INTO1、王一博はなぜ人気? ファン急増中の中国アイドルカルチャー入門 | Numero TOKYO
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INTO1、王一博はなぜ人気? ファン急増中の中国アイドルカルチャー入門

K-POPのアイドルたちが世界的な人気を集めるなか、中国発11人組ボーイズグループ・INTO1が話題となり、再生回数100億回以上のドラマ『陳情令』主演の王一博(ワン・イーボー)と肖戦(シャオジャン)も、日本でも根強いファンを抱えています。「C-POP」「中華ドル」「華流」とも呼ばれ、ファンの心を捉えて離さない中国アイドルの魅力とは? 日本でのINTO1の企画・宣伝を務める「エーランド」の安田加奈子さんと、四川省出身で実業家、YouTuberとしても活躍するレイレイさんを迎え、中国アイドル事情を解説してもらいました。

いつから始まった? 中国アイドル近現代史

──中国のアイドルブームが始まったのは?

安田加奈子(以下安田)「今に通じるアイドルの流れを、私は3つのタームで捉えています。

第1期は2005年頃、『超级女声』(2004年〜)などの一般人参加の歌手オーディション番組が始まりました。日本でいうと『ASAYAN』ですね。第2期は2015年前後から始まります。2012年にSNH48が誕生、ジャニーズのような育成型アイドル・TFBOYSが2013年にデビューし、2014年に『青春修練手册』でブレイクしました。また、その頃、韓国でEXOとして活動していた吴亦凡(ウー・イーファン)、鹿晗(ルハン)、黄子韬(ファン・ズータオ)、张艺兴(チャン・イーシン)が続々と中国に戻り、『归国四子(帰国4人組)』として人気が爆発します。そして彼らと一緒に、誕生日広告や、災害時の募金活動などのK-POPのファン文化が中国に広まりました」

レイレイ「そもそも中国にはグループが少なく、歌の上手なソロ歌手の方が人気があったんですよね。グループもあるにはあったのですが、台湾や香港のグループでした。グループが増加したのは、やはりK-POPの影響が大きいと思います。私も10代の頃は、K-POPアイドルのH.O.T.を推してました(笑)」

安田「懐かしい(笑)。そして、2018年以降の第3期は、韓国の『PRODUCE101』のようなオーディションサバイバル番組(以降「サバ番」)が次々と登場し、中国のアイドルグループを輩出しました」

──第1期と第3期のオーディション番組の違いは?

安田「第1期はテレビ放映で、投票は携帯のSMSや街頭で行い基本は無料でした。第3期の頃は完全にIT化されていたので、動画配信サービスで投票もアプリから。広告主の商品を購入すると追加の投票権が得られるシステムに変わりました」

第2の蔡徐坤を目指して。サバイバル番組が生んだアイドルたち

──アイドル第3期、2018年からのサバイバル番組ブームの火付け役は?

安田「動画配信サービス・iQIYIの『偶像練習生(アイドルプロデューサー)』です。EXOの张艺兴(チャン・イーシン)が全民プロデューサー代表を務めました」

レイレイ「そこからデビューしたNINE PERCENTは、センターの蔡徐坤(ツァイ・シュークン)がダントツの人気で、グループ活動終了後も彼は国民的なスターになりました。それ以降のサバ番は、次なる蔡徐坤を発掘しようと奮闘していますが、未だに彼を越えるスターは登場していません」

安田「他にも、テンセントの『創造101』(のちの『創造営』シリーズ)、iQIYIの『青春有你』1〜3、YOUKUの『少年之名』などからも多くのグループが誕生しました。ドラマ『陳情令』の王一博(ワン・イーボー)と肖戦(シャオジャン)、『山河令』の張哲瀚(チャン・ジャーハン)、龔俊(ゴンジュン)の人気もあり、この時期、中国のグループアイドル文化が大きく花開きました」

INTO1を輩出! 総再生回数50億回越えの「創造営2021」とは?

──昨年の『創造営2021』は、日本でも話題になりました。中国以外に日本、タイ、ロシア、アメリカなど外国人練習生も多く参加し、友情を育む姿も印象的でした。

安田「私は日本側の番組広報を担当したのですが、製作陣は当初から、視聴者がホッとできるような内容を心がけたそうです。コロナ禍で世界中が落ち込んでるし、仕事に疲れて帰ってきたのに、ピリピリムードのサバ番を見たくないだろうと。今回は海外から参加者を多く募って、中国の文化を体験してもらったり、中国と海外の少年が出会い成長するような内容にしたので、冒頭から通常のサバ番と雰囲気が違いました」

レイレイ「中国のサバ番ファンは単推しが基本なんですが、中国のネットで、創造営2021は群像をきちんと描いていて、箱推しされたことが成功の要因じゃないかと言われてました」

──創造営2021からデビューしたINTO1には、日本のWARPs UPの賛多(サンタ)、力丸(リキマル)、INTERSECTIONの米卡(ミカ)が参加し、日本にもたくさんのファンがいますが。

レイレイ「INTO1が日本で行ったPOP-UPイベントでは行列もできたりして、日本にこれだけファンがいるんだと可視化されましたね。私は新宿マルイで行われたイベントの初日をYouTubeでレポートしたんですが、中国からもたくさんアクセスがありました。面白かったのが、中国のファンから『やっと私たちの気持ちをわかってくれたのね』というコメントがあったんです。日本のINTO1ファンが配信されるコンテンツに日本語字幕がなくて苦労してると知って、かつて日本や韓国のアイドルを追って必死で語学を学んだ努力を、日本の人たちもようやくわかってくれたのねと(笑)」

コスメブランドのアンバサダーは、トップアイドルの証

──K-POPの影響が大きいとのことでしたが、日本のアイドルの知名度はいかがでしたか?

レイレイ「1990年代から2000年頃は、木村拓哉さん、SMAPや嵐の名前を知っている人も多かったと思います。ドラマの『イタズラなKiss』の柏原崇さん、『GTO』の反町隆史さんも人気でした。K-POPの流行には政治的な要因もあったと思います。1992年に中国と韓国が国交回復し、文化交流が始まったのですが、テレビの歌番組に韓国のスターが登場することが多くなりました。日本とも文化交流はあったのですが、歌舞伎などの伝統芸能が多かったんですね。それもいいですが、韓国はポップカルチャーだったので広く一般層に浸透したのではないでしょうか」

安田「K-POPからの影響がある一方で、2018年から『国潮』という、中国独自のものを見直そうという流れがあります。アイドルも中国舞踊を取り入れたりしていますね。コスメも資生堂やKOSEなどの一部の高級ブランドを除いて、中低価格帯のコスメはほぼ国産に切り替わりました。中国のトップブランド、花西子(Florasis)は2015年に誕生したのですが、あっという間にトップまで駆け上がりました。コンセプトやデザインにも、中国レトロクラシック回顧のトレンドが現れています」

(上)CATKIN  頤和園百鳥朝鳳 彫刻口紅(レイレイさん私物)(下)花西子 百花同心錠 彫刻リップ(ライター私物)
(上)CATKIN 頤和園百鳥朝鳳 彫刻口紅(レイレイさん私物)(下)花西子 百花同心錠 彫刻リップ(ライター私物)

レイレイ「清朝の皇帝が休暇を過ごした頣和園(サマーパレス)と、CATKINがコラボした彫刻口紅は、お土産としても大人気です」

安田「最近の男性アイドルは、女性向けのファッションやコスメの広告のアンバサダーに就任することも特徴ですね。INTO1では劉宇(リュウユ)がコーセー『ソフティモ』のグローバルアンバサダーを務めています」

レイレイ「中国は、Eコマースが盛んで、完全にトラフィック至上主義なんですよね。デビューしたアイドルがどれだけ広告がついているかが人気の指標だし、ライブコマースに出演してどれだけ売り上げを立てるかも彼らの実績になるので、ファンも推しのために商品を大量購入するわけですね。『流量明星(トラフィックスター)』という言葉もあるんです」

中国のZ世代がアイドルにハマる理由

──2021年11月、ファンがみんなでお金を集めて応援活動を行う「バー」や、サバ番投票の課金などの「推し活」が規制されました。社会問題になるほど、中国の若者がアイドルにハマる理由とは?

レイレイ「2018年頃がピークだったGDP成長率が落ち着き、以前のように若者の大きな夢が叶うことは難しくなってきました。それなら、自分の代わりに推しに夢を叶えてほしいと、自分の生活費を節約しても、推しのデビューのために投票権を買い、自分の代わりに推しには美味しいものを食べたり、いいものを着てほしいから、CDやグッズをたくさん購入するんです。アイドルに自分の願いを投影したというのが、理由の1つだと思います」

──日本から見ると、中国は好景気が続きキラキラしているイメージでした。

レイレイ「今年、映画『花束みたいな恋をした』が中国でも興行収入14.8億円のヒットを記録しました。『孤独のグルメ』や『深夜食堂』も人気です。中国の若者の間に『小確幸』という言葉が流行しているんですが、これは小さな幸せを大切にしようという意味です。この考え方は日本から伝わってきたんですよ」

中国政府による「推し活」規制以降、どうなる中国アイドル?

──今後、中国アイドル界はどうなるのでしょうか。

レイレイ「数年前から、Z世代の間でマーダーミステリーが大ブームで、推理探偵系のバラエティ番組が増えています。芒果(マンゴー)TVの『明星大探偵』はすでにシーズン7に突入しました。

テンセントでも『开始推理吧』が始まり、INTO1の周柯宇(ジョウ・クーユー)が参加しています」

安田「それから、ストリートダンスもブームですね。YOUKUの『这!就是街舞(ストリート・オブ・チャイナ)』 は、张艺兴(チャン・イーシン)、​​王一博(ワン・イーボー)らが参加し、『了不起! 舞社(グレート・ダンス・クルー)』 には、威神V(WayV)のTEN、INTO1賛多などがリーダーを務めました。このあたりから次のスターが登場する可能性はありますし、投票にお金を紐付けない、新しい形のオーディション番組が誕生するかもしれません。ドラマも、ブロマンスを想像させるような作品も徐々に出てきているので、また新たな形で新しいアイドルが登場してくるのではないでしょうか」

 

Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto

Profile

安田加奈子Kanako Yasuda 東京都出身。立教大学経済学部卒業後、日本の大手PR会社に入社。中国・北京の対外経済貿易大学での語学留学を経て、2009年から同PR会社の北京駐在員として、日系企業のマーケティング業務に従事。15年に帰任後は、中国企業の日本進出支援などを手掛ける。その後フリーランスを経て20220年、中華圏専門マーケティング企業「エーランド」の代表取締役に就任。
レイレイ雷蕾 中国四川省南充市生まれ。北京師範大学卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)北京事務所に入構。その後、一橋大学大学院で修士課程を修了し、2010年に野村証券に入社。ゲームソフト開発会社のネクソンを経て、2015年に「シンフロンテラ」を設立し代表取締役に就任。訪日中国人を対象にしたインバウンド旅行や日中のビジネスマッチング、同時通訳、調査、コンサルティング業務などを手掛ける。YouTubeチャンネル「レイレイの中国トレンド」で最新情報を発信中。

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