ストリートから世界のステージへ、RIEHATAがダンスに懸ける思い | Numero TOKYO
Culture / Feature

ストリートから世界のステージへ、RIEHATAがダンスに懸ける思い

世界的なダンサーであり、BTSなどK-POPアイドルや クリス・ブラウン、EXILEなど有名アーティストの振り付けを手がけるRIEHATA。ストリートで踊っていた少女が世界屈指のダンサーになるまでには、速くて濃い、波乱万丈の物語があった。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年12月合併号掲載)

“私のダンスは音楽を視覚化するから感情移入できる”

Photo:Kisimari
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先生はテレビの中 歌とダンスに憧れた幼少期

リエハタの原点は幼少期に憧れたテレビの中の歌手だった。「母親は歌が大好きで、誕生日やお祝い事には音楽をかけてみんなで踊るような家庭に育ちました。人の前で歌ったり踊ったりすることが大好きで、アイドルや歌手のように自分も踊ってみたいと、モーニング娘。の完コピをしたり安室奈美恵さんや嵐のステップを真似してみたり。パラパラからよさこい、海外のMVやテレビが私の先生でした」

歌手を夢見て地元のスクールに通い始め、すぐにダンスに夢中になった。「そこは歌よりダンスに力を入れているスクールだったんです。周りから褒めてもらうことが増えて、どんどんダンスにハマっていきました」

中学生の頃に家族で田舎から関東へ、キッズダンサーとして活躍。学校には進学せず、ダンスの道を志した。「昼間は新宿のモスバーガーでアルバイトして、夜になったら練習。当時、スタジオを借りるのはプロがすることで、私たちはビルのウィンドウを鏡にして、ひたすら練習しました。今もつながっているダンサーはほとんど当時の仲間たちです」

Photo:Kisimari
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LAで感じた挫折と希望。可能性を信じて努力を続ける日々

週末はダンスのイベント、お金が貯まったらLAの郊外にいる親戚の元でホームステイをした。「3カ月LAに滞在して、帰国したらアルバイトというのを3年くらい繰り返しました。LAでも有名なスタジオはレッスン料が高く、親戚の家も郊外で遠かったので頻繁に通えなかったけれど、初めて有名なスタジオ『ミレニアム』の門をくぐったときは落ち込みました。そこは頂点を目指すダンサーが集まっていて、私以外の全員は圧倒的に技術が高い。井の中の蛙だと思い知ったんです」

でも、もしここで有名になれたら、世界的なダンサーになれるかもしれない。1%の可能性を信じて、努力を重ね、筋トレやバレエも始めた。「それまで、ヒップホップが上手ならそれでいいと思っていたけれど、それでは世界基準に到達できない。基礎力を強化するために、LAの田舎にあるバレエ教室に通いました。柔軟性を高めて体幹を鍛えると、軸が安定して開脚やターンの精度が上がったんです」

そうしているうちに、独自のダンススタイルと、ヒップホップの枠に収まらないファッションがLAで注目され「イケてる日本人がいる」と噂になった。日本でも「LAで注目のダンサー」と、活躍の場が広がった。

Photo:Kisimari
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世界を飛び回る中で直面した妊娠、出産、大けが

2010年、レディー・ガガが日本で『ミュージック・ステーション』に出演するためのバックダンサー・オーディションに合格。「自分の『SWAGスタイル』が確立した頃でした。その出演もあって、アメリカやヨーロッパからレッスンのオファーが舞い込むようになったんです。レッスンを受ける側だったLAのスタジオからも」

世界を駆け回る日々が続き、さらなる飛躍を目指して、アメリカ移住や有名アーティストのワールドツアー参加を計画するが、その中で妊娠が発覚。当時は出産を経て現役復帰するダンサーは少数だったが、出産を決意し、わずか産後3カ月でAIのツアーダンサーとして復帰した。「再び踊れる喜びをかみ締めた直後、膝の前十字靭帯断裂という大けが。同時に2人目の妊娠が発覚して、周囲はこれで引退だろうと思ったでしょうね」

大切な街、LAで息子たちと。リエハタは2人の子どもを育てるシングルマザーでもある。「いま、注目する人? 私の息子たち。才能があるから、成長が楽しみです」
大切な街、LAで息子たちと。リエハタは2人の子どもを育てるシングルマザーでもある。「いま、注目する人? 私の息子たち。才能があるから、成長が楽しみです」

長男に兄弟をつくってあげたかったし、子どもを授かることは何にも代え難い喜びだ。出産、育児、手術と踊れない日々が続く中、キッズダンサーの振り付けを始めた。「小さな頃から私に付いてきてくれた教え子たちだったから、口で伝えるだけで理解してくれたんです。『RIEHATATOKYO(RHT)』というチームを結成し、世界大会で2年連続準優勝を収めました」

「RIEHATATOKYO」のクルー。「私が教えてきたのは生き方。今は振り付けも少しずつみんなに任せています。彼らに希望のあるルートをつくれたことが本当に幸せ」
「RIEHATATOKYO」のクルー。「私が教えてきたのは生き方。今は振り付けも少しずつみんなに任せています。彼らに希望のあるルートをつくれたことが本当に幸せ」

BTSの「MIC Drop」も。世界的なコレオグラファーに

膝にはボルトが4本、プラスチック靭帯で、以前のように長時間は踊れないが、活動を徐々に再開すると、再び世界からオファーが入った。16年には憧れていたクリス・ブラウンの「Party」のMV出演を果たし、振り付けを担当した。

「以前からBIGBANGがSWAGスタイルに目をつけて、川崎までレッスンを受けに来ていたんです。その流れで、13年に2NE1のCLのソロ作『THE BADDEST FEMALE』の振り付けをしました。クリス・ブラウンの仕事を経験すると、彼に一番近いアジア人ということで、一気にオファーが増えました」

BTS「MIC Drop」「IDOL」「Anpanman」「Boy With Luv」、TWICE「SIGNAL」、NCT U「BOSS」など世界的なヒット曲も手がけた。「最近ではBLACK PINKのLISAのソロ曲『MONEY』を担当しました。LISAから、ネクストステップに移行するためにリエハタの要素が欲しいとオファーをいただいて。LAのケオネ・マドリッドと共作したNCT DREAMの『Hot Sause』『Hello Future』など、韓国からもたくさん依頼をいただいています」

国内ではNissyの『Do Do』『Say Yes』『Get You Back』も彼女の振り付けだ。MV撮影にも同行して、現場でアーティストが一番よく見える角度をカメラマンに伝えたり、現場を盛り上げる役目も担った。「本来、振付師は練習段階で振りを渡したら仕事は終わり。ダンサーとして出演しない限り、撮影現場に行くことはないんですが、アーティストに来てほしいと言われたら、現場でアーティストが最高の状態で、いい作品を作る手助けをするのも私の役目ですから」

リエハタの振り付けは人の目を捉えて離さない魅力がある。「ミュージカル調でキュートな曲や、切ないバラードでもリエハタイズムを感じると言われます(笑)。自分では意識しないけど、音楽をヴィジュアライズすることが得意なので、見る人が感情移入しやすいのかも」

振り付けを考えるとき歌詞をプリントして、伝えたいメッセージや目を引くポイントから要素を練り上げる。例えば、BTSの『MIC Drop』は、アイドルの壁を壊すように、冒頭にフリースタイルのようなダンスを取り入れた。『Airplane pt.2』は歌詞やラテン風の曲調から、一本のスタンドマイクをメンバーが手渡していく振り付けが生まれた。

日本のダンスを盛り上げてみんなを元気にするために

いま、韓国や中国ではダンスバトル番組が人気を集め、ダンサーはアーティストとして尊敬の対象となっている。しかし、日本ではまだバックダンサーとして裏方の扱いだ。それが少しずつ変化の兆しを見せている。今年行われた日本初のダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」で、彼女はダンスチーム「avex ROYALBRATS」のディレクターとして優勝に導いた。「日本でもダンサーをアーティストとして確立するための画期的なプロジェクトでした。若いダンサーが名を広める機会になってほしいから、私はシーズン1だけの参加ですが、ダンスへの恩返しという意味も込めて、振り付けから楽曲制作、音楽、スタイリングまで死ぬ気で頑張りました」

そして彼女はいま「歌」という新たな挑戦を始めている。「私の信念は、人と自分の心が喜ぶことをすること。今、小さな頃の私の夢、歌手として曲をリリースする準備をしています。音楽には力があるから、コロナ禍で孤独を感じている人や元気を失った人に、歌だからこそ伝えられるものがあるはず。ダンスもそうですが、人に寄り添うようなエンターテインメントを作っていきたい。それは子どもの頃から今もずっと私のやりたいことです」

幼い頃から長年指導してきた「RIEHATATOKYO」が「avex ROYAL BRATS」としてD.LEAGUE初代王者に輝いた
幼い頃から長年指導してきた「RIEHATATOKYO」が「avex ROYAL BRATS」としてD.LEAGUE初代王者に輝いた

Who is next RIEHATA?

RIEHATAが10代の頃から指導し、「RIEHATATOKYO」として活動するクルーの中から、注目の2人をご紹介。ダンサーそして振付師として、世界が熱視線を送る彼女たちのきらめく才能に注目しよう。

(左)
ASUPI(アスピ)
KEY(SHINee)の「BAD LOVE」やRed Velvet「Queendom」の振り付けを手がけ、クリスタルケイ、AI、ZICOなどのバックダンサーとしても活動。7歳から地元京都でダンスをはじめ、16歳で「RIEHATATOKYO」に加入。関西を中心にレッスンも行っている。 @asupi_pipi

(右)
ReiNa(レイナ)
『RIEHATATOKYO』創立メンバー。ダンスリーグでavex ROYALBRATSとして初代チャンピオンに輝く。ソロでは海外のダンスバトル「RadikalForze」にて15歳のとき優勝し、世界から注目される。フランスの「CriminalzCrew」にアジア人初加入。2000年、19歳で振り付けを手がけたNCT U「MAKE A WISH」で振付師としても世界に衝撃を与えた。@reinaqueenme

Photo:Kisimari  Interview & Text:Miho Matsuda Edit: Saki Shibata

Profile

RIEHATAりえはた 1990年、新潟県生まれ。小学生からダンスを始め、中学卒業後、LAでダンス修業を続ける。独自の「SWAG」スタイルが評判になり、世界20カ国以上でレッスンを行い、国内外のアーティストとの共演や楽曲の振り付けを担当。今年「avex ROYAL BRATS」を率いてD.LEAGUEに出場。初の著書『ダンスで世界を変えた人生サバイブ術  境モチベQUEEN』も発売中。

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