【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.26 安倍元総理銃撃事件
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.26 安倍元総理銃撃、容疑者の供述に関する報道への違和感
安倍晋三元首相が、去る7月8日に、2日後に投票日を控えた参議院選挙に向けた奈良での候補者応援の演説中に銃撃を受け、その日の夕方亡くなるという事件があったのは周知のとおりです。白昼に総理経験者が銃に撃たれて殺害されるといった事件がこの日本で発生するとはすぐには信じられず、衝撃的なニュースでした。
容疑者「特定の団体に恨み」安倍氏関係と思い込む https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62469410Z00C22A7MM8000/
事件から数日が経ち、政治犯というよりも家族を崩壊に導いた特定の宗教団体への恨みがベースにあり、その恨みが犯行の動機に繋がっていったのではということが少しずつ明らかになってきています。
上記の日経も“「特定の団体に恨みがあり、安倍氏がこの団体とつながりがあると思い込んで犯行に及んだ」という趣旨の供述をしているという”と報じていますが、事件直後は多くのメディアが『「〜と思い込んで犯行に及んだ」〜と供述している』と報じており、おそらく奈良県警の発表をそのまま載せているところが多かったのだろうと思うのですが、犯行を起こした直後に「思い込んだ」と犯人の口から発せられることがあるのだろうか、という強い違和感が個人的には残りました。もし「“〜と思い”、犯行に及んだ」という表現であれば感じていなかったと思うのですが。
犯人がそもそも精神に異常をきたし錯乱していて支離滅裂な内容の供述をしているのであればこういう供述もあり得る話だとは思うものの(精神鑑定といった報道もあったためその可能性ももちろんある)、自ずから思い込みでしたと犯行直後に認められるような前提で起こった事件とは思えない部分がまず印象としてはありました。
母親が「特定団体」にのめりこんでいったことで山上容疑者の家庭が崩壊し、容疑者は成績は優秀だったものの主に金銭的な事情から望むような進路が叶わず、その後も辛い人生を送ってきたというところまでは事実として報道されています。
自民党や安倍元総理がこの「特定団体」と実際にどの程度の関わりがあったかはこれから明らかにされていくことなのでしょうが、この警察発表から引用されたであろう文面をみると「実際には関わりがないものを、関わりがあるように勘違いしていた」と犯行直後に供述しているように認識できる部分があります。
一般人が外からみても違和感を感じるようなこういった表現が、実際事実と異なっていた(=思い込んだ、とは供述していない)とすると(山上容疑者の犯罪が肯定されるものでは無論まったくもってありませんが)「特定団体」の問題部分を訴えようにもこういったかたちで真意が世間に歪められるようなことが、これまでにも何度もあったのだろうなとも思います。
そしてそういったことが重なっていってしまった結果、社会からの疎外感というのが積もり、そこからさらに自民党や安倍元総理と「特定団体」との一定以上の繋がりがもし実際に事実として存在していたとすると、世間のそういった事象への理解・関心のなさへの絶望感というのは想像を絶するものであり、このように心を蝕んでしまうことに繋がっていってしまった部分が少なからずあるのかもしれないなと感じてしまったのでした。人間は弱い生き物です。
繰り返しになりますが、だからといって、今日の日本においてこのような犯罪が許されるということは微塵もありません。安倍元総理のご冥福をお祈りします。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue