アートな視点でみる『ミス ディオール』の世界
1947年に誕生した名香「ミス ディオール」。芸術家と女性への情熱を生涯大切にしたムッシュ ディオールにオマージュを捧げ、「ミス ディオール」がアートとなって表参道に出現した。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年11月号掲載)
響き合う世界観の饗宴
香りには、記憶や感性を呼び覚まし、まだ見ぬ世界を描き出す力がある──。この秋、装いも新たに生まれ変わったフレグランス「ミス ディオール」。そのデビューを記念した展覧会「AS SEEN BY」が東京・表参道で開催された。各国の女性アーティスト10名が「ミス ディオール」にインスパイアされたアートを制作、それを世界に先駆けて披露する特別なイベント。
出展された作品の一部から。(写真左)リボンが空中に浮かぶオブジェは、オランダ在住のサビーヌ・マルセリスの作品。 (右)中国のフア・ワンは、ボウを強調した磁器作品を制作。
9月1日から12日まで表参道で行われ大好評を博した「AS SEEN BY」。「ミス ディオール」をそれぞれの感性でアートに昇華させた作品に、賞賛と感嘆の声が。フランス、中国などでも順次展示予定。
ミモザ・エシャールによるボトルをモチーフにした彫刻や、アーニャ・キーラーによる女性像など、十人十色の展示のなかで注目を集めたのが、日本の荒神明香の作品だ。無数の花びらが重なり合い、上下対称の不思議な光景を織りなしている。
「『ミス ディオール』は、母が昔から使っていた香水です。子どもの頃、母に『香水を選んで』と言われて選んだのがこの香りだった。その時に子どもながらに考えたのが『自然であるかどうか』ということでした」
そこから”自然と人工の拮抗“というテーマが浮かんだと荒神は語る。「この作品シリーズ『reflectwo』の原点は、川の水面に映った景色に衝撃を受けた体験です。有機的な形が水面の反射でくっきりと反転した時、何気なく見ていた風景がある存在感を持ち始めた。その存在感は自然なものか、それとも人為が誘導したのか……。自然とは森林やエコロジーのようなものだけでなく、その中に真逆の人為が埋め込まれているような繊細さがある。『ミス ディオール』にも同じものを感じて、このモチーフで制作しようと考えました」
『reflectwo』は「瀬戸内国際芸術祭」をはじめ、国内外で発表されてきた荒神の代表作の一つ。しかし、制作は一筋縄ではいかなかったという。
「今回は『ミス ディオール』の香りに使われている花と同じ種類の造花だけを使うことにしました。数名のチームで5ミリほどの小さな花弁を精密に貼り合わせていくのですが……コロナ禍のため、オンラインでの制作になったのです。初めてのことで、繊細な感覚をどう伝えるか不安でしたが、連携がシナプスのようにつながって全体が一つになるような、新鮮な体験になりました」
“自然と人為”という表現テーマと、花々と調香師の手が生み出す「ミス ディオール」。二つの世界観が響き合い、新たな作品が完成した。「柔軟でありながら芯があること。繊細でありながら大胆であること。優しくて厳密であること。『ミス ディオール』には、あらゆる両極の間を行ったり来たりできる、しなやかなイメージがある。それは女性に限らず、これからの人類のあり方にも通じるイメージだと思います」
幾千もの花々をハーモニーに
今秋新たに登場した「ミス ディオール オードゥパルファン」は“ミレフィオリ”──色鮮やかな幾千もの花々の中をゆったりと泳ぐような、幸せな香りの旅へ誘うフレグランスだ。華やかさの核をなすローズやジャスミンの甘美さに、繊細なアイリスやスズランが響き合って生まれる、透明感あるハーモニー。優美でいて躍動的。センシュアルでいて爽やか。強くしなやかに現代を生きる女性像が、そこには浮かんでくる。
Photo: Shinmei(Product) Text: Keita Fukasawa Edit: Naho Sasaki