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松尾貴史が選ぶ今月の映画『明日に向かって笑え!』

金融危機に乗じて夢と財産を騙し取られた元サッカー選手のフェルミン(リカルド・ダリン)と隣人たち。盗まれた財産を奪還して暮らしと夢を勝ち取るべくリベンジ作戦が始まる……。2001年のアルゼンチン金融危機を背景に現実の鬱憤を晴らす痛快な物語『明日に向かって笑え!』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年9月号掲載)

極上のスリルとユーモア

これはまた、すこぶる痛快な作品です。アルゼンチン共和国内で公開されると、記録的な観客動員と興行収益を得たとかで、24週間のロングラン興行となった大ヒット映画です。

2001年に起きた金融危機(債務不履行)によって翻弄される人々が描かれています。もちろん、物語は実話ではありませんが。アルゼンチンの寂れた田舎の町で、住民ががそれぞれなけなしの貯金をはたいて「みんなのために」出資したら、マンシー(アンドレス・パラ)という悪徳弁護士と狡猾な銀行家に詐取されてしまいます。もちろん泣き寝入りをしている場合ではありません。元サッカー選手で「アルゼンチンのジョージ・クルーニー風」のおじさん、フェルミン(リカルド・ダリン)が、気心の知れた隣人たちとともに資金の奪還作戦を練り始めます。まるで『ミッション:インポッシブル』のような作戦ですが、メンバーはそれぞれは心許ない呑気で不器用な皆さんなのです。原題は『La Odisea de los Giles』、訳すと「まぬけたちの長い冒険物語」という意味のようですが、ただの烏合の衆では収まらないのが面白いのです。

近年、「上級国民」という嫌な言葉と現象が可視化されることが多く、暗澹たる気持ちになっていますが、一部の人の利益のために、多くの市民が苦しむというのは、世界共通の症状なのでしょうか。金や力を持たざるものが栄える悪徳に対抗するためには、やはり連帯することが重要だということなのでしょう。世界中で起きている「分断」は、利権を貪る人たちにとっても都合の良い状態なのです。登場する隣人の台詞に「個人の権利は制度や国家よりも尊重されるべき」という一言がありますが、この映画全体に、連帯することの大切さが下地として貫かれています。

そして、冒険映画といってもいいスリルと、各人のユーモラスでコミカルなキャラクターが素晴らしく魅力的で、物語が進むうちにワクワクする気持ちが膨れ上がり、否が応でも肩入れしてしまいます。全編で心地よく聴こえるスペイン語が、何となく陽気で、どうにかなるさという気分にしてくれる効果もあるのでしょうか、普段あまり映画を見る時に体を動かすことはないのですが、気がつけば一緒に身振り手振りをしている自分に気がつき、勝手に恥ずかしくなってしまいました。

この映画を見て、コロナ禍の閉塞感を打破しましょう!

『明日に向かって笑え!』

監督・脚本/セバスティアン・ボレンステイン 
出演/リカルド・ダリン、ルイス・ブランドーニ、チノ・ダリン、ベロニカ・ジナス
8月6日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開
gaga.ne.jp/asuniwarae/

©2019 CAPITAL INTELECTUAL S.A./KENYA FILMS/MOD Pictures S.L.

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Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾 貴史Takashi Matsuo タレント、俳優、創作折り紙「折り顔」作家などさまざまな分野で活躍中。1960年、神戸市生まれ。著書に『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版社)など。YouTubeチャンネル「松尾のデペイズマンショウ」更新中。

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