アートと暮らす達人たちのインテリア術 vol.3 越智康貴
生活の中で当たり前のようにアートを楽しむ人はどのような家に住んでいるのだろう。今すぐ真似したくなるインテリアのアイデアは、人生を豊かにするためのアイデアでもあった。アートを愛する達人たちの暮らし拝見!Vol.3はフローリスト越智康貴のご自宅をご紹介。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年6月号掲載)
アートが主役のギャラリーのような空間
息遣いを感じるような作品と
愛猫2匹と暮らすのは、もともと自身がアトリエとして使っていた広い部屋。新たに事務所を設けたため、現在は住まいにしている。3mある高い天井のホワイトキューブに大きな窓から柔らかい自然光が差し込み、ギャラリーさながらの雰囲気だ。「家の中には気に入った作品や自分で描いた絵、友人の作品を置いています。投資目的で作品を購入する方もいますが、セカンダリーには流さないし、持っているものの価格もかなりまちまちです」
いまにも動き出しそうなステファニー・クエールのネズミもお気に入りのコレクションのひとつ。「仕事で展覧会のオープニングに花を生けに行ったんです。そんな中で目が合ったのが、買い手の決まっていなかったこの彫刻でした。飾りやすい小さなサイズながら、力強い佇まいと細やかなディテールが気に入って購入しました」
植物はもちろんのこと、動物や昆虫など生きものに心惹かれる。リビングの壁に並ぶのは、友人から誕生日に贈られた写真家アレック・ソスによる眠る犬の写真、同作家のチューリップの写真は187名もの写真家がコロナ禍に参加したチャリティープリントセール「Pictures for Elmhurst」で手に入れた。佐藤允による頭部の絵と身を寄せ合うふたりの人のデッサン、鎧を着た猫と心臓を抱えた猫の絵は、本人がアトリエで描いたものをもらい額装した。さらに自ら描いた男性の絵。どれも作品に対する、繊細な眼差しと愛情深さが伺える。「額装は作品の保護のため、簡易的な額を買ってきて自分でしています。美術館で大作を鑑賞することや、アートに関する文献を読むことも大きなエネルギーをもらえます。知識を蓄えると同時に『好きな絵や写真を壁に掛けるのっていいよね』というシンプルな感覚で、作品を日常に取り込むことに大きな喜びを感じます」
生活の知恵としてのアート
「金憲鎬(キム・ホノ)のオブジェは、どう作られているかわからない複雑さと独特の形が魅力。アートと工芸品、食器と器の境が曖昧で、ぎりぎり成立しているところが面白いんです」
<左>ダイニングテーブルの上に鎮座する陶芸作家、金憲鎬のオブジェ。「不思議なテクスチャーと色に魅せられてしまった作品。コロナ禍に開催されたGallery Nao Masaki のオンラインエキシビジョンで見つけました」。作品のオンライン購入は初めてだったという。 <右>虹色のグラデーションで大胆な曲線を描いた、エリン・D・ガルシアのドローイング。
作品の歪さを手で確かめながら見つめる。越智さんは実際に手を動かし体験を通して物事を味わうことを好む。趣味で絵を描く動機もそうだ。「料理も外食したときにレシピが気になったりしますよね。それと同じで、簡単にでも筆で絵を描いた経験があると、日本画を目の前にしたときに見え方が変わると思います。線の美しさや技術の高さを実体験をもって理解できる。少しだけ解像度が高くなるようで、楽しいです」
この考え方には彼の職業も大きく影響しているようだ。「花があるシチュエーションや花に込めた気持ちを流通させる仕事だと考えています。絵も花も、自分のために飾り、人と贈り合える。少し似ているところがあると思うんです」複雑な文脈や高尚さを気にしすぎるよりも、気楽に視覚的な満足感を得て、人生を鼓舞するもの。それだけで充分価値があるのだという。
Photos:Tomohiro Mazawa Edit & Text:Aika Kawada