二階堂ふみが語る、地球と動物にやさしい「KAPOK KNOT」とのコラボアウター
動物愛護の活動を続け、環境問題に対しても啓蒙する発言を臆さない、女優の二階堂ふみ。ファッションが大好きな彼女が、木の実由来のサステナブルな新素材、カポックを用いた服作りを行うKAPOK KNOT(カポック ノット)と手を組んで、“アニマルライツ×モード”をコンセプトにしたアウターを3型ローンチした。その開発に秘められた、彼女の想いとは。
──KAPOK KNOTと出合ったきっかけと、コラボレーションを行うまでの経緯を教えてください。
「お仕事で寒い地域でロケをする機会があり、スタイリストさんがアウターとして用意してくださったんです。すでに、『動物性の素材を使った洋服は衣装であっても着ない』ということはお伝えしていたのですが、話を聞くと『植物性の素材で軽くて暖かいアウターを作るKAPOK KNOTという日本のメーカーがあり、ダウンの代わりの木の実から作られる素材は木を伐採する必要がなく、環境にもやさしい』と教えてくださって。
実際に着て、機能性や温かさを気に入って購入しました。ブランドにもとても興味を持ったので、やりとりをさせていただくようになったのがきっかけです。それまでサステナブルな素材や地球環境への負荷に配慮があるブランドは、カジュアルなデザインのアイテムが多く、外行きのドレッシーなコートが欲しいと思っていたんです。KAPOK KNOTさんに“人の心を豊かにするような真のラグジュアリーデザイン”を体現したアイテムがあったらいいと思いますとお伝えしたところ、一緒に作りませんかとお話をいただきました」
──「アニマルライツ(動物福祉)」について興味を持ったきっかけは?
「約8年前に、ご縁があってフェレットと生活するようになったんです。一緒に暮らすと、動物はこんなにも気持ちのやり取りができるのかと驚きました。フェレットは猫や犬と比べると生体販売の価格が安いというペット産業の問題があると知り、人間至上主義の社会の中で自分は搾取をする側だと思うようになったんです。それから、アニマルライツのことを気にかけるようになり、最初はファーから始まってレザー製品や羽毛産業の現状を知り、ファッションの環境汚染や環境負荷の問題も視野に入ってくるように。雇用問題や児童の搾取など人権問題についても知るきっかけになりました。
自分が知らなかった、知ろうとしなかったことで、こんなにも問題があり、加担していたことが恥ずかしいと思いましたね。社会的な責任を果たしているブランドのものを買うようになり、自分のものとしてお金を支払う時も、衣装として着る時も、できるだけ犠牲を生まないものだけで身を固めたいという思いが強くなりました」
──今回展開するコートは3型。それぞれのこだわりを聞かせてください。
CHINA DRESS ¥88,000
「小さい頃からシノワズリが好きで、実家にある写真を見たら3歳からチャイナカラーの服を着ていました。でも、チャイナ系の服は細身の作りであることが多いんです。デザイナーさんとパタンナーさんが力を合わせこだわってくださり、見た目よりも可動域があり動きやすいデザインに仕上がりました。ジッッパーで前が止められ、上からチャイナボタンで留められる。さらに襟元からインナー色物や柄を出してコーディネートを楽しめます。日本人であり、アジア人としての誇りも感じつつ、隣国の文化も大好き。そんな気持ちも込めています」
TRENCH ¥88,000
「最初に作りたいと思ったデザイン。シルエットが綺麗な裾広がりのデザインで、ドレスとも相性が抜群。寒いときは首元を閉めることもできるので、中が薄い素材のドレスでも暖かいんです。丈があるコートは重くなりやすいのですが、カポックは柔らかくて軽い素材なので、着心地も軽やか。華美なものやデザイン性重視のアウターはドア to ドアなイメージのデザインが多いですが、これは働く女性にもぴったりのコートになっています。サステナブルはトレンドとともに変わっていくものではなく、ずっと着ることも大事。黒とベージュの普遍的なデザインなので、長く愛用いただけると思います」
SCARF ¥88,000
「ゆったりしたサイズ感で、体型、性別関係なく着られるデザインです。当初のデザインから一番、変更がありました。最初は襟元にニュアンスを付けたデザインでしたが、パターンができた状態で、そのまま首に巻いたら暖かいし素敵ではないかという話に。パタンナーさんが、その場ですぐ切ってつなぎ合わせてくださって。唯一無二なデザインだと思っています。マフラーを下に垂らしたり中に入れ込んだり、いろいろとアレンジが効く。天然成分を配合した染色剤の生地を使い、科学的でない色合いもとても気に入っています。どのコートも見た目より軽くて、可動域があって動きやすく、とにかく暖かい。いろいろな人に手に取って試してもらいたいです」
──改めて、動物との生活がもたらした自身の変化について教えてください。
「動物それぞれ個性があって、何ら自分たち人間と変わらないと知り、動物たちを守るために何か力になれたらと思い、保護犬を迎えたり、預かりボランティアをするようになりました。自分たちと同じように感情がある地球上の仲間のはずなのに、線引きされていて、搾取をすることがあたり前だという構造があると気づいたからです。毛皮などの動物素材は、残酷な方法で生き物の尊厳を奪っていることを知り、工場の形態や毛を剥ぎ取る方法、不衛生な環境で飼育され病気が蔓延し、結果的に大量のさっ処分につながっていく。毛皮に限った話ではなく、鳥インフルエンザや豚コレラなど食肉の問題もそうです。自分が当たり前に消費していたものに対して大きな疑問が募りました。
ファッションではファーの問題がよく取り上げられていますが、羽毛の問題もそう。すでに製品化された羽毛はリサイクルすれば100年使えて、全世界の人に行き渡る量が世の中に普及しているそうです。安価になればなるほど、むしり取って動物から搾取しないと経済的が回っていかない。そういった経済の構造も問題があると思いました」
──ファッション好きとして「アニマルライツ」を学び、後悔していること、変わらずにいることがあれば聞かせてください。
「後悔していることは、知ろうとしなかった過去の自分。それまでは衣装の中に、毛皮や羽毛があっても違和感がなく、どれだけの動物の数が犠牲になったのかを想像もできていなかったんです。ファッションが好きでよかったのは、洋服を通して人と繋がれること。それから、動物と出会って信念ができて、ものを選ぶ際の基準も培われたからか、手に入れたものをもっと愛着を持って大事にするようになりました。そんな自分も誇りに思えて、以前より自分を愛せるようになった実感があるんです。
地球や動物を大切にすることは、いい気持ちの循環となって自分に返ってくるもの。それまでは自分に自信がないと、物質的なもので身を固めれば気持ちを強く保てると思っていました。根本的な気持ちの強さや美意識は、その人の価値観と繋がっていると思うんです。他者への優しさが自分を成長させてくれるし、何よりファッションに対する考えに厚みが増してオシャレが以前より楽しくなったんです。洋服は自分自身を表現するもので、意思表示のツールにもなるもの。自分の信念から素材や洋服、携わっている人たちに出会えたので、ファッションには感謝しかありません」
──2020年の紅白歌合戦で司会をされたとき、ステラマッカートニーのドレスを着た二階堂さんからとてもポジティブなエネルギーを感じました。衣装とは別に、普段のファッションに求めることは?
「実はあれ、私物です(笑)。紅白が決まる前にお店で一目惚れして。鮮やかな色、絵柄が可愛いので、手元に持っていたい思いました。ステラマッカートニーは、環境や動物に配慮した素材で服作りをしたパイオニア的存在。彼女のスタンダードに時代が追いつき、他のビッグメゾンのブランドもさまざまな取り組みに乗り出しています。一方でトレーサビリティを追求すればするほど、商品の値段は上がっていく。だけど、自分自身がその正当性に投資したいと思うかどうかだと思っています。Tシャツ一枚買うにしても、問題がないか自問することは大切。
靴に関してはいい代替品となる素材も発展してきていますが、現実に食肉を選択している人が多い世の中で、その恵みからの副産物を革製品に使っていい循環を作っていき、飼育されている動物の住環境を整えるなど、できることはまだまだあると思うんです。その時々で一番ベストな選択をすることで、この先の未来への犠牲を減らしていくことができたら。一色単にアニマルライツといっても極端な選択がいいと考えているわけではなく、同じ世界に住む仲間を大事にしたい、無駄な犠牲をなくしたいと思っているんです」
──コラボレーションを通して洋服作りをして、何か気づきはありましたか。
「痛感したのは、お洋服を作るのって大変だということ。無限にある素材の中から、できる限り無駄をせず、何度もサンプルを作らないで、何を選ぶか。さまざまな条件と選択肢の中で何を掛け合わせていくかが、常に課題でした。組み合わせは無限にあるけれど、何を大事にしていくかで選択の仕方が変わっていく。消費者の意識が上がるように、作り手も負けないくらい選択にこだわって、消費した後の先のことまで消費者に示してほしいですね。KAPOK KNOTさんが掲げている『farm to fashion』、生産者、消費者、地球環境の視点に立ち、製品ができて届いたその先までに配慮したファッションは理想的ですよね。大量生産、大量廃棄ができない時代になれば、淘汰されてきた職人さんの時代が来て、逆に環境問題に配慮しないブランドが淘汰されていくはず。いまは、ここ数十年で壊し過ぎたものを整理していく時期。過渡期だからこそ、新しい技術といい素材、新たな価値観が生まれるチャンスですね」
──社会問題に対する活動をされていますが、日頃からどのように情報収集をし、学び続けているのですか。
「過去の自分への戒めとして、いろいろなものにアンテナを張っています。消費に対する罪悪感を持った価値観のもと生活していると、おのずと情報交換する仲間が増えて自然と情報が入り、知る機会が増えるようになると思います。いまはいい意味でも悪い意味でも、“サステナブルな商品”がムーブメントになっているし、なってしまっている。その違いを見極められる目が、とても重要だと考えています。エシカルと謳いながらそうでもないものは増えているので、売り手からの情報を鵜呑みにするのは危険だと常々感じています」
──環境保護・動物保護のために私たちが日常でできることについて、何かアドバイスをお願いします。
「目の前の選択肢のどちらが正しいかわからなくなることは、誰でも多いと思います。革製品にしても、靴を作る皮の耐久性がいい代替品がないからといってヴィーガンレザーを選択することが正しいかどうか、一度検証する必要があると思うんです。ヴィーガンレザーは、土に還らない素材であることが多く、耐久性も乏しい。ゴミとなって海に流れ出てしまうと、ヴィーガンレザーで救えた命はあるけれど、他の動物の命を脅かす可能性に繋がってしまいます。常にレザーにはそういう葛藤がつきもの。私も動物性のものは一切身につけず、買わない時期もありました。その選択にも、思い込みによって大きな矛盾が出てくる可能性も否めない。極端な選択をして割り切るのではなく、そのグラデーションの中で悩みながら自問し続け、その時の最善を選択する。そうやって社会的な責任を果たしていくしかないと思っています。
例えば、一生使うと決めて革製品一個を買うのと、常に新しいものを使い捨ていくつも購入するのとどちらが理にかなっているのか。自分がした選択で納得していくことも大事なんじゃないかと思います。さまざまな文化的な背景や住む地域の気候の違いなどもあり、いろんな考えがあると思うんです。でも、気候変動の問題は、誰しもが考えていかないといけない課題だと思います。人類にもう必要がなくなったものを手放しながら、人間以外の動植物との共存するのは避けられない課題ですよね」
──今回のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングは、どのようなメッセージが込められているのでしょうか。
「スタイリングを通して、純粋に着飾ることの楽しさを伝えたいと思いました。各コーディネートを、違う人物として撮り分けたかったんです。同じコートでも、着る人によって出てくる魅力や個性は違うと思うので。そういう人それぞれの良さみたいな感覚を大切にして、思い思いに着こなしていただけたら。あとは人が持つ文化的な背景や多様性、アイデンティテイを表現したいと思いました。肌の色や人種、性別、年齢を超えて多くの方に届いて欲しいです。フォトグラファーの下村一喜さんと裏設定を作っていて。黒いトレンチコートは50年代の女優さん風、ベージュのコートは90年代の社会進出していくかっこいい女性というように。チャイナはシノワズリが大好きな自分が投影されているかもしれません。スカーフを巻いたルックは、エスキモーのムードを意識しました。
自分の肌の色や骨格にとらわれず、自分が好きな色とか、着たい服とか、したい髪型みたいな気持ちが自分自身を形成していくと思うので、失敗を恐れずに自分自身が楽しいと思う気持ちを大事にしていただきたいですね」
──影響力があり、今度ロールモデルとして期待されることもあるのではないかと思います。今後の展望について聞かせてください。
「今回の売り上げの一部を寄付する取り組みは、自分がせっかく関わるのであれば、誰かと分け合ってみんなで分かち合いたいという気持ちがあったからです。日々アップデートされていく中で、社会とのつながりや社会問題について、どんな風に向き合っていけばいいか考えています。自分より若い方の方が知っていることも沢山ありますし、世代に関係なく柔軟に人の話を聞いて意見交換をできる存在でありたいと思いますね。そういったやり取りから、最善の選択に繋がっていけばいいなと。今回のコートは価格もしっかりしていますが、一過性のトレンドで作ったわけではなく、長く着ていただけるものに仕上がっています。何十年と着ていただき、次の世代に渡るようなものであってほしい。安くて買いやすいものに目が行きがちですが、裏側にある真実や問題を皆さんと見極めて選択し、私もしっかり生きていきたいです」
KAPOK KNOTオンラインストア
https://kapok-knot.com/
Interview & Text: Aika Kawada Edit: Yukiko Shinto