【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.10 日本政府が掲げる「分配」
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.10 日本政府の掲げる「分配」について
衆議院選挙も終わったところで、今回は政府の掲げる「分配」について考えてみます。経済対策、取りまとめ急ぐ「成長と分配」具体化課題
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021110101397 そもそも日本では終身雇用のシステムが一般的で、新入社員のときに入社した会社に定年退職まで勤め上げるという人がまだまだ大多数です。この仕組みによって、実は一定の「分配」というのはすでに日本においては相当レベル実現されていて、近年随分と変わってきてるとはいえ、大企業であればあるほどそこまで成果を出していない社員がそれなりの給料を毎月もらっているというケースも珍しくありません。労働基準法に定められた解雇規制は、グローバル資本主義の中では企業が競争力を保つのが厳しいレベルのものであり、そもそもやり過ぎレベルの分配システムともいえるのです。 そして昨今、日本においては経済成長が相当に鈍化し、非正規雇用の増加などで一部その分配システムに異常が発生し、さらなる分配が叫ばれてるのが日本の今です。まるで資本主義での戦いを諦めて、社会主義に近づいているようにもみえます。アメリカにおいては、日本とは段違いに貧富の格差が進みすぎな上に、経済成長が続く中、富裕層の資産運用での利回りの方が中間・貧困層が労働で稼ぐペースより遥かに大きくなっていて格差が開く一方なので、是正が必要なのは確かです。同様に経済成長が続く中国が最近掲げている『共同富裕』の方針もアメリカのような格差のつきすぎた社会にならないためという側面が強いです。
そうした諸外国では格差が無限に拡がり続ける構造に問題提起がなされているのに対して、日本はあくまで結果の平等が望まれている感じがあります。業績が大きく傾いた会社で、そこそこ高額の社長と役員の給料を社員に分配します! と声高に叫んだところで、残念ながら、国全体で新しい産業に取り組み、ベースとしては国家として資本主義の中でも一定の成功を収めていかないことには何の解決にもなりません。
とはいえ今回の選挙においても、国民の優先度としては国が経済的に豊かになっていくよりも、分配に比重が置かれていた印象があります。多くの若者にとっては生まれてからずっとゆるやかに衰退していっているこの国に希望を持てないのも哀しいかな、致し方ないのかもしれません。
そういう背景を鑑みると、今後日本が目指すべく世界での立ち位置は、経済性をも含めた全体最適のエコシステムに則ったグローバルスタンダードのサービスを享受できる東京的な大都市の暮らしのスタイルではなく、良心や慣習で仕組みが回っていて、まあまあ不便だけど生きていくには困らない地方の街のようなポジションなのかもしれません。
現状すでにそうなっている部分も多分にあるともいえますが、未来に進むべく方向性としても、そう定義すべきタイミングが近々訪れるのかもしれません。この連載のvol.2でも書いたように、そうなってくるとラグジュアリーブランドにとっては日本は魅力的な市場ではなくなり我々にとってもますます手の届かないものになっていきます。まあiPhoneやスターバックスですらじわじわと贅沢品になっていってしまうのかもしれないです(これですらすでにそうなっているのかも、ですが)。
そういった状況が今後ますます進んだ時に、自分が日本に住み続けたいと思うのかはわからなくなってきました。だったらどこの国に住みたいと思うかももちろん今は分からないですが、なんだかとても寂しいことに、この国のシステムの担い手とその選ばれ方に今後も自分の気持ちがついていける自信がなくなっている今日この頃です。さて、日本の未来はどうなっていくのでしょうか。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue