佐久間裕美子がレポート、アレキサンダー マックイーンショー in NY | Numero TOKYO
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佐久間裕美子がレポート、アレキサンダー マックイーンショー in NY

アレキサンダー マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)がNY・ブルックリンで2022AWコレクションのショーを開催。NYでのショーは23年ぶりのこと。NY在住のジャーナリスト佐久間裕美子がレポート。

3月中旬、アレキサンダー・マックイーンから、ポスターサイズの招待状が届いた。黄色く光る巨大なマッシュルームの図柄に「Mycelium」(菌糸体)という単語が入っている。

菌糸体とは、キノコ類をはじめとする菌類を構成する糸状の集合体のこと。今、キノコ類が社会の様々な場所で、かつてないほどの注目を浴びている。地球環境に負担をかけずに繁殖できる上に、周囲の植物に栄養素を与えるので修復能力もある。サステナブル・ファッションでは、人口培養によるレザーのような素材が開発され、少しずつ実用化されている。人間の体には毒性を発揮するものもあるが、免疫効果の高い種はサプリや粉末として使われるようになっているし、かつては危険ドラッグと言われた向精神作用のある(サイコアクティブ)種をメンタルヘルスの治療に取り入れる場所も出てきている。

ショーのテーマとしてはまさにホットな題材だなと思いながら、それにしてもなぜ今ニューヨークで?との疑問を胸に出かけた。会場は、かつて海軍が使った施設を再開発した「ブルックリン・ネイビー・ヤード」のウェアハウス。足を一歩踏み入れると、山の形に盛られた木片と土が森の中のような香りを醸し出している。

マックイーンのショーがニューヨークで行われるのは、3度目で、2000年のコレクションを発表した1999年から20年以上が経つ。リー・アレキサンダー・マックイーンのアシスタントを務め、彼の亡き後クリエイティブ・ディレクターに就任したサラ・バートンにとっては初めてのニューヨークでの発表だ。会場で配布されたコレクション・ノートには、今回ニューヨークを発表の場に選んだことについて「私たちのコミュニティの一部だから」と書かれている。

コレクションのインスピレーションに「Mycelium」を選んだのも、このコミュニティ祝福の精神から。「菌糸体は最長の超高層ビルの屋上と植物、草木、地上、動物、人間をつなぐことができる。菌糸体には、魅惑的な地下の構造を通じてメッセージを伝え、樹木が助けを必要な時、また具合の悪い時、互いに手を伸ばし合うことを可能にする深遠な接続力がある」。バートンは、過去2年間というパンデミック期間に「起きたすべてのこと」を受けて、家族や友人といった人間関係のメタファーとして、菌糸体をとらえたようだ。

イギリスのロックバンド、ザ・キュアーの80年代のヒット曲「A forest」をBGMに始まった実際のコレクションは、サヴィル・ロー仕込みのバートンが得意とするシャープなテーラリングを最大限に活かしたスーツやジャケット、ライダースジャケットを再解釈したルックなどに加え、マッシュルームというテーマが、鮮やかなロングニットの図柄、クリスタルやビーズを多用したドレス、サイケデリックな色のチョイスなどに昇華している。また、1999年にニューヨークで発表した際に、リー・アレキサンダー・マックイーンがロボットを使ってスプレイペイントをさせた伝説のコレクションのオマージュとしてグラフィティ・ペイントを施した白いドレスが登場した時には会場が湧いた。

レザーのルックが登場した際、動物の体から取られるレザーの使用に反対する者として、「マッシュルーム・レザーか?」とワクワクしたが、今シーズン時点ではまだ本物の革を使っているようだ。ただショー後の記者たちとの談話で、バートンは、マシュルームレザーの商品を試作中であること、また8割以上のルックにリサイクル素材を使っていることを明らかにしたようだ。

地球環境が修復されるよりも破壊される速度のほうが圧倒的に早いこの時代、マッシュルームや菌糸の世界が提供してくれるポテンシャルは大きい。アレキサンダー・マックイーンのようなメゾンが、マッシュルームが模倣する革をコレクションに取り入れる日が実現することを願ってやまない。


Alexander McQueen Autumn/Winter 2022 Show

Text : Yumiko Sakuma

Profile

佐久間裕美子Yumiko sakuma 文筆家。1996年に渡米し、98年からNY在住。カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルでインタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆する。著書に『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『Weの市民革命』(朝日出版社)など。

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