イタリアワイン、家族の物語 【Vol.9】「Cascina Chicco」ボトリングするのはロエロの情景 | Numero TOKYO
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イタリアワイン、家族の物語 【Vol.9】「Cascina Chicco」ボトリングするのはロエロの情景

いろいろな変化のなかで新しい年を迎え、あらためて親しい人々に感謝しながら思いを交わすことの多い時季。ワイン造りに情熱を注ぐイタリアの家族にフォーカスし、月1回でお届けしているワイン連載の第9回は、ピエモンテ州 「Cascina Chicco(カッシーナ・キッコ」のストーリー。

自然と向き合うワイナリーの光明

コロナ禍と言われる状況になって早2年。人との関わり、働き方など変化を余儀なくされるなか、日常の小さな喜びを見つけ出したり、新しい波に身を任せたり、ポジティブに順応しているという声も聞くようになってきた。ワイナリーを営む人々は常に予測できない自然と向き合う職業ゆえか、本連載の取材でも信念をしっかり持ちながら、変化に柔軟に対応している人々が多い。

今回紹介するワイナリー、カッシーナ・キッコも同様。パンデミックによって従来のスケジュール管理の習慣を失い、多彩なニーズに応えることに苦心したが「ワインへの関心が高まり、売り上げが伸びたことで、ビジネスが改善された面もあります」と語る。レストランに出かけ、友人と飲み交わす時間は減ってしまったが、逆に家でじっくりと一本のワインを味わい、生産背景や思いを知るいい機会になったのかもしれない。

コミュニティを牽引する存在に

ファッチェンダ家が営むカッシーナ・キッコは、有名なバローロ、バルバレスコと同じピエモンテ州の南部、ロエロのワイナリー。ロエロもまた上質なワインを生み出す地域として注目されているが、カッシーナ・キッコはその中心部、カナーレ地区でスタートした。創設者のエルネストのニックネーム、キッコにちなんで、カッシーナ・キッコ=キッコの家とネーミング。なんでもこの土地では、古くからファミリーごとにニックネームで呼ぶ風習があったのだとか。コミュニティの親密さ、また土地への愛着を物語るエピソードだ。

カナーレの歴史は1260年にも遡り、農業生産で財をなした街のだとか。ファッチェンダ家はもともと肉を扱うサルメリアで、この地でしか作られていないローストハムの名店として知られていたが、エルネストがもともとワイン名産地であったカナーレに1ヘクタールの土地を購入し、1950年代にブドウを栽培したことからワイン造りを始めた。

70年代にはエルネストの息子、フェデリコが元来のきめ細やかな性格、高品質へのこだわりで父がつくるワインを、家族の名を冠し、ボトリング。妻のマッダーレーナのサポートもあり、ワインの魅力を拡散していった。80年代に入ると、3代目にあたるフェデリコの息子、エンリコとマルコがアルバの醸造学校で学び、ワイナリーを継承。90年代から現在に至るまで、マルコはセラー、エンリコはビジネス面を担当し、二人はワイナリーの近代化を推し進めている。

サルメリアとの兼業からワイナリーへ

ファミリーは2代目フェデリコ時代に、日曜も営業していたサルメリアとの兼業から「一つのことだけに集中しよう。さもなくば休日も働かなくてはならなくなるよ」という初代の助言とともに、ワイナリーに集中する決断をし、今なお数少ない家族経営を貫いている。現在、エンリコはロエロの市長も務めており、4代目はパラプーニョという伝統スポーツで優勝するなど、ファッチェンダ家はボランティア活動や文化、スポーツ団体に参加し、カナーレの社会に深く関わっている。次世代であるマルコの息子、フェデリコとステファノは、ただいま絶賛修業中。セラーでさまざまなことを経験したり、営業を学ぶなど精進しているという。

次世代のフェデリコとステファノ
次世代のフェデリコとステファノ

ネッビオーロに込めた情熱

イタリアでも限られた地域でしか栽培されておらず、高貴さで知られるブドウ品種、ネッビオーロに情熱を傾けるカッシーナ・キッコ。この地のテロワールを伝えるネッビオーロに魅了され、2001年にはいち早くネッビオーロのみでスパーリングのメトド・クラシコをつくるなど革新も忘れない。

また「私たちは、自分たちが育てた土地に住み、仕事をしています。未来を見据えて、健康で快適な環境で暮らすことが最優先です」と語るように、グリーンエネルギーの活用、化学的な除草剤不使用、畝間に緑肥を播くこと、オーガニック&ケミカルフリーでの虫の駆除、トレーサビリティーなどサステナビリティにも熱心に取り組んでいる。

エンリコ曰く「夕方のブドウ畑では、日が暮れる瞬間に空気中に何かを感じられるような光があります。それはほかとは違う特別な瞬間だと感じます。なぜワインをつくるのか? それは私たちのボトルのなかで、この感覚を表現し、”素晴らしい”瞬間に意味を与えようとするからです」カッシーナ キッコのワインを口に含むとき、旅に出られなくとも、エモーショナルなときを享受することができるに違いない。

推しのワイン、造り手のおすすめペアリング

ロエロ リゼルヴァ “ヴァルマッジョーレ” 
Roero DOCG Riserva Valmaggiore


ブドウ品種、ネッビオーロ100%を、木樽で16〜18ヶ月熟成した赤ワイン。ヴェッツァ・ダルバにあるヴァルマッジョーレ単一畑。スミレやキイチゴ、ブラックチェリー、スパイスの香りが豊かに複雑に絡み合い展開する。厚みがあり、余韻に至るまでバランスを崩さない均衡のとれたボディ、タンニンと果実味がうまく調和したエレガントな味わい。750ml ¥3,400(参考小売価格)

ファッチェンダ家から、このワインに合うおすすめ料理:スパイスで味付けしワインで煮込んだ郷土料理、ブラサトとのペアリングがおすすめです。肉のローストや煮込み、チーズともお楽しみいただけます。

ロエロ アルネイス “アンテリージオ” 
Roero Arneis DOCG Anterisio

アルネイス100%の白ワイン。カナーレにあるアンテリージオ単一畑。輝きを帯びた麦わら色、杏やリンゴの爽やかな香りがカモミールの余韻を伴い、心地よく広がる。酸味と果実味のバランスがとれた風味の良い味わい。750ml ¥2,300(参考小売価格)

ファッチェンダ家から、このワインに合うおすすめ料理:仔牛とマグロを使った、この地の伝統的な料理、ヴィテッロ・トンナートがおすすめです。前菜、パスタ、魚介類の料理全般と相性がいいと思います。

●購入可能な主なECサイト

ロエロ リゼルヴァ “ヴァルマッジョーレ” 

ロエロ アルネイス “アンテリージオ” 

Foodliner
TEL/078-858-2043

Edit & Text:Hiroko Koizumi

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DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

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