カワイイを生み出す新世代クリエイター vol.2 なみちえ
いま注目のクリエイターの表現する新たな「カワイイ」とは? 私たちの心を一瞬で鷲掴みにするパワーを秘めた作品の作り手を紹介する。Vol.2は、着ぐるみ制作をはじめマルチな表現活動で話題のなみちえ。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年7・8月号掲載)
なみちえが探る“カワイイ”の可能性
着ぐるみ作家、アーティストであり、ラッパーとして音楽活動をする、なみちえ。彼女にとって「カワイイ」とは、再検討が必要な言葉だという。
「“カワイイ”の語源は“顔映ゆし”。かつて“不憫”や“気の毒”といった意味を持っていました。それを知ってから、誰かに対し使う時は慎重に、なるべく“素敵”と言い換える事もあります」
言葉は時代によって変化する。現在、「KAWAII」は海外でもそのまま使われるようになり、「病みカワイイ」などの造語や派生語も誕生した。
「今の“カワイイ”は2010年代とまた違う価値観になっています。だから過去の定義を払拭して、21年版にアップデートすることが、この言葉を使う者としての責任だと感じています。とはいえ、私もまだ研究中の身なのですが」
11年から作り続けている着ぐるみ作品は、自身の多層的なペルソナ(人格)を可視化させたもの。素材や表情、等身などを追求し、既存の着ぐるみやマスコットとは異なる独自の“カワイイ”を表現している。
「アニメ『プリキュア』や『とっとこハム太郎』などデフォルメされた“カワイイ”日本文化を吸収し再構成して、意識的に私の“カワイイ”を表現していると思います。それに加え、ヒップホップのミュージシャンという“着ぐるみ”を着ていることは、さらに多層的な表現になっていると考えています」
valknee、田島ハルコ、アッコゴリラ、Marukido、ASOBOiSMたちラッパーと結成したギャルサークル「Zoomgals」も、彼女の“ペルソナ=着ぐるみ”の一つ。
「人間は、脱げない着ぐるみだと思うんです。ラップもリアルを伝える音楽ではあるけれど、それも一つの着ぐるみ。何を着ても本物だし、何も着なくても嘘じゃない」
なみちえの作る着ぐるみは、作品としてだけでなく、ロックバンドOKAMOTO’Sのアーティスト写真や、映画『男の優しさは全部下心なんですって』の劇中にも登場する。
「自分以外が着ることで、新たな“カワイイ”を獲得したと思います。OKAMOTO’Sのみなさまが着ぐるみを真剣に着てくれている。その文脈の全てが“カワイイ”と思いませんか」
彼女が感じる普遍の“カワイイ”は、『シルバニアファミリー』や『星のカービィ』などのマスコットキャラクター、レースやシースルーなどのファッション。でも、疑問を感じるのは、誰かを見た目で評価するルッキズムの目線だ。
「二重まぶた、鼻の形、眉毛の形の流行などはなくならないだろうし、否定するつもりはありません。でも、自分独自のあり方は人種や性別、外見に関係なく、魂の持つかわいらしさで表現できるはずです。自分で着ぐるみを作り独自の表現を試みているのも、それを表現したいから」
独自の価値観が尊重されることで“カワイイ”が多様化され、希少価値を生むことで、自分のあり方を誇示することにつながるのではと話す。
「きっと、一生をかけてこの意味を模索するでしょう。言葉の持つ歴史にリスペクトしながら、今の“カワイイ”の定義を拡張していきたいと思っています」
Interview & Text : Miho Matsuda