが次々と会場の画面に映し出される。『日本デビュー9周年おめでとう』『日本に来てくれてありがとう』『7人の帰りをずっと待ってるよ』『美味しいものをいっぱい食べて帰ってね』など数々メッセージや、SUGAが好きな漫画「スラムダンク」の三井寿のボードも映るなど、彼への愛に溢れた時間が流れた。
アンコールは「D-DAY」からスタート。歌詞の中に『過去を後悔するな 未来を恐れるな』という言葉がある通り、今を大切に生きる彼の決意が伝わる一曲だ。この日はアリーナ席近くまで来て観客にタッチする場面もあり、会場が一気に盛り上がった。
ライブ初日から体調が万全ではないことを明かしており、この日もライブの中盤から終盤にかけて歌の合間に咳をするなど苦しそうな一面を見せる姿があった。エンディングコメントでは『日本での公演はいつも楽しくて幸せですね。見ていてお分かりだと思いますが、僕は100パーセントのコンディションではありません。6、70パーセントくらいまで上がってきました。100パーセントは次回僕が来た時に確認できると思います。3日間本当に素晴らしい思い出を作ってくださりありがとうございます。僕の公演やBTSの公演だけでなく、どこに行っても同じように楽しんでください。日本で公演をする際には7人で行います。本当に楽しかったです。皆さんの心の中に思い出が残ることを祈っています」と感謝の意を伝え、BTSとして日本に来てくれることを宣言してくれた。
最後に「Never Mind」「The Last」を歌い上げ、手を振りながら足早に会場を後にした。少し寂しい気持ちもしたが、BTSの曲「MIC Drop」のエンディングシーンのクールなSUGAの姿も思い出した。そしてまだSUGAそして、BTSの未来への余韻を感じさせる終わり方だったように思う。
これから最後の韓国公演へと続く。日本では観客がライブを録画することが禁止されているが、2日目の公演でARMYの『ONLY 眼球』というボードが映り話題となった。カメラを向けず、一心に彼を見つめるファンの視線とファンの掲げるペンライトが揃い、今回SUGAの目には他にはない景色が見えたのではないだろうか。そしていつの日かまた7人が揃った姿で戻ってきてくれることを願う。