ヘアで表現するクリエイターたち vol.1 吉田ユニ「“日常”の先にある表現を求めて」
あまりにも当たり前にあるものだからこそ、「ヘア」とはこういうものであると思い込んでいないだろうか? そんな常識を打ち破る、または逆手に取ることで私たちを驚かせてくれるクリエイターたちについて。vol.1はアートディレクターの吉田ユニ。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年3月号掲載)
アーティスト、ぼくのりりっくのぼうよみのラストオリジナルアルバム『人間』のCDジャケット(2018年)より。ブロンド女性の地毛を編み込んで人間の頭蓋骨を表現。目の窪みにあたる部分や鼻の骨も髪の毛のカーブや微妙な陰影によって表した。美しいアートワークが強いインパクトを放つ。
世の中に一つしかないものだから感じられる温かみ
──髪の毛を使った印象的な作品が多いですが、どういうところからアイデアを膨らませるのでしょうか。
「私の仕事はクライアントが希望するテーマに沿って、商品をどのように見せたいのか、何を伝えたいのかによって表現を考えます。それがたまたま髪の毛を使った表現に行き着くだけで、最初からヘアを意識して作ることはあまりないかもしれません。ただ、髪の毛に限らずですが、人間の体やパーツ、花や果物、世の中に一つしかない物を使って表現するのが好きですね。人工的ではないというか」
──CGに頼らず、リアルに表現されることが多いですね。
「絶対にCGを使わないと決めてやっているわけではなくて、表現する上で自分で作れるかどうかを大事にしています。CGだとどうしても自分の力で作れないので、その過程がなくなるのがいやなんです。細かいラインだったり、自分でこだわる部分が肝になってる場合もあるので。あとは、本物のほうが仕上がったときの温かみを感じられるのでいいなと思っています」
メイクアップブランド「エテュセ」2022年夏コスメのヴィジュアルは、濡れた髪で文字を描いた。まるでプールから出たばかりのようなヘアスタイルが夏の気分を盛り上げる。
──撮影ではプロのヘアアーティストと一緒に作られていますか。
「そうですね。ウィッグであれば打ち合わせをして事前に作っていただきながら確認をします。あとは現場でアングルやライティングを見ながらヘアアーティストの方と一緒に修正していきます。モデルや俳優さんの地毛を使うこともあるので、それは現場で調整します」
──ヘアを使うときに苦労する点は?
「ヘアアーティストの方が一番苦労されていると思うのですが(笑)、大変だったのは、ぼくのりりっくのぼうよみさんの作品です。モデルの髪の毛でスカルを作ったのですが、位置やカーブの付け方、分け目を調整してイメージ通りに仕上げるのに苦労しました」
──一瞬CGのように見えるのですが、これも本物の髪の毛でできていると知って驚きました。
「この髪を作ってくださったヘア&メイクアップアーティストの奥平正芳さんから『ユニさんはいつもやったことのない大変なお願いをしてくるけど、実現できない編み方を提案しないよね』とおっしゃってくださったことがありました。あまり意識してはいなかったのですが、その編み方だからこそ表現できるという部分がアイデアの一部になっているのかもしれないです。ヘアに限らず、実現できないアイデアではなく、どう作るかも一緒に考えるようにしています」
ファッション誌『装苑』の連載「PLAY A SENSATION」ではさまざまな業界から個性豊かな著名人をゲストに迎え、ヴィジュアルを制作。俳優の趣里を迎えた回では、髪の毛で作った襟がポイントに。
──趣里さんの作品も印象的ですね。
「当時、長い髪が印象的だったのでその魅力をうまく伝えられたらいいなと思って、ヘアで作った襟を考案しました」
──いつも驚きにあふれた作品を発表されていますが、インスピレーション源は?
「意識してインプットしているわけではないのですが、自分の作品を見て思うのは、日常生活の何げない風景が着想源になっているのだろうなと思います」
──そう考えると、やはり日常で目にする髪が違うものとして表現されると余計に驚きがある気がします。
「日常で当たり前に目にしている物を違う姿に変える、違う視点を持たせることが好きなのかもしれません」
Interview & Text:Mariko Uramoto Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara