【連載】これからの服作りを探る、デザイナー訪問記 vol.8 AURALEE | Numero TOKYO
Fashion / Feature

【連載】これからの服作りを探る、デザイナー訪問記 vol.8 AURALEE

ミニマルで上質な服づくりやオリジナルな視点を貫く、日本発のインディペンデントなブランドにフォーカスする連載「これからの服作りを探る、デザイナー訪問記」。デザイナー自ら、作り手の視点でコレクションを解説し服へ込めた熱い思いを語る。見た目ではわからない(知ったら着たくなる)服の真髄を徹底深掘り。
第8回は「AURALEE(オーラリー)」のデザイナー岩井良太にインタビュー。

素材・生地の開発とともにある服作りが最大の武器

【2021SS】

ブルゾン ¥74,800

ミリタリー×ハンティングをエレガントに融合

GIZAコットンのいいとこ取りをしたフィンクスコットンを、縦糸と横糸の色と織り方を変えてリップストップ柄の生地を作りました。高密度で織っており、リップストップの組織に凹凸があるので、肌離れよく涼しく着ることができます。個人的にもすごく好きな素材で、2017年にも一度使っています。シワも気にならないため扱いやすいのも特長です。

ミリタリーっぽいスタイルですが、縦横で色を混ぜることで、微妙な陰影が生まれ品が出ます。表側には胸ポケットを付けず、内ポケットのステッチを見せるだけの、削り過ぎず足しすぎないデザインを心がけました。また襟元にはハンティング風のベルトを付け、裏地にウォッシャブルレザーを使用することでお手入れのしやすさや扱いやすさも考慮しています。

シャツブルゾン ¥57,200

メンズライクなシルエットと色っぽい素材とのコントラスト

凹凸感のある立体的なテクスチャーが特徴の生地は、縦をシルク、横をコットンで鹿の子織りしてから塩縮加工を施しているため、ツヤとハリがあって、しかも軽い。

全体的に大きめの作りで、パジャマっぽい開襟シャツとクロップドの太めのストレートパンツのセットアップに仕上げています。男性的なデザインですが、生地に光沢があり、男性が着るにはちょっと色っぽすぎるので、ウィメンズに落とし込みました。

半袖シャツ ¥52,800

笹和紙から生まれたモダン・クラフトな生地

和紙で薄くて太い扁平糸のような糸を作ってから、低速でじっくり織ってバスケットのような織柄の生地を作りました。糸の間にコットンを打つことで、強度も兼ね備えています。原料は笹和紙という熊笹の繊維を糸にしているため消臭効果もあります。ハリがあってレザーのように見えたり、ちょっとクラフトっぽい雰囲気も気に入っています。

形は長袖だと強過ぎる印象があるので、半袖で抜け感のあるほうがバランスがいいかなと。ゆったりすぎず程よくコンパクトなので、シャツのラインがきれいに自然な形に出ます。他にもパンツやヘムをフリンジ加工したスカートで展開しています。

ニットドレス ¥57,200

1日に2、3着しか作れない超ハイゲージニット

素材的には、すごく繊細なウールとリサイクルポリエステルを混紡しています。ポリエステルが入る分、強度とハリが出て扱いやすいので春夏に着るウールにちょうどいいと思います。総針編みをこんなにハイゲージに編める機械は日本に数台しかなく、それを扱う工場も2、3社しかありません。その上、無理を言ってかなり度詰めして編んでいるので非常に時間がかかり、1日に2、3着しか作れないほど。糸をたくさん使用しているため重量感があり、落ち感も美しい。身幅は広め、縦の編み地を生かしたストレートなシルエット、ハイゲージならではのきれいな編み端の仕上げなど、モダンに見えるバランスを探りました。

ステンカラーコート ¥104,500

サマーウール100%の贅沢なステンカラーコート

スーパー120のウールのキャンバス地ですが、かなり度を詰めて打ち込んでいて、肌触りが滑らかで程よい光沢があり、縦糸と横糸の色を変えることで、玉虫っぽい色合いが特徴です。さらに撥水加工を施し、ハリがあってシワにもなりにくいから持ち運びもしやすい。形は、シンプルなラグランの2枚袖のステンカラーコートに落とし込みました。ウールは熱をかけて縮絨させたり、起毛させたり、後加工次第で温かくも涼しくも着られる、遊びの効く素材なので、オーラリーではよく使っています。

インタビュー
「ありそうでなかった生地を作るために試行錯誤を繰り返す。その時間が一番楽しい」

──ファッションに興味を持つようになったきっかけは?

「中学の頃、地元・神戸で、モトコー(元町高架下通商店街)って言われてる高架下に古着屋が集まっているエリアがあって、そこに兄に連れて行ってもらったのが、ファッションというか服自体に興味を持ち出した始まりです。アメリカやヨーロッパの古着やA.P.Cやヘルムート・ラング(HELMUT LANG)の服を好きになって。お年玉でヘルムート・ラングのジーンズを買いに行ったりしてました。古着もデザイナーブランドも両方好きで、いまだにどちらも変わらずに好きです」

──他にどんなブランドがお好きでしたか? ファッション遍歴を教えてください。

「時代的には裏原が流行っていましたが、日本のブランドならサイ(Scye)とかカラー(kolor)が出はじめた頃で、僕にとって、その人たちはヒーローみたいな存在です。クラフツマンシップを感じるしっかりとした作りの、哲学を感じるブランドが好きだったんだと思います。初めは古着屋になりたくて、古着屋でアルバイトをして、そこで自然と、年代、軍ものがどうとか知識が増えていきました。」

──単なるファッション好きから、それを職にして、デザイナーになるまでに至った経緯は?

「当初はデザイナーを目指していたわけではなく、服に関わる仕事をしたいと思い、大学卒業後、東京出て飛び込みで、ノリコイケ(norikoike)というブランドで働かせてもらったのが始まりですね。自分がデザイナーになるというは考えていなくて、パタンナーに興味を持っていたせいか、コンセプトやテーマ性よりも、服そのものの作りや構造に興味がありました。生地はもともと好きでしたが、当時はそこまで自覚していなかったように思います。ですが、ノリコイケでは小規模なブランドにもかかわらず、糸からオリジナルで作っていたのを見て、服の構造や素材をより深く知るようになり、ますます興味が湧いてきました」

──ノリコイケの下で働いた経験によって、服への考え方、アプローチの仕方が培われた?

「そうですね。好きだったからこそ、素材、糸、原料、織り方などに関しては、いくらでも頭に入ってくるというか。作りたい生地に対して、素材や織り方など、今までありそうでなかったものを作るために、試行錯誤を繰り返しています。でもそれが一番自分がこだわれるポイントですし、素材を考える時間が一番楽しいんです。それを自分の武器として、コンセプトの一つにしたいと思い、ブランドを始めました」

──コレクション作り、服作りは、まずは素材から考えていくということですか?

「まず、どんな生地を作ろうかというところから始まり、触感や生地の質、どういうムードにしたいかを決めていきます。それと並行して色を決めます」

──生地と色を決め、その後、形に落とし込んでいくと。
「そうです。機屋さんとやり取りをしてても、そもそも誰も作ったことのない生地なので、目指す方向性が全然違ったりすることもあります。いざ生地が出来上がったら、この服とは合わないからもっと違う形にしようとやり直したりすることも多いです」

──それでも生地に関して、新しい挑戦をしたいという思いが強いのでしょうか?

「ずっとやり続けるんだと思います。例えば、定番の生地でも、本当にこれがベストなのか、それよりも良いものを作ろうと、サンプル制作を試みますが、出来上がりを見比べてみて今までの生地のほうがよければ、そのまま継続して使っていくというように。定番でも改良を続けていきます」

──機屋さんたちは、そういった実験的な試みには協力的なんですか?

「ブランドを立ち上げた初期から、変わらずに同じ機屋さんやニッターさん数社とお付き合いしています。すごくわがままを聞いもらっている分、それに応えるというか、こちらもそれなりにちゃんとオーダー数でお返ししないとだめだという意識を持っています。そうやって本当に最後までわがままに付き合ってくれるところと一緒にものを作っている感じです」

──素材にこだわるからこそ、必然的に日本の機屋さんと取り組むことになっていった?

「そうですね、意思疎通ができて、最初から最後まで自分の目の行き届く範囲で、みたいなところはあります。今はすごく恵まれた環境で、良いチームになってきたように思いますね」

──生地の原料そのものの生産背景も意識していますか?

「モンゴルは定期的に訪問し、あとオーストラリア、ニュージーランド、ペルーでアルパカを見てきたり。どういう人たちが、どういう生活しながら、どうやって羊、カシミヤ、キャメル、アルパカを飼育しているのか、一通り見せてもらったりしています。トレーサビリティにちゃんと取り組んだ上で、質の良いものを届けるということは意識しています」

──自分が使う素材の生まれる現場を自身の目で確かめることは服作りにも影響を及ぼしているのでしょうか?

「なんとなくですけど。別にそれが直接的に関わるわけではありませんが、ちょっとした言葉の重みというか、ものを作る責任感というか、自分自身の熱の入り方はやっぱり変わってくるので、それはお客さんにも伝わるのかなと」

21SSコレクションより
21SSコレクションより

──素材と並行して色を決めるということですが、ブランドにとって色も重要な要素だと。

「色については、すごく気を使っているんです。初めに全体的なトーンを決めて、そこからか具体的に当てはめていくんですけど、何回も何回も足して、たくさんのいろんな候補から、どんどん絞っていく感じです」

──色のひらめきはどこから?

「あまり直接的な色はそんなに好きではないので、身につけるものにはもうちょっと馴染むほうがいいなと思います。そして、できるだけ上品に見える色味。例えば黄色といっても、今シーズンの気分はベージュが混ざっているようなくすんだ色を使ったり、ピンクでもパープルでもない、ラベンダーがかったピンクのようなものだったり。そういうどっちつかずのニュートラルな色が好きなんです。何色というふうにカテゴライズできないような、できるだけどこにも属さない色を考えます。
最初は特に意識して色付けはしてなかったんですけど、やり続けていく中で、今まで付けてきた色を振り返ったら、似たような曖昧な色ばかりだったから、結局こういうのが自分は好きなんだろうなと気づいた感じです」

──では、シーズンごとのコレクションの方向性や全体のムードはどのように構成していくんですか?

「まずは、どういう素材を作りたいかを最初に考えるのですが、そこで、ぼんやりとシーズンの気分があって。例えば、軽くてひらひらするのか、重いけど落ち感がある、とか。ガサガサしているのか艶があるのか。そこに色や形の要素が加わって少しずつ自分の頭の中にあるムードに近づけていきます。普段は、旅から影響を受けるわけではありませんが、2021SSシーズンは、ヴィヴィッドな色や自然の風景を思わせるカラーを取り入れたり、リゾートっぽい異国情緒のあるような、旅を感じさせるテーマになりました。今まで行った旅先での空気感を思い出しながら、全体的に作っています」

21AWコレクションより
21AWコレクションより

──ところで、服作りにおいて、素材、色といった直接的な要素ではなく、読書や映画など自分の趣味や知識から影響を受けることはありますか?

「そんなに意識してませんが、姿勢としてはありますね。少し前に、現代アーティストの李 禹煥(リ・ウファン)の『余白の芸術』を読みました。それが知性的で、元々作品も好きでしたが、ものを作るときの考え方としてとてもいいなと感じました。あとは、なんか日々のちょっとした生活の違いや、環境というものは意識しますね。見た通り、オーラリーの服は結構普通なので、真っ先に服に目がいって、あの人の着ていた服はすごい素敵だったなという印象よりは、さっきの人の雰囲気はなんかよかったなと感じてもらえるような服、そういう考え方です」

──着ている人を後押しする服というような。

「そうですね。あとは着たときに、なにかしら新しさを感じてもらえたら。見た目で明らかな違いを感じるというよりは、着たら、手触りや着心地で違いを感じてもらえるような服にしたいと考えています」

──シンプルな服を新しくし続けることって難しいと思いますが、今後のブランドのあり方をどう考えてますか?

「確かに難しいですね。でもやっぱり新しい空気や雰囲気は、シンプルだろうが何だろうが必要だといつも思っています。具体的なゴールがあるわけでもないし、作ったものに対して、素材も形も常にもうちょっとよくできたんじゃないかと、毎シーズン感じています。ブランドを続けていきたいという思いはもちろんですが、毎シーズン自分の中で納得できるような新しいものだったり、ハッとさせるものを作っていきたいですね」

AURALEE HEAD STORE
東京都港区南青山6-3-2 QC cube Minamiaoyama 63 1F
TEL/03-6427-6336

AURALEE(オーラリー)
https://auralee.jp/

【連載】これからの服作りを探る、デザイナー訪問記

Photos:Kouki Hayashi(Item, Portrait) Interview & Text:Masumi Sasaki Edit:Chiho Inoue

Profile

岩井良太Ryota Iwai 1983年生まれ。文化服装学院を経て、「ノリコイケ」などで経験を積んだ後、生地問屋クリップ クロップで、2015年春夏シーズンより「オーラリー」をスタート。17年、東京・南青山に路面店をオープン。18年に第2回「FASHION PRIZE OF TOKYO」を受賞し、19年秋冬コレクションにてパリコレデビューを飾る。
佐々木真純Masumi Sasaki フリーランス・エディター、クリエイティブ・ディレクター。『流行通信』編集部に在籍した後、創刊メンバーとして『Numero TOKYO』に参加。ファッション、アート、音楽、映画、サブカルなど幅広いコンテンツ、企画を手がけ、2019年に独立。現在も「東信のフラワーアート」の編集を担当するほか、エディトリアルからカタログ、広告、Web、SNSまで幅広く活動する、なんでも屋。特技は“カラオケ”。自宅エクササイズ器具には目がない。

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