【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.42 WBC決勝へ! 侍ジャパンがもたらす効果
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.42 いよいよWBC決勝へ! 侍ジャパンがもたらす、経済とそれ以上の効果
WBCが盛り上がっています。僕も元々野球好きなことがあって、日本戦は毎試合テレビにかじりつくように見ています。視聴率も50%近くと近年の野球の試合では聞いたことのないような数字が記録されていて、多くの国民の感心を集めていることが定量的にも示されています。
WBC視聴率、16日イタリア戦が歴代1位48.0%
https://www.sanspo.com/article/20230318-IZM32STGD5M23DCNVH62YFK45I/WBC自体はWBCIというMLBとMLBの選手会が共同運営する団体が主催者となっていて興行収入の多くがMLBサイドの懐に入っていくモデルになってしまっています。今回はアメリカ代表もマイク・トラウトなどトップ・オブ・ザ・トップの選手も参加し、決勝進出を決めています。とはいえおそらく盛り上がり的には日本のほうが高まっていて、レプリカユニフォームの売上など、収益にその盛り上がりの分を配分してもらうためには今後も交渉が必要です。
日本が優勝した場合の今回の大会の経済効果は600億円とも言われているようですが、この侍ジャパンのチームとしての盛り上がりを見ていると、野球をやりたいという子供たちは確実に増えるのではと思われ、その部分の効果が実は野球界にとっては一番大きいのでは、と個人的には感じています。
【 #試合予告 】#ワールドベースボールクラシック 運命の決勝戦はあしたです!!前回2017年大会王者のアメリカ代表に挑むのは王座奪還を狙う #侍ジャパン !!大谷vsトラウトもこの決勝で実現します⚔ pic.twitter.com/Y9UJF0D3Tl
— MLB Japan (@MLBJapan) March 21, 2023
大谷翔平の活躍の様子はシーズンから毎年のように報じられていてニュースとしては高いアテンションを得ているのは間違いないのですが、あの異次元のプレーを見て野球をやりたいと思う子供の数と、今回の超一流のプレーヤーがチーム一丸となって優勝を目指す様子を目の当たりにするのでは、後者のほうがこのスポーツをやってみたいと思う度合いが高いのでは、とあくまで個人的な感覚ではありますが、強くそう思いました。
プロスポーツのマーケティングを考えたときに、子供のなりたい職業の順位、そもそも子供がやりたいと思うか、という項目は、オンラインサービスでいうならば検索数や訪問者数など間口の数字に近く、長期的目線で考えたときには圧倒的に重要なKPIになのは間違いありません。
そこの母数を増やすことが、WBCに出場しているようなスター選手の出現の確率もあげてくれて、スーパースターこそがそのスポーツのコンテンツ価値を高めて、結果的にはビジネス的な部分にも寄与してくれることになるのは野球だけではなく、サッカーなど他の競技も同じはずです。そこまで長期的に考えていくことへの一定のハードルがあるのかもしれませんが、その重要度の割には深く注視されている印象はあまりうけません。
野球でいうと、大谷が子供の頃はまだそうだったはずですが巨人戦が毎日地上波で放映されて、日本シリーズが全試合テレビ中継されて、の時代とは大きく状況が変化しています。現実的にも小・中学生の野球人口は2011年には約44万人だったのが2021年には約26万人と10年間で40%も減少してしまっているのです。
NPBとしては競技人口の増加に寄与しても直接的に収益があがるわけではないものの、やはりこの減少幅は大ダメージのはずで、ひいてはMLBにすらマクロ的に考えると日本の競技人口の減少は影響を与えるものです。また、WBCを経ることでトップ選手のMLB志向がますます高まるということは、NPBにとってはあまりハッピーではないことかもしれません。
とはいえこのレベルのプレーヤーがお国のためにと死力を尽くして戦う様子が心を打つのは間違いのない事実で、WBCの目的が競技人口の増加にあるとは思わないものの大会終了後はその部分も含めて検証してもらって大会の意義というのを解像度高く確認していってもらいたいなと野球ファンとしてはとても思っています。
ちなみにこの原稿は準決勝のメキシコ戦を見ながら書いているところで、日本代表は村上選手のヒットで、見事に劇的なサヨナラ勝ちをあげてくれました。泣いても笑っても残りあと一試合で、今回は初顔合わせとなるアメリカです。朝からテレビ観戦するつもりですが、ぜひ優勝を!!
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue