クロエ・セヴィニー独占インタビュー「常に挑発的であり続けたい」
世界最悪のパンデミックを駆け抜け、“アフターコロナ”をセレブレートするNY。そんな幸福感と開放感に満ち溢れた季節、NYのローワーイーストサイドで発祥したストリートウェアブランド「Richardson(リチャードソン)」は、ダウンタウンのスタイルアイコン、クロエ・セヴィニー(Chloë Sevigny)をコラボレーションパートナーに選んだ。彼女がデザインしたコラボアイテムについて、プライベートライフについても赤裸々に語った。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年9月号掲載)
──リチャードソンとのコラボレーションはどのようにスタートしたのですか。
「アンドリューと初めて出会ったのは1994年か95年くらい。とてもカリスマ性があって、すぐに意気投合しました。その後、彼がスタイリストとして成功し、自分のブランドを始めてからは、いつも『ウィメンズはないの?』って冗談で聞いていたんです。今秋、日本向けのスペシャルなコレクションを展開することになったタイミングで、ウィメンズを作ることになったので私が初のウィメンズデザイナーとして起用された、っていうわけ。“初”っていうのはなんでもクールでしょ(笑)」
──デザインのインスピレーションはどこから?
「ちょうどその頃、マイケル・ジョーダンのドキュメンタリー『ラスト・ダンス』をネットフリックスで見ていて、彼の着こなしからたくさんヒントをもらいました。スポーツウェアをオーバーコートとミックスして着る感じとかね。今回はアンドリューにとって初のウィメンズアイテムということで、チアリーディングやテニス用のユニフォームをもとにしたミニドレスも作りました。パンクガールたちにとって、ユニフォームを日常的に着用するのは定番ですから。ちなみに、中学生の頃は私もチアリーダーをやっていたんです」
──Tシャツにプリントされているポートレートも素敵ですね。
「99年か2000年の初めだと思うけれど、当時ソーホーにあったSWAYというクラブのダンスフロアで撮った写真なんです。そのときはたぶんスミスの曲が流れていたと思うのですが、まるでトランス状態といっていいほど没頭して踊ってますね」
──キャンペーン写真はどこで撮影したのですか。
「NYアップステートにあるキャビン(山小屋)です。森の中でストリートウェアを撮るというコンセプトで、ずっと親交のある写真家ティム・バーバーがとても親密な雰囲気で撮影してくれました。スタイリングはアンドリューがして、夏らしい自由なスピリットがあふれた写真になったと思います」
──90年代からずっとモードの第一線でも輝き続け、早くも30年が経とうとしていますが、ファッション観に変化はありましたか。
「変わらないところと変わったところ、両方あるかな。今いちばん気にしているのは着丈。いつも小さな子どもといるから、裾をまくり上げられちゃったりするしね(笑)。昔はいろんなものをミックスして着ていたけど、もう穴が開いていたり、シミがついたような服は着ないかな。それが大人になったってことなのかも(笑)。もちろん自分にはパンキッシュでちょっと風変わりな部分もあるけど、自分の全てをさらけ出す必要はないっていうか。今はもっときれいめな格好をするようになったかな」
──パンデミックでNYがロックダウンする直前に(ひと回り年下の彼と)ご結婚もされましたね。どのようにして出会ったのですか。
「ギャングギャングダンスってバンド知っている? そのボーカルのリジーに紹介してもらったんです。彼女が親しくしているKARMAというギャラリーにシングルの可愛い男の子がいるから会ったほうがいい!ってずっと言われていて。ある日、ギャラリーオープニングに行ったんです。初めてのデートはSOENというマクロビのレストランで。その後、モーガン・ライブラリーにフランケンシュタインの展覧会を見に行きました。第一印象は自分らしいスタイルを持っていて率直な人。とてもアーティですぐ魅了されました」
──そして間もなくお子さまも授かって。永遠のイットガール、あのクロエが40代半ばにして母親に? というので、みんな驚いたと思うのですが。
「私自身はとてもトラディショナルな家庭で生まれ育ったから、いつかは普通に結婚して母親になるだろうとは思っていました。これまでふさわしい相手に巡り合わなかっただけでね。数年前、別の人と婚約していたときに子どもを作ろうとしたんだけれど、うまくいかなくて、その関係が終わってしまったときに、もう母親になることはないだろうなと思ったんです。自分には甥が二人いて、子どもは好きなんですけどね。でもその後、セネシア(クロエの夫)と出会うことができて。ある夜、二人でクラブに行って踊りまくっていて、その流れで……(笑)、子どもを授かったのは本当にアクシデントだったのよ!」
──今年5月で1歳になったそうですが、子育てをしてみてどうですか。
「息子の存在は本当に喜びそのもの。私たちは本当にラッキーだったとしみじみ感じています。日々よく眠り、よく食べ、そんなに難しくはない子で。いま隣の部屋から叫び声が聞こえているけれども(笑)。撮影に連れていくこともあるし、これから子育てと仕事をどう両立させていくか考えているところです。私も両親には伸び伸びと育ててもらったから、自分の息子にも同じようにしたいと思う。父親がギャラリストだからアートの栄養はたっぷり与えられるわね」
──すでに多くの夢を叶えてこられたような気もしますが、いま何か夢はありますか。
「女優としてはいつも次の大役のことを夢見ています。『リチャードソン』とのコラボレーションもそうだけれど、常に挑発的であり続けたいし、自己表現できる新しくて面白いプロジェクトに関わっていきたい。もちろん、息子が健やかに育っていくこと、そして幸せな結婚生活を続けていくことも、ね」
RICHARDSON TOKYO
住所/東京都渋谷区神宮前4-27-6
TEL/03-6455-5885
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Photos: Tim Barber Hair: Dennis Lanni Makeup: Devra Kinnery Interview & Text: Akiko Ichikawa Edit : Michie Mito