Art / Feature
小さき視点のアートたち【3】マルセル・デュシャン
見慣れた眺めのはずなのに、目を凝らしてみた途端、自分を取り巻く景色が一変する。身近なものの形や影、思わぬ隙間や裏側まで。いつもの世界の見え方が鮮やかに変わる。それこそアートの得意技! 小さな視点から広がる奥行きを、じっくり覗いて感じてみよう。Vol.3はマルセル・デュシャン。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年7・8月合併号掲載)
Marcel Duchamp|マルセル・デュシャン
『BOÎTE-EN-VALISE:MUSEUM IN A BOX』
『BOÎTE-EN-VALISE : MUSEUM IN A BOX by Marcel Duchamp』(¥33,000/WALTHER KÖNIG) (問)リビング・モティーフ 03-3587-2463 https://shop.livingmotif.com/
既製品をそのまま作品化した「レディ・メイド」など、アートの枠を広げたマルセル・デュシャン。『BOÎTE-EN-VALISE(スーツケース)』(1935-41年)もまた、彼の哲学が詰まった作品だ。スーツケースに収まるのは、『泉』や『大ガラス』をはじめとする作品のミニチュアレプリカ。近づく戦争の影と、根無し草のように定まらない暮らしから、自分の“全作品”をいつでも持ち運べるかたちに再制作したものだ。2020年に出版社から復刻版が再販され、購入可能。まさにデュシャンの“小さな美術館”だ。
Text : Akane Naniwa Edit : Keita Fukasawa
Profile
マルセル・デュシャンMarcel Duchamp
1887年、フランス・ブランヴィル=クレヴォン生まれ。謎めいた作風とともに、20世紀美術における最も重要なアーティストの一人として知られる。印象派に影響を受けた絵画制作に始まり、その後、自転車の車輪やシャベルなどの既製品をほぼそのまま作品化する「レディ・メイド」の概念を生み出す。なかでも男子用小便器に「R. Mutt」と署名し「ニューヨーク・アンデパンダン展」に出品された彫刻『泉』(1917年)は、物議を醸したと同時に“現代アートの出発点”と認知されるに至った。1968年没。