【デニム探訪 vol.2】すべての女性が理想の一本に出会えるデニムブランド「Tu es mon Tresor」
あまたあるデニムの中から卓越した技術や作り手の思いがこもった一本を深堀りする新シリーズ「デニム探訪」がスタート。第二回は、Tu es mon Tresor(トゥ エ モン トレゾア)のデニムにフィーチャー。
Tu es mon Tresor(トゥ エ モン トレゾア)のデニムを読み解く
時代を超えて長く愛用され続ける、パーマネントな定番を目指し、ブランド設立10年、2020年に女性のためのデニムブランドとしてリスタートした新生「トゥ エ モン トレゾア」。デザイナー佐原愛美による、女性の体に向き合ったフェミニンなデニムのこだわりを徹底リサーチ。
王道ストレートデニムの機能とデザインを現代風に解釈
一番人気のモデル、エメラルドは、コットン100%のいわゆる501のようなストレートシルエットのボーイフレンドデニムを現代女性に向けてアップデートしました。ハイウエストでヒップにフィットしながらもゆったりとしたシルエットが特徴。シンチバックでウエストの微調整も可能です。
もう一つがカーネリアン。いわゆるマリリン・モンローがはいていたような、女性のために作られた初のデニム701に近いシルエットで、股上深めのハイウエストに、こちらもシンチバックを付けました。ウエストバンドも直線のクラシックな形をアレンジしています。
深めにロールアップするのを前提にしたデザインで、ちょうどいいバランスで折れるように折り目にステッチが入っています。自分で折ると幅の加減が難しかったり、左右で微妙に高さが違ったりしますが、お好みで調整する時もステッチを基準にすれば折りやすいです。
ヴィンテージのディテールを盛り込んだスペシャルピース
ブランドをリローンチする前からのモデルで、40年代のヴィンテージ織機で織った生地を使い、当時の製法にかなり近い手法でコットンステッチやセルヴィッジを使っていたり、本格的な501のディテールを盛り込んでいます。エメラルドがモダンな解釈を加えているのに対し、全体的にオールド感があり、アタリや刺繍など人の手が入ったスペシャルな一本です。生地は厚めの13.5オンスですが、ジンバブエコットンなので柔らかくフワッとした風合いが特徴です。糸の毛羽が均一でないために白く出ているのが味わいになっています。
大人がはけるストレスフリーなタイプ別ストレッチ
一般的にストレッチデニムは若い体に合うようにできているものが多くて、年齢とともに変化する体に合うような、自分がはきたいと思えるストレッチがないと感じていたことから、大人でもはける、エレガントさを意識しました。トレゾアのストレッチデニムはできるだけ長くはいて欲しいから、化学繊維の割合を少なくして、伸縮性を持続させ、コットンデニムに近いような見た目の生地を使用しています。また、尾錠の調整がない分、女性の腰やお腹周りの曲線的なボディラインに沿うように、滑らかなカーブベルトにして、腰回りのラインを美しく見せる仕様にしました。
(写真左)The Amethyst Jean 3year ¥41,800、(右)The Ruby Jean 7year ¥38,500
ミッドウエストのスリムフィットで裾はややフレア、センターラインが入っているのが特徴のアメジスト。トレゾアでは、いちばんスキニーなフィット感のルビー。アメジストと同素材ですが、少し厚めのオンスなので、いかにもストレッチデニムという印象ではありません。生地の表面に起毛しているような加工を施し、滑らかで柔らかい肌あたりと馴染みやすさに仕上げました。そのまま寝てしまうほど家でもずっとはいていられる快適さです。
(写真左)The Rose Quartz Jean 7year ¥38,500、(右) The Sapphire Jean Black 1year ¥39,600
細身のスリムストレートで股上深めのハイウエストのサファイアは、気になるお腹が収まるようにできていて、さらにラインを拾いたくない、ヒップや太もも周りには丸くふくらみのあるパターンを最初から作り、少しゆとりを持たせました。身長が低めの人でもすっきりはける、スリムすぎず太すぎずのシルエット。裾にかけて気持ちフレア気味のローズクオーツはクロップ丈と膝部分を少し絞っているため脚長効果もあります。
蒸し暑い夏でもゆったり快適なはき心地のサマーデニム
(写真左)The Lapis Lazuli Jean Flax 3year ¥41,800、(右)The Coral Jean Short Solid 7year ¥31,900
ワイドストレートで、丈も長めのラピスラズリ。全体的に丈が短かめだったファーストコレクションに対して、ゆったりダボっとはきたい人向け。ワイドなのにごわつかず、柔らかな風合いのオーガニックコットンの生地は10オンスと薄く軽い仕上がり。蒸し暑い夏にもサラッと着用できます。そして、膝が隠れるハーフパンツのターコイズと、さらにショート丈のコーラル。ともに腰回りはゆったりフィットで楽ちんな上に涼しい。極端なヒゲやスリを入れずに、色落ちのアタリ加工のみでクリーンに仕上げているので、元気すぎず大人もきれいにはけます。
【インタビュー】
女性ならではの解釈で、女性の体と感性に寄り添うデニムを深く追求する
──これまでのブランドから、新たにデニムブランドとしてリローンチしようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
「年4回レディ・トゥ・ウエアのコレクションを発表していく中で、5シーズン目ぐらいから、自分がやりたい方向性とは違うと感じるようになってきました。その頃も自分なりにすぐに古くなってしまうサイクルの速いものは作らないようにと、もともとミリタリージャケットなど時代に左右されないものに、シーズンの役割として、その時の気分やメッセージを載せて、時代をどう捉えるかを考えながら作っていました。でも、どうしても大量生産、大量消費の考え方やシステムに違和感を覚え、自分が謳ってきたことやもともとやりたかったものと矛盾が生じてきました。このスタイルで続けていくことに疑問と葛藤が生まれ、立ち返ったんです」
──自分のスタイルと、ファッション業界のシステムにギャップを感じてしまったんですね。立ち返るにあたり、デニムをテーマにしたのはなぜ?
「ファッションに興味を持ったきかっけは、母のクローゼットにあったブランドものの、もの作りの素晴らしさへの憧れでした。母が若い頃、着ていたであろうカシミアのポンチョや籐のかごバッグなどが大切そうにしまってあり、その特別なものの持つ丁寧な作りや色褪せない美しさに惹かれたんです。まだ幼かったけれど、90年代に流行ったブランドロゴを全面に主張するデザインより、母のクローゼットの中の、60〜70年代のシルクのブラウスやトレンチコートといったクラシックなものを素敵だなと感じていました。それ以来、ファッションに目覚めて、母のセリーヌのブラウスを着られる日を夢見て、早く大きくなりたいと楽しみにしていたのを覚えています。
そういう原体験があったので、パーマネントないいものを作りたいという思いは強くありました。日本で作れるいいものを考えると、ヨーロッパやパリのアトリエで培われた文化ではなく、日本が育んだ歴史あるものがいい。デニムなら世界で通用するハイクオリティなものが作れる確信があり、デニム一本でやっていこうと決めました。それからトゥ エ モン トレゾア(以下トレゾア)でデニムを作ることは、どういうことかを考えました。これまではデニムが持つワークウェアという無骨で粗野なイメージを、刺繍を加えることでフェミニンにしていくことにやりがいを感じていました。でも時代とともにデニム=男性的、パール=フェミニンという考え方自体がずれてきたこともあって、違うアプローチでデニムをフェミニンにできるのではないかと思うようになったんです」
──ではどうやってデニムをフェミニンなものへと変化させたんでしょう?
「女性ならではの解釈で、女性の体を考えた機能に寄り添うことを深く追求することにしました。女性の体を見ていくと、私の友人もそうでしたが、出産の前と後ではヒップ周りの印象がまったく違うこともあるので、段階的にヒップラインのパターンを出したほうがいいとか、どうすれば足をきれいにバランスよく見せられるかを検証して、膝を絞ってクロップト丈にして裾を少しフレアに広げることで、スタイルよく見せる効果があるとか。女性がどうはきたいかを考えながら作っています」
──形やデザインはどのように決めてコレクションに落とし込んでいくのですか? 単純に好みの形なのか、押さえておくべきオーセンティックな型を再解釈するのか。ひと口にデニムといってもトレンドによっても変化しますよね。
「デニムをリローンチすると決めてから、まず第一に、時代を超えて長く着られるもの、パーマネントなものを作りたいという思いがあったので、一番定番となる軸を考えました。それは、ボーイフレンドタイプなど自分のワードローブに必要な形、自分でははいてこなかったスキニーも、どういうスキニーなら自分も欲しいか、世の中の女性のワードローブに必要だと思える流行り廃りがないものは何か。
例えば、フレアやロールアップが流行ると、わざとらしく強調したデザインが多いと思うのですが、私の場合は、最初にコレクションを見せた時、全然差がないじゃないかって言われるくらい、一見しただけではわからない些細な違いで作っています。構想から数えると開発して数年経ちますが、これだから古いとか、これは2年前のデザインだとか、そうならないものを考えています。例えば、私にとってのエルメスのスカーフのように、流行など関係なく欲しいもの、永遠に定番として持っていたいものかどうかが基準です」
身近でリアルな人のためのプロダクトとしてのデニム
──自分のデニムをはく人を想像しながら作るということもあったりしますか?
「確かに、より身近な人や、街を歩いているリアルな人をモデルに考えることが多くなりました。以前はテーマやコンセプト、世界観を優先し、クリエイション重視のもの作りをしていた部分もありましたが、今はどちらかというとプロダクトや機能的な日用品を作る感覚に近いかもしれません。もともと民藝運動の考え方には感銘を受け、そういうもの作りが好きなので、必要不可欠なもの、生活や人に寄り添うものと考えると、デコラティブである必要性がどんどんなくなっていき、必要最低限の要素だけを残していくように変化していきました」
──必要最低限として残した要素、不要で削ぎ落とした要素とは?
「ヴィンテージのデニムを象徴するボタンフライですが、そこにこだわる理由が見つからなかったんです。もちろんデザインとしてオールド感はかっこいいけど、機能面から言うと、ボタンを1個1個留めていくよりファスナーのほうが便利です。それに女性はネイルをしている人も多いので、ボタンフライだとネイルが傷むという話も聞いていたので、既成概念を取っ払ってジッパーにしました。ちょっとしたことでも快適さを優先するようにしています」
──デニムの王道を踏襲するこだわりよりも、快適さを重視すると。
「シンチバックについても、デザイン性もありますが、どちらかというと機能として存在しているから採用しています。女性の体は、1カ月の内でもちょっと太りやすい時期があったり、私自身も変化が割とあるほうなので、尾錠の必要性を感じています。リローンチ前は、尾錠のベルトをあえて切っていました。その昔、40年代にカウボーイたちがシンチバックをカットして着用していたのを真似て、カットしたデザインを取り入れていましたが、サイズ調整をするのに必要だからちゃんと付けるように見直しました。それがデニム好きの方にも好評です」
──デニムには石の名前が付けられていて、石の色とステッチの色が連動していたり、そういう着眼点にも女性の作るデニムだなと感じます。石の名前っていいアイデアですよね。
「石が好きというのもあって、石が持っているイメージとデニムを重ね合わせて、反映させています。例えば、エメラルドは健康的で快活なイメージ、サファイアは知的なイメージ、ローズクォーツは女性っぽい雰囲気なのでシルエットもカーヴィーなデニムに、ルビーは情熱的な印象なので最もフェミニンなスキニーというように名付けています」
女性のためのセーフプレイスのようなブランドを作りたい
──2020年、新生トゥ エ モン トレゾアとして再スタートして以来、シーズンごとに何型も作るというスタイルではないと思いますが、まだまだ作りたいデニムはありますか?
「最初に7型デザインして、これで大多数の女性の体型をフォローできると思っていたら、さまざまな体型や雰囲気の女性がいるので、全然足りていませんでした。ある人には7型のうち1択しかしっくりこなかったとか、シルエット的にはローズクォーツが欲しいけど、ちょっとピタピタすぎるとか、全員がはけるものはなかなか難しい。トレゾアのデニムはコレですと押し付けるというよりは、どんな人にとっても私の定番はコレだっていうデニムに出会ってほしいと思っているので、そこにたどり着くには、まだまだ型数が必要だと実感しています」
──さまざまなタイプの女性に合うデニムを作ることで女性を後押しされていますが、ブランドを通して女性を支援する活動に積極的に取り組んでいることもその延長線上にあるように思います。
「学生時代からNPOの活動に参加していたこともあって、ファッションの世界に入ってからも社会的な活動は続けてきました。お客様からの売り上げの一部を寄付に充てるからには責任があるので、寄付金がどのように使われているのか、どんな人が運営しているかをよく調べた上で、私がここだったら信頼できるという団体ということで、主に性的搾取による人身売買の被害に遭った少女や子どもを支援したり、なくすために活動している<かものはしプロジェクト>と取り組みをしています。何かしたいと思っていても個人でアクションを起こすのはハードルが高いので、トレゾアを通じて知るきっかけになればと思っています」
──コンセプトにも掲げている、女性のためのセーフプレイスとは、佐原さんにとってどんな意味を持っているのでしょう。
「辛かったり苦しかったりするときに、音楽や文学が励みになることは、誰にとってもあると思うんですが、それが私にとっては、美しい服に触れ、ファッションの世界に浸ることでした。ファッションが心の支えで、現実逃避できる場所だったんです。それを“セーフプレイス”という言葉で表現しているのですが、私がかつてそうだったように、ファッションというジャンルで女性にとってのセーフプレイスみたいなブランドを作りたいという思いがあります。だから、実際に被害にあった女性をサポートし、心の拠り所となる、セーフプレイスを提供している<かものはしプロジェクト>は、次元は違うかもしれないけど、ともに女性のために存在する、という点で共通していると感じました」
女性写真家と対話するように生まれるヴィジュアルイメージ
──ブランドの世界観を伝えるヴィジュアル表現にも、どこか女性のセーフプレイスのような佇まいを感じました。
「リローンチにあたり、ロンドン在住の女性写真家のレナ・C・エメリーに撮影を依頼しました。彼女の撮る写真にはトレゾアと共通するどこかクラシックな世界観が感じ取れたし、環境活動家でもある人間性やフィロソフィにも共感できる部分がありました。やはりファーストコレクションということもあって、女性同士だからわかり合える親密さのようなものをヴィジュアルで表現したかったんです」
──言葉ではない共通言語のようなものがあるのでしょうね。彼女の存在はどうやって知ったんですか?
「もともと写真が好きで、写真集もよく購入していますが、そこで見つけたレナの『Yuka & The Forest』という日本の山林の風景を舞台に、木霊の存在を日本の少女に擬えて捉えた写真集を見て、その美しい世界に引き込まれ、彼女にお願いしたいと、コンタクトしました。写真家にこうやって撮影してくださいと具体的にお願いするのではなく、写真の世界の一部にデニムを存在させたい、写真の世界にちょっと仲間に入れていただくみたいな感覚でした。撮影には参加していませんが、モデルとレナの2人だけで撮影した親密さが滲み出ている、美しい写真に仕上げてくれました」
──自分が共感するフォトグラファーがトレゾアのコレクションをどう解釈して写真に返してくれるかという、なんか文通のようなやりとりですね。
「だからすごく楽しいんです。ブランドとしての思いや服作りの姿勢や考え方を伝えただけですが、写真が届いたとき、自分たちの目の前の世界が開けたような、想像以上に、彼女がさらに広い世界を見せてくれました。ブランドとして、これが正しい方向なんだと再確認できました。だから、ヴィジュアル表現はトレゾアにとってコレクションを発表するのと同じくらい重要です。その次のコレクションでは、もう少し素朴でナチュラルな感じを出したいと思い、クララ・バルザリーという女性写真家に依頼して、二人のモデルによる女性同士のコミュニケーションが垣間見られるようにしました。女性同士の絆みたいな、フェミニズムも感じられる、まさに私が求めていた世界になっています」
──最新のヴィジュアルは、これまでの素朴さや自然体の雰囲気とはまた違う視点というか、構図の面白さやコンテンポラリーダンスを見ているような印象を受けました。
「トレゾアは、ナチュラルなイメージだけでなく、デニムブランドであり、ファッションブランドであること、モダンで洗練された世界観も併せ持っているので、そこを表現したかったんです。そこで、ジェナ・ウェストラという女性フォトグラファーにお願いしました。女性の体のラインやシルエットが作り出すカーブや、それこそ写真の中のスペース(空間)みたいなものを解釈してくれました。デニムをはいた時のシルエットを、言葉では女性らしいカーブの一言でしか伝えられないんだけど、写真だったら何通りにも伝えられるということを教えてもらいました」
──デニムという、飾り立てる要素が少ない分、ヴィジュアルもより本質的な表現になってくるのでしょうね。次はどんな写真家とコラボレーションをして、どんな世界を見せてくれるのか楽しみです。新生トゥ エ モン トレゾアが、デニムだけにコレクションを絞っていることも、女性支援の活動も、こういうヴィジュアル表現が成立していることも、全てに一貫した信念を感じます。
Tu es mon Tresor(トゥ エ モン トレゾア)
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Photo:Anna Miyoshi(Item, Portrait) Interview & Text:Masumi Sasaki Edit:Chiho Inoue