【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.45 映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が大ヒット
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.45 映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の大ヒット
先月末、スーパーマリオブラザースの映画が日本でも公開になり、好評を博しています。世界での興行収入は1,500億円を突破し、アニメ映画の中では歴代5位(5月8日時点)という大ヒット作になりました。映画は『ミニオンズ』などで知られるアニメーションスタジオのIlluminationと任天堂の共同出資で作られていて、制作費は約1億ドル(130億円)とのことです。
全世界での興行収入が早くも1,500億円を突破! 映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」
https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1498701.html映画業界への本格的な進出、第一作めでこの規模のヒットを出すのはさすが任天堂としかいいようがないです。ただ、映画として考えると大ヒットなのはもちろんなのですが、任天堂の売上は年間1.5兆円といったようなとてつもない規模で、今回の映画のヒットが業績にどの程度寄与するのかを考えると、(そこも流石なのですが)そこまで大きくない部分もあります。
興収からの取り分を500億円と想定すると、2.5万円のハードに換算すると200万台分、5,000円のソフトだと1,000万本の売上相当になるので、Switchは年間1,000万台以上売れていたり、1,000万本売れるソフトもそれなりにあることを考えても、一定以上の貢献にはなっています。当然マリオの続編も制作されるでしょうし、他にもゼルダをはじめとして人気IPの宝庫のような会社なので、他のキャラクターの映画も今後展開されていくものと思われます。
IPを映画で活用しているモデルとしては、アイアンマン、スパイダーマンなどを擁するマーヴェルがひとつのベンチマークになっている部分もあるかもしれないですが、コミックが原作・原案として存在しているのと、ゲームのストーリーしかない状況だとやはり後者の方が難易度が高く、一作目を成功させたのは、今後、続編や任天堂キャラクターの映画化をパターン化して、場合によってはマルチバース的にも展開していくことを考えると、大きな意味のある成功でした。
ドラゴンクエストやファイナルファンタジーも過去に映画化されたことはあるもののここまでヒットにはなっておらずで、実はマリオも30年前に当時はライセンスで実写映画化されているのですが、こちらはヒット作品といえるものにはなっていませんでした。映画独特のキャラや設定を作っていくというよりも、多くの人に馴染みのあるゲームの中の前提条件やキャラクターの魅力はそのままに、解像度高くその設定やキャラにに辻褄をあわせた、魅力的なかつ、ある程度わかりやすいストーリーを乗せていくことが成功の鍵なのかもしれません。
今回のマリオも、深みのあるストーリーとまではいかなかったかもしれませんが、ゲームの中の動きに基づいたマリオの立ち振る舞いや、随所で出てくるゲームの世界とのリンクに、世代としては大きく心がときめきました。実写でこの世界観を描くことができたか考えるとおそらく難しかったのではという気もして、Illuminationとの協業も大成功だったのではと思います。
ちなみに同時期に公開された名探偵コナンのシリーズ第26作『黒鉄の潜水艦(サブマリン)』も観に行ったのですが、こちらも今まで到達できていなかった興行収入100億円に26年目にしてはじめてリーチする大ヒットになっています。
コナンの映画を公開早々に観にいくのは高校生くらいからのルーティンで、40歳を過ぎてもせっせとそれを続けているわけですが、そういう大人が後をたたず、というより、もはや観客層のメインになっていることもあって、恥ずかしい思いをすることなど全くなく、気持ちよく鑑賞できます。そういう様子をみているとシリーズ物の映画は、割とサブスクリプションモデルのサービスに近いところもあり、コナンの映画に関しては年間のサブクス売上(ARR)100億円の『継続課金サービス』と見ることもできるわけです。
昨年もみてくれたうちの何%の鑑賞者を今年も劇場に連れてくることができて、何%が離脱して、そして何人の新規ユーザーを獲得できるか、といった分析にトライしてみたくなりますし、継続率を高める施策と新規ユーザーの獲得施策の2軸で考えていくというようなマーケティングが有用なジャンル、ですね。
今回は灰原哀ちゃんというキャラクターがヒロインだったのですが、アニメシリーズの中から彼女が主役のエピソードをピックアップして年明けに劇場で上映していたのは、どちらかというと新規ユーザー獲得の施策だったのかもしれないなとか思ったり、エンドロールのあとに後日譚的な短いエピソードと、次回作のティザー告知が流れるのがコナン映画の定番なのですが、継続率を高めるためにはまだまだ工夫ができる要素があるかもしれません。
コナンの映画は小学館や読売テレビなどの製作委員会形式で制作されていますが、そこも多くの株主から出資をしてもらい運営するスタートアップに通じる部分が少しあります。もう四半世紀以上の歴史があるのでスタートアップとは言いづらいかもしれないですが、“サブスクリプション”で売上100億円ってそれなりにすごくて、まだ小さな二桁億円規模の僕らサービスももっとがんばらねばと、こういうものを見ていても思うわけです。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue