ファッション界の新たなスター、グレン・マーティンスに聞く! DIESELデビューコレクション
数年前、彗星のごとく現れ、ファッション業界を揺るがした若き才能、グレン・マーティンス。イタリアのプレミアム・カジュアル・ブランド「DIESEL(ディーゼル)」の新クリエイティブ・ディレクターに就任して早9ヶ月。彼の待望のデビューコレクションは、先日ミラノ・ファッション・ウィークで遂にベールを脱ぎ、その全貌が明らかになった。
グレン・マーティンスが描く、創造性とサステナビリティーが融合した、DIESELの新たな時代とは
デジタル配信されたランウェイ・ショーは、90年台に一世を風靡したドイツ映画『Run Lola Run』を連想させる赤い髪の主人公が夢と現実の狭間で揺れ動く中、グレンらしいエキセントリックさと、DIESELの伝統や黄金期を彷彿させるスタイルがバランス良く混ざり合い、次々と登場する斬新なデザインに胸が高鳴った。裾にベルトをループさせたTシャツや、デッドストックデニムを使った作品、そして絞りの様な難易度の高い技術を用いたデニムジャケットなど、今回のコレクションはどことなくノスタルジックさを含みつつも新鮮で、何よりも若い活気に溢れていた。グレンの大胆な改革は、見事「新生DIESEL」を誕生させたと言っても過言ではないだろう。グレンのスタイルと言えば、構築的でコンセプチュアルだ。アーティスティックで知的な思考を持ち、独特の感性は人をあっと驚かせる様なデザインを生み出す。アントワープ王立芸術アカデミーで学び、2013年に「Y/Project(ワイプロジェクト)」のクリエイティブ・ディレクターに就任。2017年にはアンダム・ファッション・アワードを受賞し、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍するグレンを次に待っていたのがDIESELだった。ただ「Y/Project」の現職も兼任しつつ、DIESELのクリエイティブを牽引するのは至難の技ではないか?
「僕にとってこの2つのブランドは非常に対照的で、創作方法が違うからディレクションは簡単なんだ。Y/Projectはとにかく工芸的で実験的。そして表現が豊かだ。一方でDIESELは指向がはっきりしていて、生地や素材をどうやって組み立てるかに集中する。確かにDIESELの方がリアルクローズだけど、僕が作る服が着る人に自信を与えられればと思っている」
そう静かに語るグレンがDIESELで目にした光景は、グローバルブランドならではの規模の大きさだ。世界で展開するDIESELは、誰でも一度はそのデニムに憧れたことがあるだろう。グレン自身も「若い時にベルギー・ブルージュのバーで年齢を誤魔化して働いて買ったのが、DIESELのパンツだった」と微笑む。長い歴史に絶大な知名度、そして広い世代に響く世界的なブランドのトップに立ったグレンは、まず大企業だからこそ持つ影響力に着目した。
もう服を作るだけではダメだ
「2021年はもう服を作るだけではダメだ。世界的な影響力があるのであれば、人々の意識を変える責任がある」と彼は語る。「例えばソーシャル・サステナビリティーに関して。Black Lives Matterだったり、LGBTQ+の権利。そして環境保護も取り組んでいる」
特にファッション業界の環境汚染は深刻さを増し、一本のジーンズを生産するだけで数千リットルの汚水が出るという。そんな中、グレンはDIESELが掲げるサステナブル戦略「For Responsible Living – 責任ある生き方」の次のチャプターとして「DIESEL LIBRARY(ディーゼル・ライブラリー)」という、より環境に優しいプロジェクトを立ち上げた。購買頻度を減らし、長い間着ることができるジェンダーレスでベーシックなデニムウェアで構成され、使用される繊維や洗浄、そして加工方法は全て信頼性の高い資源利用に基づいて生産されている。
「着任してからまず取り掛かったのは、生産背景を変えることだった。そもそもデニムは寿命が長いからサステナブル。長年履いた方が味が出るし、山も登れる。その帰りにハイヒールに履き替えてバーにだって行ける。だからよりクリーンなデニムを作れば、益々貢献に繋がるんだ」DIESEL LIBRARYの商品は、全ての生産過程がタグに記載されるシステムになっている。
社会問題はユーモアを持って関心を持ってもらう
「レンツォ・ロッソとも話したんだけど、例えばトイレに行った時にデニムを脱いで、裏地に何か書いてあったら思わず読んでしまうよね。そうやってエコに関して学べたら面白い。DIESELはシリアスじゃなくて、常に楽しいブランドでないと」とグレンは笑った。重々しく社会問題を人に「教育」するのではなく、ユーモアを持って関心を高めた方が心に浸透しやすい。それを熟知しているのは、どんな時でもウィットに富んだ概念を忘れないDIESELならではだろう。
今後、コレクションの約40%をDIESEL LIBRARYが担うことになり、その後もより多くのアイテムの生産背景を変えていくなど、全商品がサステナブルになる日もそう遠くなさそうだ。「特に大企業だと、この様な改革に数年かかる。でもDIESELではたったの半年で実現できた。みんな変化する準備ができていたんだ」とグレンは感心する。
就任してから一年も経たずに、ここまでの革新を繰り広げる彼のパワーとカリスマ性には脱帽だ。そして何よりもブランドのヘリテージを理解し、再解釈したマーティンスの「新生DIESEL」は、まるで打ち上げ花火の様な華やかさと創造性で溢れている。
最後に、今回のコレクションは『Run Lola Run』と関係があるのか聞いてみた。するとグレンは嬉しそうにこう答えてくれた。「もちろんだよ!当初はDIESELのロゴに合わせる為にレッドヘアと白いTシャツを着たモデルが欲しかったんだ。そうしたら打ち合わせをしていくうちにLolaみたいだねって。僕にとって青春を象徴する映画だから、偶然とはいえ嬉しかったよ」明確なビジョンと共にDIESEL、そして今後ファッション業界を担っていくグレンの快進撃から目が離せない。
DIESEL
ディーゼル ジャパン
TEL/0120-55-1978
URL/www.diesel.co.jp
Interview&Text:Kyoko Yano Edit:Michie Mito