松尾貴史が選ぶ今月の映画『ジェントルメン』 | Numero TOKYO
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松尾貴史が選ぶ今月の映画『ジェントルメン』

舞台はロンドン。長年にわたって大麻で財を成してきたアメリカ人ミッキー(マシュー・マコノヒー)がビジネスを引退、売却すると噂に。その利権に群がった大富豪、ゴシップ紙編集長、私立探偵、マフィアたちの駆け引きが始まった……。『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スナッチ』のガイ・リッチー監督最新作『ジェントルメン』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年6月号掲載)

俳優が輝く! 新時代クライムサスペンス

最初に言いますと、ものすごく面白いので、見に行ったほうがいいです。これが結論です。いや、エキサイティングで、ローラーコースターのように振り回してくれますよ。『仁義なき戦い』や『ゴッドファーザー』の時代とは違う、麻薬密売やユダヤ人の富豪、チャイニーズマフィア、ゴシップ新聞、反グレ集団などのさまざまな組織やチームやアウトローが、敵をどう騙して出し抜くかという嘘とパワーゲームのカタログのような世界が縦横無尽に展開します。

大学を退学して、違法な大麻の栽培や販売をしてぼろ儲けをしているミッキー(マシュー・マコノヒー)が、自らのビジネスを高く売って悠々自適の生活を楽しもうと、大富豪に4億ドル(日本円だと500億円ほどでしょうか)で売買を持ちかけます。それが端緒となって、物語は想定外の方向に……。

とにかくマシュー・マコノヒーの格好よさにはひれ伏すしかありませんが、彼の腹心を演じるチャーリー・ハナムの、止まって見える高速回転の演技がまた素晴らしいのです。コリン・ファレルの誠実な存在も物語に程よい安心感を与えてくれる絶妙の味わい、ヒュー・グラントの下衆で下品だけれど知性があふれるキャラクターも秀逸、とにかく登場人物がみんな光りまくっているのです。

脚本も素晴らしく、次々と止めどなく繰り出されるシニカルで機知に富む洒落すぎたセリフが、役者の抑制された演技と台詞回し、そして贅沢な間合いで不自然に感じないという魔術付きで響きます。そして、重厚なベテランの手練手管で、この暴力的な展開をブラックユーモアも含めコミカルに見せてくれる洒脱には脱帽しかありません。

物語は、ストーリーテラー的にヒュー・グラントが虚実ないまぜの、映画企画のストーリーをチャーリー・ハナムに語って聞かせる形で、時系列を巧みに遡ったり、真実を明かす形で再現したりと、アクロバティックな構成で進んでいきます。彼はもう、役者としてだけではなく、話芸の語り部として名人芸を見せてくれていて、これだけでもお得感満載です。二人がバーベキューをやりながら話すところもコミカルで、なぜかグラントが網に手を伸ばして「あちち」的なリアクションをするのですが、あれはアドリブだったのでしょうか。蛇足ながら、和牛は英語でも「ワギュウ」ということを初めて知りました。

闇の権力闘争の話ではありますが、そこは何でもありのバイオレンス一辺倒ではなく、権力を持つ者としての品格のようなものが『ジェントルメン』(同じくイギリスを舞台にした大ヒットシリーズ『キングスマン』とは何の関係もないようですが)という、この作品のタイトルに表されているように、王としてのまさしく王道を下敷きに編まれているからこその清々しさなのでしょう。

『ジェントルメン』

監督・脚本・製作/ガイ・リッチー
出演/マシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナム、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ドッカリー
ジェレミー・ストロング、エディ・マーサン、コリン・ファレル、ヒュー・グラント
全国公開中
www.gentlemen-movie.jp

配給:キノフィルムズ
© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

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Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾 貴史Takashi Matsuo タレント、俳優、創作折り紙「折り顔」作家などさまざまな分野で活躍中。1960年、神戸市生まれ。著書に『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版社)など。YouTubeチャンネル「松尾のデペイズマンショウ」更新中。

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