【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.23 前澤氏所有のバスキア絵画が109億円で落札
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
先日、前澤友作氏の保有するジャン・ミッシェル・バスキアの絵画《Untitled》が、ニューヨークのフィリップスのオークションで予想落札価格を大幅に上回る8500万ドル(約109億円)で落札されました。
vol.23 前澤氏所有のバスキア絵画、109億円で落札
https://news.yahoo.co.jp/articles/43ba9ab616a21ba96aeb0054ca0d6c1818787726
2016年の購入時の金額が約62.5億円だったことを鑑みると、45億円程度の差があったことになりますが、この差の内訳の委細を考えてみましょう。まず落札額のうち15%(13億円)程度はバイヤーズプレミアムと呼ばれる落札者がオークション会社に支払う手数料で、(出品手数料はフリーになっていたと想定すると)前澤さんが手にする値上がり幅は30億円超となります。
前澤さんはこの作品の売買を通じて、円換算で6年間で約50%強の利益を得たことになり、年利換算で約8%強と金融商品としてもいい投資先だったと言えます。
純粋にバスキア作品の値上がり幅として考えるのにあたるって、これをドルベースで考えると、前澤さんが落札時に支払った金額である5700万ドル→7500万ドルとなり、約30%の値上がりに割合としては減少します。2016年5月と2022年5月現在を比較すると、1ドル約108円から128円程度に円安がすすんでおり、この期間にドルの値上がり幅が15%強ありました。これはつまりは前澤さんでなくてもこの期間に単純に円ではなくドルで資産を保有しているだけで、為替差益として、6年間で15%強の価値が増加したということになります。
米ドルベースでみたときの年利5%となると、アメリカのインフレを鑑みると金融商品としては不動産など他のオプションも出てくる程度の利率で、日本円でみたときの値上がり幅ほどのインパクトはなくなりますが、もちろん金融商品としての現代アートの価値がないというわけではありません。
世界全体が不景気に突入しつつあるこの状況でもバスキアのこの作品がこの金額で落札されている事実が身を持って物語っていますが、長い未来に渡ってグローバルで人気を保ち続けるであろう作家のユニークピースは、長期的にみると値下がりリスクも少ないです。また「この《Untitled》と過ごした約6年間は、幸せで刺激的な忘れられない時間となりました」と前澤さんもコメントしていましたが、そのアートを保有することで享受できるプライスレスな感覚は、ある種プライスレスな金利とも言えるのかもしれません。
純粋な投資と考えると魅力的な金融商品は他にもあり、おそらくのところ前澤さんも投資目的がメインでこの作品を入手したわけではなく、その感覚を味わうためというのが第一義で、今回は結果的に利益を手にすることもできたのでしょう。作品の価値が100億円単位となると、2000億円程度の資産があるのではと言われている前澤さんクラスの資産家でもポートフォリオの入れ替えを考えるタイミングがあるというのもまた、興味深いポイントでした。
二桁億のアートを買うことは多くの人にとっては現実的ではないことながら、若手作家の作品を購入することで似たような体験を味わうことは不可能ではありません。まず、そのために必要なことは、作品と過ごすことで幸せを感じられるアーティストと出会うことなのではと思います。そこから5年、10年後にその作家の評価がグンとあがっていることは夢物語ではなく、このバスキアの作品も80年代初頭には数千ドルだったのです。次のバスキアを探すというよりも、自分にとってのバスキアを見つけるプロセスはとても愉しいことで、興味のある読者の方は、ぜひギャラリーに繰り出してみてください。きっと心の通じ合うアーティストがどこかにいるはずです。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue