建築家、吉村順三による熱海の邸宅にTu es mon Tresorの「1977-」オープン | Numero TOKYO
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建築家、吉村順三による熱海の邸宅にTu es mon Tresorの「1977-」オープン

熱海に期間限定でオープンした「Tu es mon Tresor(トゥ エ モン トレゾア)」のサマーレジデンシーショップ「1977-」。建築家・吉村順三が手掛けた邸宅で、通常一般公開されていないスペシャルすぎるロケーションを会場に、素晴らしきモダニズム建築とヴィンテージ家具、そしてトゥ エ モン トレゾアのデニムが調和するインスタレーションを体験してきました。

雄大な太平洋を臨む、かつてみかん畑が広がっていた高台の1000坪の敷地に立つ、建築家、吉村順三の設計による広々とした300 平米の邸宅。吉村順三建築といえば、軽井沢の山荘、京都の老舗旅館「俵屋」、八ヶ岳高原音楽堂などがありますが、個人宅については当然ながら見学することができません。トゥ エ モン トレゾアの「1977-」は、その通常は見学できない住宅建築を堪能できる建築好きには垂涎ものの貴重な機会でもあります。

今回、この1977年に竣工した邸宅のリノベーションをトゥ エ モン トレゾアのデザイナー佐原愛美さんがディレクション。もともとかなりのこだわりが詰まった空間なだけに、独自の寸法の障子、ドアの絶妙な色使い、眼下に広がる海、庭の大きな木、窓からの風景まで全てが計算されているようです。そのオリジナルの佇まいや意匠は生かしながら、各部屋の用途も踏まえた上で、壁の漆喰から、オーダーで染めたカーペットの独特のカラーリング、選りすぐりの30〜70年代を中心としたヴィンテージ家具まで、佐原さんの感性で再解釈しアップデートされています。

モダニズム建築の邸宅といっても、直線的でストイックな印象の家具ではなく、トゥ エ モン トレゾアのデニム作りにも通じる、モダンでありながら、女性の体に寄り添うような曲線的なラインを思わせる、有機的なフォルムや素材使いの家具が印象的。そして、空間と呼応するように壁面に飾られた写真は、トゥ エ モン トレゾアのイメージビジュアルを撮影した写真家Jenna Westra(ジェナ・ウェストラ)によるもの。女性の体のラインやシルエットが作り出すカーブや間(ま)を捉えた写真がさらに空間をさらに素敵にしています。

1階、2階と隅々まで演出されていますが、まず玄関に入ると、壁面の真っ赤なシャルロット・ペリアンのキャビネットがガツンと目に飛び込んできます。そこから広々としたリビングダイニングルームへ。大きく開いた窓からは広い庭、垣根の向こうには水平線までくっきりと見える海。暖炉と壁面のレンガ使い、若草色のカーペット、ブラジルデザインの父と称されるJoaquim Tenreiro(ホアキン・テンレイロ)の黄色のソファ(※取材時は搬入前でしたが現在は設置済み)とアームチェア。

そしてピエール・ジャンヌレの樹齢何年ですか級の立派な切り株のテーブルは華奢なメタルの足とのコントラストがたまりません。ダイニングには1977年から残る天童木工のテーブルに合わせ、ホアキン・テンレイロのチェア。この空間に合わせて作られたライトも最高です。

個人的には、キッチンにビルトインされているなんともレトロモダンなオーブンにも注目。
個人的には、キッチンにビルトインされているなんともレトロモダンなオーブンにも注目。

続いてリビングの脇の深い海のようなブルーのカーペットの書斎へ。カーペットとトーンを揃えて張り替えたという丹下健三による天童木工の椅子。ジェナの写真集や資料をゆっくり閲覧するもよし。

廊下と階段のカーペットのレンガ色もまたいい。
廊下と階段のカーペットのレンガ色もまたいい。

さらに奥に進むと、ようやくデニムが登場。「美しい暮らしの風景の一部として、服を想像することに関心があります」という佐原さんの言葉通り、ベッドルームにさりげなく掛けられたデニムの繊細な美しい色。独特のグレージュトーンのカーペットと一体感に包まれるニュートラルカラーのデニムは、染色家シャネル・ウエヤマさんとのコラボレーションによる草木染め。水彩画のような陰影や濃淡とアーシーなトーンが絶妙です。素朴さとナチュラルさの中にも、一角にはミース・ファン・デル・ローエのガラスのサイドテーブルに、剣持勇のメタルフレームのラウンジチェアが共存し、あくまでもモダンな演出。

このポップアップは、建築ありきで、まず空間を手がけることから始まり、この場所で見せるならどんなデニムがふさわしいかを考え、決して華美ではない質素なしつらえの中で、カーペットには美しい色を取り入れている吉村順三ならでは感性に着想を得て、色で表現することにしたのだそう。

美術館もそうですが、その作品を見せるために、最初から空間を作ったり、その空間で表現するために、最初から作品を作ると、空間との一体感の包まれ方、全体で醸し出すオーラが違う気がします。

手前から、よもぎ、希少な梅の木ごけ、桜の木、柿渋で一点一点丁寧に手染めしたもの。
手前から、よもぎ、希少な梅の木ごけ、桜の木、柿渋で一点一点丁寧に手染めしたもの。

その隣の部屋には、通常のデニムコレクションも並び、2階の一番奥には、もとは子ども部屋だったという真っ赤なカーペットと壁に備え付けのチェックのベンチシートが愛らしい秘密基地のような空間が出現。コロンとさりげなく置かれている木の箱は、ご存じル・コルビュジェのLC14スツールです。細部まで抜かりありません。

2階吹き抜けから見たリビング。
2階吹き抜けから見たリビング。

真っ青なタイルが敷き詰められたバスルーム。
真っ青なタイルが敷き詰められたバスルーム。

ビルトインの家具や窓枠、オリジナルのドアの色も絶妙。
ビルトインの家具や窓枠、オリジナルのドアの色も絶妙。

随所に意匠が凝らされた暮らしの美学の宿る空間、コーディネートされたヴィンテージ家具、スペシャルなデニムと写真家ジェナ・ウェストラの作品が調和する、邸宅全体で表現されたトゥ エ モン トレゾアの、デザイナー佐原さんの美意識を感じに、ぜひ熱海へ小旅行してみてほしい。「服を単一の要素としてではなく、暮らしの空間に存在する色、形、素材、光、身体、時間、感情……、それらを一体のものとして思い浮かべながら、美しい暮らしの風景の一部として服を想像しようとする試みです。このスペースから、美しい暮らしとは何かを考える、新たなきっかけが生まれますように」。そんな佐原さんの真っ直ぐな思いが伝わるはずです。

Tu es mon Tresor サマーレジデンシーショップ 1977-
公開日/7月23日(土)、24日(日)、8月27日(土)、28日(日) ※完全予約制
URL/https://ja.tu-es-mon-tresor.com/

Text:Masumi Sasaki Edit:Chiho Inoue

Profile

佐々木真純Masumi Sasaki フリーランス・エディター、クリエイティブ・ディレクター。『流行通信』編集部に在籍した後、創刊メンバーとして『Numero TOKYO』に参加。ファッション、アート、音楽、映画、サブカルなど幅広いコンテンツ、企画を手がけ、2019年に独立。現在も「東信のフラワーアート」の編集を担当するほか、エディトリアルからカタログ、広告、Web、SNSまで幅広く活動する、なんでも屋。特技は“カラオケ”。自宅エクササイズ器具には目がない。

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