川上未映子から、モードを愛する人たちへ贈るエッセイ「りぼんについて」
夢を与えてくれるようなファンタジーあふれるファッションが注目されるこの秋、装飾の定番、リボンがなぜか気になる。不安定な世の中に、可憐かつ躍動的に舞うリボンが秘めた魅力を、リボニスタとして知られる作家・川上未映子の特別寄稿とともにお届けする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年11月号掲載)
「りぼんについて」
文・川上未映子
物心ついたときから、りぼんというものに惹かれつづけて、その最大の魅力はいったいなんなのだろうと、考えることがよくあります。というのも、街で買い物をしているとき、素敵な品々を眺めているとき、自分の持ち物を手入れするときなどに、そこにりぼんがあるだけで格別に心がときめくからで、あれは本当に、体温がほんの少し上昇しているのではないかと思うくらいに嬉しいものです。 りぼんには、そうした可愛さとか気分を高揚させる要素とともに、それじたいに、どうもイデアめいたところがあるんですよね。 たとえば、りぼんという文字と音の響き。漫画雑誌の『りぼん』、アニメの『リボンの騎士』などなど、子ども時代にふれていたいくつもの善きものたちのイノセンスにしっかりと結びついているし、そしてその形は、永遠と無常という、世界の理を表しているようにもみえるのです。 結びめから上の輪っかがふたつ部分は、メビウスの帯のように裏返りながら、現在がずっとつづいていくという終わりのなさ、美しい永遠性を想起させますし、下の部分の切れ端は、すべてはやはり、いつか必ず断たれるのだという真実。わたしたちがりぼんをみるときに抱く「かわいいな」とか「素敵だな」という思いの底のほうには、理想と現実、彼岸と此岸、有と無、永遠と無常、ほかにもいろいろありますけれど──つねづね対極にあるような、そうしたふたつの概念が息づいていて、わたしたちは知らないうちにそれに触れているのではないかと感じます。指輪、ブローチ、髪留め、模様……それがどんなものでも、どんなに小さいものでも、それがりぼんであるだけで、そこに「世界」が現れているようなのです。 なぜなのか、無いところから生まれてきて、いつか必ず消えてしまうすべてを生きる──そんな絶対的な矛盾を宿命づけられている、わたしたちの生や生活を彩るものとしての、りぼん。そして、あらゆる贈り物にかけられることの多い、りぼん。 そう思うと、りぼんは、永遠と終わり、悲しみや喜びや苦しみや幸せなんかをぜんぶひっくるめたこの世界や人生が、ひょっとしたら誰かからの、何かからの贈り物であり、祝福とともに存在するものであるように思わせてくれるものなのかもしれません。〈静物・左上から〉フローラプリントにハックされた、バレンシアガのロゴを斜めに配したリボンスカーフ。¥30,800/Gucci(グッチ・ジャパン 0120-99-2177) つけ襟のチュールリボンにとまるハチがキュートに主張する。¥29,700 /Catherine Osti(シジェーム ギンザ 03-6263-9866) グラディエーター風のハイブーツにリボンがアクセントを添える。¥333,300/Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン クライアントサービス 0120-00-1854) 流れるような曲線を描くリボンモチーフのダイヤモンドが、手先を華やかに彩ってくれる。(WG×ダイヤモンド)¥1,155,000/Chanel(シャネル カスタマーケア 0120-525-519) ビッグサイズのパフィなバレッタで視線を集めて。¥19,800/Alexandre de Paris(アレキサンドル ドゥ パリ ギンザ シックス店 03-6264-5442) グリッターとクリスタルを施したスリングバックシューズで、煌めきを携えて。ヒール5.5cm ¥145,200(予定価格)/Miu Miu(ミュウミュウ クライアントサービス 0120-451-993)
Edit & Styling : Hiroko Koizumi, Shiori Kajiyama
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Photo: Reiko Toyama