2022-23秋冬、 モード最前線に“違和感”あり!?
パンデミック、戦争、不況など、社会そのものを映し出し、明るいエネルギーに変えていく。そんなモード界でこの秋冬に生まれたトレンドがカオスの様相を見せている。ファッションライターの栗山愛以さんとともにプレイバック。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年12月号掲載)
White Tank Top|白タンクトップ
究極の日常着をモードに昇華
最もベーシックなアイテムを一枚で着る潔さは、女性の解放や自尊感情を讃えているかのよう。「ボッテガ・ヴェネタによる、ジーンズやシャツのような日常着をレザーなどまったく異なる素材で作る視覚的なユーモアに注目しています。一時、ヴェトモンがやっていたラグジュアリー的なものへ反旗を翻す意図があるのかは気になるところ。パッと見は普通だけど、実物を近くで見るまで何でできているかわからない。こだわりの異常さに惹かれます」
School Drama Heroine|スクールドラマ
Y2Kの余波と海外ドラマのヒロイン像
Y2Kの流れは、2000年代の映像作品のヒロインを彷彿させるルックに変化。「ルイ・ヴィトンは、ニコラ・ジェスキエールが若い頃に観ていたであろう米ドラに登場した学生服風の衣装に影響を受けていそう。少しダサいくらいのノリを取り入れても、手の込んだジャカード織りの構築的なドレスで“そのまんま”にしないところがすごい」。ポイントとなるのはネクタイ、タイトスカート、チェック柄のミニスカート、おろしたロングヘア。
Surrealism|シュールレアリズム
1920年代のアート運動が蘇る
「今季、最も印象的だったのは、20世紀を代表する芸術運動シュールレアリズムを思わせるロエベとアライア。戦時下の不条理な世界を、ストレートな美しさとはかけ離れた奇抜さで表現しているように感じました」。彷彿させるのは、マン・レイのモチーフ使いやエルザ・スキャパレリのトロンプルイユなど。ドリス ヴァン ノッテンは、建築家でアーティストのカルロ・モリーノの邸宅と写真集からヒントを得て、退廃的な女性の美しさを表現。
Covered in Black|ブラック
全身を黒に覆われた装い
「コロナ初期は、地球に回帰するリラクシングなムードでしたが、前回の2022年SSから鮮やかな色が戻ってきたんです。今回はピンクなど色の展開があった一方で、身を守るような全身黒ずくめのルックもかなり存在感がありました」。バレンシアガのファーストルックは、ゴミ袋を模したバッグとともに。クレージュでは、ダブルのピーコートが登場。まるで影のような黒の装いはヴァレンティノをはじめ、多くのブランドで見られた。
Archive Reconstruction|アーカイブ
ブランドの遺産を再構築
脈々と受け継がれてきた、ブランドのシグネチャーアイテムがランウェイに。「プラダはみんなが求める“らしさ”を提案し続けている安定感を感じます。ディオールは、バージャケットをアップデート。イタリアのスタートアップ企業『D-Air lab』とコラボした体温調節機能搭載だったのが驚き」。エルメスは、乗馬の世界観とスポーティな要素を軽やかにミックス。バーキンをアレンジした新作バッグも。
Upcycle and Repair|アップサイクル&リペア
創造的再利用と修繕する美学
「LVMHプライズ2022でグランプリは逃したものの、高く評価されたERL。イーライ・ラッセル・リネッツが“普通の服”や古着をストーリー仕立てのコレクションとして堂々と見せる感覚は興味深い」。アクネ ストゥディオズのテーマは、身の回りのものや穴のあいた服を縫い合わせて修復する行為。一方マリーン セルは、コレクションを通してブランドが培ったデッドストックや古着を新品のように仕立てる高い技術を披露した。
Lingerie|ランジェリー
セクシーな下着のような服
ランジェリーが透けるシースルー素材のドレスを数多くコレクションで展開したフェンディ。「注目の若手、ネンシ ドジョカのランジェリーやストッキングが洋服と一体になった提案は斬新だと思います。東京で道行く人もカジュアルに肌見せファッションを楽しんでいるので、ボディポジティブの流れは世の中に定着しつつあるのでは」。コペルニは、ショーツにラメが効いたミニドレス、足元はサイハイブーツでフェティッシュに。
Realization & Text:Aika Kawada Edit:Chiho Inoue