シャネルが起こした女性のファッション革命「ガブリエル・シャネル展」| Numero TOKYO
Fashion / Feature

「ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode」に見る、シャネルが起こした女性のファッション革命

「ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode」(以下ガブリエル・シャネル展)の国際巡回展が、ついに日本上陸。ガリエラ宮パリ市立モード美術館で開催した本展は、「20世紀で最も影響力の大きい女性デザイナー」と呼ばれたガブリエル・シャネルの功績を語り継ぐドレスやスーツに加え、彼女の哲学の結晶ともいえる香水やコスチュームジュエリーを展示している。ときを経て、ときめき、シンプリシティと洗練、そして一人の女性としての親しみも感じるガブリエル・シャネル展をレポート!

Copyright CHANEL
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暑い暑い夏が、今年もやってきた。しかし、今年の夏も「黒」の人気は根強い。涼しげで体がほっそりして見え、どこか垢抜けた感じがする。ガブリエル・シャネル展を開催中の三菱一号館美術館にも、そんな夏場の黒いワンピースを身に纏った女性たちで賑わっていた。

周知の通り、「黒」はガブリエル・シャネルがファッションとして流行させた色。特に「リトル・ブラック・ドレス」と呼ばれる、女性の慎ましさと可憐さを黒一色で表現したワンピースは、彼女の代名詞といわれているアイコニックなアイテム。私も本展で「普遍的な黒の美しさ」を堪能したいと思い、東京駅まで向かうことに。

ガブリエル・シャネル ドレスとジャケットのアンサンブル 1922-1928 年 絹ジャージー パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon
ガブリエル・シャネル ドレスとジャケットのアンサンブル 1922-1928 年 絹ジャージー パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

しかし、入館してすぐ視線が釘付けになった一着は、意外にも20年代のシルクジャージーであつらえられたニットドレス。同じ素材のカーディガンジャケットが付属されたアンサンブルだ。それは、今夏のはじまりに私自身が購入したスキッパーネックのサマーニットとそっくり。若いブランドで素材は紙と麻を使用したサステナブルものだったが、胸の開きと編み地のピッチ、生成り色までほぼ一致している。どちらも「涼しくて動きやすく、品があるデザインのものがいい」という、一女性のリアルでささやかな願いを見事に体現している。

ガブリエル・シャネルが作ったニットドレスのカーディガンジャケットは小さなポケットが付き、「おしゃれは我慢」が常であった100年前には考えられない「機能性」を提案。当時、シルクジャージーは下着の素材だったというからその大胆さに驚く。編み地にはほのかな光沢感があり、20年代らしいアールデコ調のスクエアの網み模様と見事にマッチし、まるで建築物のような美しさだ。30年代からリゾートファッションが存在したというから、きっと流行に敏感な女性たちが、別荘地やリゾート地でいち早く着ていたのだろう。

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続く展示室で目に留まったのは、シャネルが誇る香水にまつわる展示。今となってはお馴染みのダブルCマークは、N°5初代ボトルの蓋に使われたことが始まりだという。「香水は見えないアクセサリー」と提唱したガブリエル・シャネル。美しく着飾ることで生まれる視覚的な効果を理解していたからこそ、見えないものの雄弁さに目をつけたに違いない。

初代N°5のボトルデザインはどこか初々しくかわいらしい。その一方で揺るがない強烈な美学の結晶そのもので、つい見入ってしまう。 並びに展示された旅行用のミニサイズのボトルはキュートで、それを収納し携帯できる革製のケースは悶絶するほど素敵な佇まい。「こんな素敵なアイテムと旅ができたら……」ときっと当時の女性たちも熱狂したはずだ。確かリップスティックも「どこでも口紅を直せるように」とガブリエル・シャネルが考案したものだったはず。自分の人生を振り返っても、学生時代に肌身離さず持ち歩いたリップクリームや社会人になってポーチに忍ばせていた小さな香水の小瓶は「いつもどこでも素敵な自分でいたい(でも身軽がいい)」というニーズに応えるガブリエル・シャネルのアイデアから派生したプロダクト。ビジネスウーマンで恋多き女性だった彼女だからこそ生まれたアイデアは、今を生きる女性たちの毎日も支えているのだ。

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お待ちかねのリトル・ブラック・ドレスのコーナーにたどり着くと、さまざまなスタイル、素材で構成された黒いドレスたちは「黒」という色の多様性と複雑さを静かに語りかけてくる。決して重くならないように、ロングドレスのチュールの裾をあえて不揃いに始末して軽やかに演出したり、ドレスのウエスト周りを切り抜く技術で着る人の肌をトレースし、洗練した印象に仕立てたり……。独自の知恵と製品としてアウトプットする行動力が素晴らしい。どれも男性好みというよりかは、女性の自発的なセンシュアリティを表現しているように感じる。

その「自立性」に多くの銀幕を飾った女優たちが共鳴したというから、当時から現代もなお続く「女性の解放と社会進出」というイシューをガブリエル・シャネル自身が強く望み、女性たちを鼓舞し、思想の普及に貢献したことがまざまざと伝わり、胸が熱くなってくる。「女性たちに自由を与え、社会に送り込むマニフェスト」をツイードやレース、リボンとたくさんのパールを使ってやってのけたのだから「20世紀で最も影響力の大きい女性デザイナー」という称号に、誰も異論はないだろう。

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他にもガブリエル・シャネル展には、60年代をきらびやかに彩どった、動植物をモチーフにしたジュエリーセット、テーラリングの技術を巧みに応用したジャケットや「2.55」バッグ、バイカラーの靴などを展示。どれも、女性が美しく、働きやすく、心置きなく人生を謳歌できるよういかに工夫していたかを当時の映像とともに振り返る。

現代では女性に限らず、永遠の憧れで、ステータスシンボルである数々の名品を是非とも鑑賞して、ガブリエル・シャネルの天の声に耳を澄まして欲しい。帰り道の途中にあるミュージアムショップでは、ガブリエル・シャネルゆかりがあるフランス直送のお土産品も販売。楽しいショッピングもどうかお忘れなく!

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「ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode」
会場/三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
会期/〜2022年9月25日(日)
時間/10:00-18:00 ※⼊館は閉館の30分前まで(祝⽇を除く⾦曜と会期最終週平⽇、第2⽔曜⽇は21:00まで)
月曜休館(但し、祝日の場合、6/27・7/25・8/15・8/29は開館)
Tel/050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://mimt.jp/gc2022/

Text:Aika Kawada Edit:Chiho Inoue

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