【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.31 すすむ円安
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.31 止まらない円安の影響
円安がすすみ、先週、日銀の3兆円超えとも言われる為替介入によって1ドル140円台まで一瞬戻したものの、9月28日現在では145円に迫るところまで再度値下がりしています。
NY外国為替市場 円相場1ドル=145円に迫る水準まで値下がり https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220928/k10013839581000.html
円安になると何が起こるのか。じわじわと私たちの生活にも影響が出始めていますが、基本的に輸入品が値上がりします。また原料が国産でない製品の値段も上がります。iPhoneもしっかり価格改定がありましたし、つい先日マクドナルドのハンバーガーの二度目の値上げも発表されたばかりです。
また、当然といえば当然ですが、海外に行くコストも高くなります。その国の物価が変わらない前提ででも円が弱くなるとかかるコストは増えますが、各国でインフレがすすんでいる現在、為替がそのままでも値上がりしているような状況に海外に渡航する日本人にとっては泣きっ面に蜂、みたいなシチュエーションになってしまっています。
諸外国と日本の長期金利の差が、この円安の大きな要因と言われています。インフレが進行している国では抑制のために金利をあげているのですが、まだまだ景気がいいとはいいにくい日本では金利をあげることはあまりいいオプションではないという認識で長期金利は低金利のままになっています。
そうなると、円が売られ金利の高い国に資金が流れるという状況が年明けから続き、ここまで円安が進行してしまったいうのが現在ではあるものの、先日の為替介入を除いては、政府の大きなアクションはありませんでした。きっと、日本経済全体にとっては円安は悪い状況ではない、というのが政府の総合的な判断なのでしょう。
仮に金利をあげると、国債に依存する国家のお財布としてもよろしくないのでしょうし、住宅ローンの(安すぎる)金利があがってしまうと、一般家庭の生活を圧迫する度合いはおそらく今以上に高まる気がします。
為替介入自体も他国との金利差の解消につながるかというと、それは全くの別問題で、あまりにも不毛な完全なる一時しのぎの施策に過ぎません。強いていうと、145円を超えると政府としては介入する意思がありますよ、という市場に向けた(弱めの)コミットメントの部分があるのと、さらに強いてのメリットにはなりますが、介入の原資は日銀の外貨準備高のはずで、このドルを購入したときの為替が仮に1ドル100円だったとすると、今回の介入で約1兆円の為替差益が発生していることになります。その差益を目的に介入したわけではもちろんないながら、1兆円という金額はコロナ対策の総予算には到底及びませんが、国家予算の単位でみても決して少ない金額ではありません。
そしてこれほど言うは易しのことはないでしょうが1ドル145円のラインをうまく天井に設定することができれば万々歳で、ここからそこにいくのにどれだけ時間がかかるのかはともかくとして、またある程度下がったタイミングでドルを買い戻すことももちろんできるわけです。
こうも円が弱いと海外に行くモチベーションもあまりあがらず、国境が開放されたあとには円安に後押しされた外国人も一斉に訪れるでしょうから、国内のホテルの値段も高騰しそうで国内の旅行へのハードルもあがりそうです。
先程も書きましたが、国内企業は輸出産業が少なくない割合を占める分、株価は割と安定しているものの、一般家庭の暮らしにはまだまだいろいろな側面で逆風が続きそうな気がしています。がんばってお金持ちになるくらいしか、この問題の解決策が思いつきませんね、これほんと。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue