WWDJAPAN編集長 村上要に聞く、モードとストリートの蜜月について | Numero TOKYO
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WWDJAPAN編集長 村上要に聞く、モードとストリートの蜜月について

2021年の現在、そもそも別の文脈で語られていたはずのモードと ストリートが切っても切り離せない関係となっている。この現状はどのように生まれ、どこに向かうのか。ファッション&ビューティメディア『WWDJAPAN』の編集長である村上要に聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年12月号掲載)

 

ストリートの楽しさを知り、メインストリームへ

はっきりとした定義はありませんが、街の中から生まれたものすべて。それがストリートファッションだと思います。スニーカーやパーカー、ロゴTなどシンボリックなアイテムはいろいろありますが、ストリートファッションを語る上で外せないのが1994年にアメリカで誕生したファッションブランド、シュプリームです。

左)Virgil Abloh(1)
ストリートを中心に支持されてきたオフ-ホワイト™のヴァージル・アブローがルイ・ヴィトンのメンズコレクションを手がけるようになったのは2018年のこと。建築家やアーティストとしても知られる。

右)Kim Jones(2)
フェンディの新アーティスティック ディレクターに就任したキム・ジョーンズ。ルイ・ヴィトンやディオールなどでメンズを手がけてきた彼が、今年、初のウィメンズコレクションデビューを果たした。©︎Brett Lloyd

90年代から2000年頭ぐらいまでは、ラグジュアリーとストリートは別の世界で盛り上がっていました。ラグジュアリーの世界にいた人は「シュプリームってブランドが人気らしい」と外国の話のように捉えていたと思うし、逆にストリートの住人はラグジュアリーの世界に興味がなかったり 味がないように 装ったりで、自分たちだけで盛り上がっていた。それが、10年代に入り、ヴァージル・アブロー(1)やキム・ジョーンズ (2)といったデザイナーたちが台頭し始めると、徐々にストリートとラグジュアリーが近づいていきます。彼らは10代後半から20代前半という青春真っ只中のとき、シュプリームをはじめとするストリートブランドに夢中だったからです。

日本も同じで、アベイシングエイプやアンダーカバーなど裏原ブームを創造・体験して育ったデザイナーは数多い。こうしてストリートファッションの楽しさを知る人たちが今、ファッション界のメインストリームにいてクリエイションをしている。彼らのDNAにはストリートファッションが組み込まれているから、その要素を取り入れるのは全く特別なことではないんだと思います。

(左)Photo Getty Images/(右)Photo Aflo
(左)Photo Getty Images/(右)Photo Aflo

Louis Vuitton × Supreme(3)
2017年秋冬コレクションにて発表されたルイ・ヴィトンとシュプリームのコラボ発売時は、世界中の店舗で行列ができた(写真左)。ヘイリー・ビーバー(写真右)など多くのセレブリティも愛用。

“ラグジュアリーなストリートウェア”をコンセプトとしたヴァージル・アブローのオフ-ホワイト™が15年にパリコレデビューしたこと、14年に誕生したマルセロ・ブロンカウンティ・オブ・ミランをはじめとするラグジュアリーストリートと呼ばれるブランドがミラノから世界に広がったことなどもエポックメイキングでしたが、やっぱり決定的だったのは、キム・ジョーンズ在籍時のルイ・ヴィトン×シュプリームのコラボ(3)でしょう。日本でも南青山に期間限定でオープンした店舗には何千人もの人が並び、世間を賑わせ、2つの世界が完全に融合したことを知らしめました。

Photo Aflo
Photo Aflo

Phoebe Philo(4)
ショーのフィナーレで、何度もアディダス オリジナルスのスタンスミスを履いて登場したフィービー・ファイロ。この後、女性たちの間で空前のスタンスミス、そしてスニーカーブームが巻き起こった。

ストリートとモードの接近はメンズ発信でしたが、ウィメンズでも後を追うようにスニーカーブームが到来します。それはセリーヌ人気を復活させたデザイナー、フィービー・ファイロ(4)の影響が大きい。彼女はアディダスオリジナルスのスタンスミスを履いてショーに現れ、セリーヌでもスニーカーを発表。セレブやインフルエンサーなど多くの女性がインスパイアされたほか、今度は男性がセリーヌのスニーカーを買うようになりました。ちょうど巷ではメンズの間でニューバランスブームが起きていて、こちらは女性にも一気に浸透し始めた。世界的にジェンダーレスなムードが漂い始めて、今のストリートファッションの隆盛や多様化につながったと思います。

SNSがボーダーレスを加速化

ストリートとラグジュアリーが近づいた背景には、インスタグラムの普及も欠かせません。インスタが登場する前、メディアはラグジュアリーの世界ばかりに目を向け、ラグジュアリーマーケットの情報はラグジュアリーブランドのファンにだけ届いていました。ストリートに越境して届くことは、ほとんどなかったと思います。それがインスタによって誰もが容易に発信しやすくなり、ストリートの存在感が顕在化。今はラグジュアリーブランドのデザイナーがストリートのアーティストにDMでコラボのオファーをしたり、逆にストリートのアーティストがラグジュアリーのクリエイティブディレクターに売り込みをしたりと、ボーダーレスなコミュニケーションが当たり前です。また、ストリートとラグジュアリーが接近する背景には景気も関係していると思います。特に長きにわたって若い世代の可処分所得が増えない日本では、彼らがラグジュアリーブランドのエントリーアイテムだったバッグを買うことが難しくなっています。それに比べてスニーカーやハット、ソックス、AirPodsケースは比較的買いやすい値段だし、身に着けられるシーンも多いから満足度が高い。取り入れやすいアイテムを身に着けて、インスタにポストする。そういう流れが当たり前になりました。

Photo Aflo
Photo Aflo

BTS
オフショットなどでメンバーが着用しているアイテムはすぐに特定され、ファンが買い求める──。特にBTSなどK-POPスターのストリートファッションを中心とした着こなしは現在、注目の的。

加えて、90年代のストリートファッションの盛り上がりにヒップホップミュージックが深く関わっていたように、今はBTSのようなK-POPスターたち(5)の発信力も忘れてはいけません。彼らはプライベートでハイブランドとストリートブランドをミックスしていて、すごくうまいんですよね。身に着けたアイテムがファンによってあっという間に特定されて、無名のストリートブランドが急にスターダムにのし上がることもよくあります。

スニーカーブームは続くのか

前出のフィービーに続き、15年にアーティスティック・ディレクターに就任したデムナ・ヴァザリアがバレンシアガからスニーカー(6) をリリースしたことがきっかけとなり、その後さまざまなラグジュアリーブランドからスニーカーが発表されました。ラグジュアリーブランドとナイキやアディダスとのコラボはすっかり当たり前となり、こうしたスニーカーはマニアにとって垂涎の的で投機の対象になっています。ただ最近はコラボスニーカーが溢れ、マニアにおけるレアスニーカーの売買価格は下落傾向です。個人的には、そろそろハイブランドにはスニーカーだけじゃなく、パンプスやドレスシューズ、ブーツもちゃんと作ってほしいと思います。ファッション業界は改めて多彩な選択肢を提供すべきです。

Courtesy of BALENCIAGA
Courtesy of BALENCIAGA

Sneaker by Balenciaga (6)
2017年に登場したバレンシアガのスニーカー「トリプルS」はダッドスニーカーブームの火付け役で現在も高い人気を誇る。手がけたのはアーティスティック・ディレクターのデムナ・ヴァザリア。


NIGO®︎(7)
今年9月、ケンゾーの新アーティスティック・ディレクターにNIGO®︎が就任したというニュースがファッション界を賑わせた。来年にはウィメンズとメンズのデビューコレクションを発表予定。

ケンゾーのアーティスティック・ディレクターにNIGO®︎が就任(7)するというニュースが飛び込み、ラグジュアリー ×ストリートの勢いはまだまだ続きそうですが、昨年からブーツがトレンドになり始め、若者の間でもジャケパン(ジャケットにセットアップではないパンツを組み合わせること)を着る人が増えてきたようです。22年春夏も、ジャケットにブラトップのようなコーディネートが目立ちました。そんなスタイルには、スニーカーでも、パンプスでも、ブーツでも良い。ストリート由来の自由な発想で、それぞれが、それぞれらしくファッションを楽しめればと願っています。

Interview & Text:Mariko Uramoto Edit:Sayaka Ito

Profile

村上要Kaname Murakami WWDJAPAN編集長。1977年、静岡県生まれ。静岡新聞社に勤務後、渡米。ニューヨーク州立ファッション工科大学でファッションコミュニケーションを学ぶ。帰国後はINFASパブリケーションズに入社。2017年『WWDJAPAN.com』編集長に就任。21年より現職。

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